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ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様  作者: とっぷパン
一章 ”カリム村での旅支度” の段
37/65

7話~買取の結果

焼肉売りのおっちゃんから教えてもらった換金所へ向かう御一行。何やら妖しい雲行き?

 お店に備え付けられている大きな柱時計が時を刻む中、ついに僕らの番が来た。


「新鮮な果実七種、計七十袋の価格ですが……。鮮度、品質共に最高ランク品と鑑定させて頂きまして、締めて――ルマン金貨五万一千六百七十枚とルマン銀貨三百枚。それにルマン銅貨七百八十枚で買い取らせて頂きますが、宜しいでしょうか?」


「えっ!?」


「お気に召しませんのでしたら、此方と致しましては金貨をもう五千程でしたら御用意する準備がありますが――」


「ちょっ!? ちょっと待って、少し待って頂戴……! 奏慈殿、一体何を換金したら此処まで金額が跳ね上がるのですか!」


 そんな事を仰られましても……僕らはカルルの森に生えていた木々から頂戴して来ただけだからな~。

 いざ、プライス・オープンしてみたら途轍もない金額を提示して来たマルグ換金店。換金を目的に店内で休憩している方々も、談笑しながら楽しんでいた飲物や食べ物を噴き出してこちらを凝視している……勿体無いな~。

 ちなみに参考としてさっき買ったお肉は銀貨で支払われていて、銅貨は千枚で銀貨一枚、銀貨は千枚で金貨一枚と数えられているみたい。更に金貨の上には白金金貨なる物まで存在するらしいけど、金額が大き過ぎて個人間では滅多に使われる事は無いらしいってさ。ちなみに、白金金貨は金貨一万枚と同じらしい。

 先のお肉は希少性も含めて大体五キロ前後の塊を一本百ルマンで販売していた。つまりは、銅貨百枚で五キロ肉一本の値段となる訳でして……。高々果物に着ける値段としては破格もいい所と言う訳らしい。美人が台無しの凄い剣幕を以ってして話してくれるジェニミさんがそう言っているんだから、きっとそうなんだろう……。


「何、妾達は其処らで生っておる木の実を取って食い繋いで来ただけよ。後で、と打算が無かったと言えば嘘じゃが、妾も些か金額が大きすぎて吃驚しておる所じゃて……。内訳は聞かせ貰えるのかのう?」


「こちらになります」


 その言葉と共に九ちゃんへと店員の男性からB5用紙位の羊皮紙が手渡される。カウンターテーブルから丁度頭が出ている位の彼女の手にある羊皮紙を皆で覗き込むと、そこには細かく値段が付けられてた果実の一覧表が記されてあった。


「何々……ほう~、あの果実がの」


「ヒッ……!?」


「ほうほう、この果物一つで先ほどの焼肉が随分買えますな~主様!」


「クルァ!」


 愉快そうに笑みを浮かべる九ちゃんとは対照的に、一覧表を見たジェニミさんの顔は大いに引きつっている。小さく悲鳴まで漏らしたりして、一体僕らが採って来た果実はどういう代物なんだ? 雲龍帝さんは概ね僕と同じ反応だし、龍帝さんはお肉に反応したみたいだけど。

 何々、ペルの実一房に付き銅貨四百枚、ジェブの実一個に付き銅貨七十枚。アデムの実一個に付き銀貨十二枚、タチの実一個に付き銀貨二枚――実によって結構なふり幅があるのが見て取れる。多分希少価値が付いて回っている所為だろうとは容易に想像できるけど、お肉よりも断然高い果実が殆どってのも凄いね。


 記載されている名前と果実の映像が今一合致しない中、それでも高級な品物を取って来たんだなと他人事の様に眺めている。すると、記されている果実の一覧表を見て震えていたジェニミさんが、極寒の地で海風に震える子ペンギンみたいな手で僕の肩を掴んで来た。

 あ、その震えがお肉を揺らして良い感じなマッサージ効果が――


「奏慈殿……。貴方が採って来られた物は確か聖地カルルで迷った時手に入れたと、そう言っておられましたよね?」


「ええ、そうですよ? ここに来る途中で散々説明したじゃないですか」


 風呂敷結界超特急での道のり、暇を持て余した同時に走る振動から来る酔いをやり過ごす為にフォルカさん御一行と出会うまでの経緯などを話したりもしたんだ。さすがに出自の事は話したりはしてないし、仮に話した所で理解される文化が築かれているかどうかも分からない現状では、少し話題にするには憚れる。

 だから、僕らの日本国の語源である”日出る国、日ノ本”から来ましたと濁して伝えましたよ。一様によく分かってないって顔してましたけどね。


「実は現在、アルバス王国を含め世界ではこういった果実を人工的に栽培する研究が進められて久しく、どれもこれも天然物には敵わず良くて三級品止まりの状況。何故人口品が研究されているのかと申せば、これらの品々は特定の場所にしか上手く育たない為に量産が効かない産物だから。それに加えて、貴重な品々の多くは精霊様やエルフ族と言った特殊な能力を持つ存在が栽培している事が分かっており、市場や国で取引されて個人が手に入れる場合は空に浮かぶ星の欠片が地上に落ちる確率とまで囁かれているのです」


 おおう、凄い早口で巻くし立てられちゃった。ま、彼女の話を簡潔に分かりやすく纏めると……凄い珍しい珍品て事かな?


