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ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様  作者: とっぷパン
一章 ”カリム村での旅支度” の段
38/65

8話~マルグ換金店

偶々拾ったモノが高価なのは異世界冒険の必須体験?


「ふう、一時はどうなる事かと思いましたが、無事にお金を手に入れる事が出来て安心しました。……あまり値段交渉に関してはお役に立てませんでしたが、奏慈殿がお売りになった物は確実に王国に利益をもたらしてくれると、私は信じております」


 契約が無事に完了してから既に一時間程、僕達は未だマルグ換金店内に残っている。先程手付金感覚で頂いた金貨五十枚を九ちゃんに渡して、ジェミニさんと二人で焼肉の買い取りをしてい貰う為に行ってもらった。ちゃんと残りの八百九十本全部買い取って来た九ちゃん達は、大きな箱に塩漬けにしたエルダームの骨付き肉を入れて荷車を引いて帰って来た。

 その道中で、ジェミニさんを探していたフォルカさんの使いであるカリムさんに出会ったらしく、帰り道は彼に荷車を引かせて来たとの事。九ちゃんの術による大幅な補助があったにせよ、一個五キロ程もある肉の塊が千本弱……カリムさんの顔色には疲労がありありと浮かんで、唯今絶賛床にヘタって居ります。五トン余りの肉を荷車で引いて来たのだから、軍人とはいえまだ新人の彼が床に這い蹲るのも無理はない……。


「何、こうして金が手に入ったのだからそなたが必要以上に気に病む事はないぞ。うむ、やはり焼きたては美味いのう!」


 そんな彼を余所に、九ちゃんは果実のジュースを飲みつつお肉に齧り付いている。当分の食料を確保したお陰で彼女も嬉しそうである。雲龍帝さんも実に美味しそうにお肉を頬張っているし、僕もご他聞に漏れず大量のお肉を巾着袋に収納した後に食事へ参加している。

 なんで未だにマルグ換金店で肉に噛り付いているのかと言えば、査定時に鑑定士のお姉さんから言われた事が起因している。何のお話があるのか分からないが、もう少しで最後の客さんが換金し終わるので閉店まで待っている状況なんだ。


「主様、今回手に入れた肉は塩漬けしてあるとの事ですが……むぐむぐ。保存の観点から塩漬けは仕方ないとしても、いずれはもう少し――むぐむぐ――味の種類を増やしたいものですね~」


「そうだね、しっかりと飲み込んでから話すと雲龍帝さんの提案は万点かな。この地域の産物を色々と見てからじゃないと如何ともし難いけど、そこは何とかしたいよ。……あ、カリムさん。カリムさんのジュースはここに置いておきますね」


「……はひ……」


 お腹が膨れた龍帝さんは時間も時間なので既に夢の世界へと旅立っておいでだ。椅子じゃ難だからとお店側で用意してくれた高そうな長座布団を、テーブルの上に敷いておねむさせて貰っている状態。やたら高級感溢れる座布団の寝心地が気に入ったのか、はたまた旅の疲れが一気に押し寄せたのか直ぐに寝息を立ててぐっすり。成長期は睡眠が大切なのは龍帝さんであっても変わらない事に、皆から笑みが自然と零れた。


「――以上ですね。ありがとう御座いました。またのお越しをお待ちしております!」


 夜になっても元気がいい娘さんの挨拶に見送られて店内を後にする男女二人連れのお客さん。思ったよりも高額で買い取ってもらったのか、どちらもホクホクとした笑みを湛えて満足げだ。男性の方は背中に剣を携えていたから剣士か何かの職業だろうか? 鉢鉄に蒼い宝玉っぽい飾りのついた羽冠がなんだか昔のゲームに出てくる勇者様みたいだ。何かの印が入った盾を片手に、ここの村人さん達よりも少し上等な旅装束に身を包んでいる。

 連れの男性よりは若干背の低い見た目僧侶っぽい女性は、肩まである髪が外側につんと伸びて清楚ながらもボーイッシュさを感じさせる。こちらは赤い宝玉がついた杖と丸に十字の文字が入ったロザリアを胸に垂らし、肩からマントを掛けて如何にも旅装束っぽいね。


 さて、そう言えば鑑定士のお姉さんはあれ以来姿が見えない。今店内の見える範囲に居るのは受付嬢の娘さんと査定金額を受け取る時にいたお兄さんと数人の男性スタッフ、それにウエイトレスの女性が二人だけ……。できればそろそろお暇したい時間帯で、日夜構わず走り続けてきた疲労もそれなりに溜まっている。唯でさえ大根みたいな足が、広島県の某酵素関係の工場で作られた巨大大根並みに張っているよ。


「それにしても、時間が取れるかどうか言って居った割には誰も来んではないか……。そろそろ妾もぽんぽんが一杯で眠気がのう――くあ~ぁ……ふみゅみゅ、奏の字よ抱っこじゃ」


「ふあ~……しょうがないな~、ほら」


「うむん、好きに計らえ~……」


 彼女のお気に入りであるもっちりお腹枕を堪能させる為に、後ろから抱っこする形で僕の太腿に座らせておく。彼女と出会ってこの方十数年、既にぽっちゃりお腹の虜になっている九ちゃんは小さな身体から徐々に力を抜いていき、幾分もしない内に静かな寝息を立て始めた。これで、見た目がお子様な九ちゃんと見た目も中身もお子様な龍帝さんが睡魔により退場。後に残るのは比較的大人に見えるジェミニさんと見た目も中身も大人な雲龍帝さん、それに成長期の真っ盛りの僕と三人だけになった。


「こっちよ、お母さん――あら、随分と待たせたみたいでごめんなさいね」


 僕の目蓋まで下がって来た所で漸く件のお姉さんの登場である。寝ぼけ眼を擦って視線をやれば、鑑定士のお姉さんと共に一人の老婦人がテーブルの前に立っていた。


「お前さんがあの品物を納めてくれた若者かい? ――ふん、何だいこのアルムスライムが擬人化した様な体付きは。一端の男ならもう少しガッチリと身体を鍛えんといかん!」


 おおう、出会い頭にこの罵詈雑言、お陰でお目眼が冴えて漸く意識もシャッキリしてきた……!

 白髪と銀髪の境目の如き淡い髪をお団子にして頭に一つ。所謂、昭和のおばあちゃん像(おっかないver)を体現したような小柄で小さ目の丸眼鏡がチャームポイントな老婦人。足腰はしっかりしているのか杖を使う事もなくしっかりと日本の足で立っていらっしゃる姿からは、長年の経験で培った商売人としての風格が滲み出ている。滲みすぎてちょっと怖いくらいだよ。


「お母さん! 折角私達のお店に来て下さった方達なのだから、いつもの調子で言っちゃ駄目ですよ!」


 おばあさんのきついながらも悲しい事実を言った言葉に、苦笑しつつも慌てて嗜めるお姉さん。しかして、おばあさんはそっぽを向いて何処吹く風と言わんばかりに口笛を吹いている。あ、これは煮ても焼いても食えない御仁の典型的な事例だね。


 会話からすると親子であろう事が伺えるお姉さんとお祖母さん。だけど、実の親子って言うよりは義理の娘、つまりは嫁さんと姑さんの関係にも見える。どれが本当の事でも至極どうでも良い話に聞こえるけど、とりあえず先程伝え忘れた事も一応伝えておこうかな?


「で、話って一体何でしょうか? 出来れば手短にして頂けるとこの子達の為にもありがたいのですが……」


「そうね。時間も時間だし、早速本題に入らせてもらうわ。あ、でも自己紹介くらいはさせてね? 私の名前はロロット、ロロット・ベタングール。それで、私の隣に座っているおばあちゃんがマルグ換金店の店主、マルグ・ベタングールその人よ」


 ほ~ん、お店の主さんとその娘さんがご登場って訳か。確か、この店を紹介してくれた焼肉屋のおっちゃん事、ウェルヴァさんが看板娘さんに自分の名前を言ってくれと話していた。カリル村で商売をしていればお互いに自然と知り合いになるだろうし、おっちゃんも知ってる店だからこそ紹介してくれたんだと思いたい。


「じゃあ、僕の方も自己紹介を……。僕の名前は奏慈、修行の旅をしながらこの村に来ました。膝で寝ている娘は九ちゃんで、右隣に座っている女性がクラウディアさん。左隣に座っている女性が聖地カルルの森で迷子になった際に知り合った方で、ジェミニさんです。後、テーブルで寝てる竜さんはクラウディアさんのお友達。それと、此処のお店は広場で焼肉の屋台をやっていたウェルヴァさんからの紹介できました」


 僕の紹介で起きている者だけが順番に軽く会釈をして挨拶を済ませる。お腹が膨れいる事も相まって上機嫌な雲龍帝さんも、お店に入る時は自分より遥かに歳が下のマルグさんに歳の事でダメージを受けた事は忘れたみたい。

 そして、紹介をして貰った時に言われたウェルヴァさんの名前を出した途端にマルグさん達の表情がそれぞれに変わったのである。


「けっ、何だい……。お前さん、あの馬鹿から話を聞いてきたのかい?」


「あらあら、貴方達あの人に会ったの? どう、今日は稼いでたかしら……!」


 店主であるマルグさんは苦虫を噛み潰した様な渋い顔で、対してロロットさんは嬉しそうにおっちゃんの稼ぎを質問してきた。知り合いだろうとは思っていたけどこれはもう少し深い関係なのかもしれないね。


「あ、お姉ちゃん達お父さんに会ったの?」


「え? お父さん?」


 そこに新たに加わった別の声。それは最初に受付をしてくれた少女の物だった。

 ウェルヴァさんを自身のお父さんだと言うこの娘さんは、ロロットさんとマルグさんを指差してこう言い放ったのだ。


「うん、だってテッサとロロットお母さんとマルグお祖母ちゃんはお父さんと家族だもん! あ、じゃあお父さんのお店で焼肉を買ってくれたのね? 毎度ありがとう御座います!」


 にこやかな少女特有の邪気の見られない笑み、しっかりした娘さんである。

 しかし、ちょこっとした大事で下手をやらかしたあのおっちゃんが、一家の大黒柱で彼女のお父さんか……色々心配だな~。僕らが残らず買い取ったから良いものの、あれは下手しなくとも相当な赤字に転落する事案だと思うよ?


「やれやれ、お前さんのその顔付きからするにあの馬鹿息子はまた下手打ってたね……。仕様の無い、だから店を伝えと散々言ってきたのに。フフ、幾つになっても手の掛かる子だね……まったく」


 大きく溜息を吐き手の掛かる子供を心配する母親の顔で苦笑するマルグさん。如何やら、物語で良くありがちの天ぷら――じゃなかった、テンプレの親子で不仲って展開は無さそうで一安心。よそ様の家庭事情に突っ込むなんて幾らなんでも展開が速すぎるよ。せめて後一ヵ月後くらいにして欲しいモノだ。


「ええ、正に下手を打つ寸前でした。奏慈殿が買い取って下さったから良いものの、エルダームの骨付きを千本も仕入れて告知する事無く売りさばこうなんて幾らなんでも度が過ぎますよ」


 家族の皆さんが三者同時にガクッと肩を落とす姿を見て、ジェミニさんが話す言葉が正解であると如実に物語っている。今回は結果的に良い方向へ行ったからまだしも、次からは誰か頼りになる人を付けてあげた方がいいね、と提案すると二つ返事で採用されましたとさ。


 ハハハ――で、結局マルグさん達の御用って何?



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