「その代表例がこれ、モリリンの実が最も適しています。この実は聖地カルルの森で唯一無二の大精霊様、地の大精霊モリリン様が雲龍帝様の庇護の下で出来たお時間をして育てている物と言い伝わっております。そして、彼の大精霊様は滅多な事で龍帝様や他の大精霊様方以外の者とは会う事はしない……。かつて、ヒューマニアンの有する歴史に置いて出会った者は唯一人、勇者伝記に記されている大勇者様だけと」


 ふ~ん、相当な照れ屋さんみたいだね。その大精霊さんは――――って、そういえばあの時何処からか視線を感じた気がしたけど……。もしかしたら、その視線の主が地の大精霊モリリンさんだったのかもしれないね。ま、そこはドルゲさんが手配してくれる手筈のお宿に着いてから雲龍帝さんに聞くとしよう。知り合いだって話だから、きっと彼女見た事や食べた事があるかもしれないし。


「ですから、天然物のモリリンの実が市場取引された時は国家が動いてくる場合もあるのです。その希少な産物を袋で十も採って来るなんて、国や貴族が聞いたらまず確実に卒倒する大事なのです!」


 うん、これはあれだ。もしかしなくても、とても厄介な代物……それこそ神話に登場するような十握剣・天之尾羽張を田舎の少年が古美術商に換金してくれと頼みに来た感じかな? まあ、それをやったのもあーちゃんに頼まれた昔の僕なんだけどさ……。


 ま、それはさて置き。僕が持ち込んだ物がとんでもない一品である事は理解した訳だけども、さすがにこんな金額になるとこの場で一括でとは行かないだろう。それに、初めて持つ異世界のお金としても少々処か金額が巨大過ぎる気がしてならない。

 僕は別にこの世界の住人ではないから、この世界で重要視されている物や貴重な物を所持したいと言う願望はほぼ無い。が、しかしだ。この世界の住人にとって見れば僕は唯の大金を手に入れたぽっちゃりさんにしか映らないだろう。人ならば誰しも巨大な額の金品や貴重な物は手中に収めたいと思うのが当然で、その物欲が理性を超えた先には争いが生まれ悲劇が始まると相場が決まっている。

 その証拠に、もう既に殺気を滲ませている柄の大変宜しくない御方がチラホラと見受けられる始末。この面子を見たら誰しも組し易い人達に見えて当然とも言えるが、そこはそれで全くの逆なのが彼らにとっての最大の悲劇だけどね。恐らく、一番力の絶対値が低い龍帝さんだけでこの場に居るヒューマニアンの方々は容易く壊滅させられる。高々ちょっと腕に覚えがある程度ならば、龍帝さんの攻撃が掠めた程度でもボーリングのピンの如く吹っ飛ばされる事だろう……真に悲惨で自業自得な喜劇だよ。


「はぁ、はぁ……こ、此処まで話しておいて何なのですが、国家に属する者としては是非お売り頂きたいと私は思っております」


「「「だあぁぁ~……」」」


「なんぞ大変な事態かと思うて此処まで聞いて損した気分じゃの、正に骨折り損じゃて」


 もう、最後の一言で店内のお客さんも盛大にずっこけちゃったよ! そこ、メガネをクイッてやればいいもんじゃないよ、ジェミニさん!


 やれやれと肩をすくめる九ちゃんがここに居る皆さんの心を良く代弁してくれている。捲くし立てる様に言葉の雨を降らせたジェミニさんであったが、本心としては危険性を煽りたい訳でもなく売って欲しい。市場に流れればそれだけで大量の資金が動く事態になる事から、一時的にではあるが市場も活性化させるし悪い事は無いとのお言葉……。

 今のドン滑りで殺気を滲ませていた奴らも大コケ、溢れる気力もしおしおに萎えた漬物みたいな気分になったみたい。欲に突き動かされた気概が逸れてくれて大変にありがたい。このまま行ったら各自に戦闘行為をしてしまう羽目になっていただろうし、それによって降りかかる迷惑をジェミニさんやフォルカさん達に掛けるのもいたたまれないしね。


「一応聞きますけど、換金したらお金はこの場で頂けるんですか?」


「え? ――ええ、何分額が額ですので当方でも一括とはさすがに……。まず当方で買取をさせて頂き、然るべき交渉相手を選別してから値段交渉をします。その後、商談が成立した時に発生した金額を基に決算を行い、後日王国内にあります私どもの支店にて受け渡しが可能となります。先ほど申し上げました金貨五十枚の件は、現在こちらのマルグ店にあります金貨を担保として先払いいたします額の事です。お手数をおかけしまして、真に申し訳ありません」


「いえいえ、その方が此方としても都合がいいので助かります」


 生真面目そうな店員さんのハトが豆鉄砲を食らったような顔に申し分けなささが滲み出ている。だけども、金額を聞いた時からある程度は予想できる事態だから特に異論はないし、先に言った通りで今は都合がいい。何故かって? そりゃあ――


「成る程、分割して受け取る事で危険を分散させると言う按配ですか……。さすがは主様、赤の他人までご心配なさるとは優しき心を持っておいでのようです」


「じゃのう。態々妾達に向かってくる者であれば、振り払い、薙ぎ払い、潰してしまえばよかろうにの……。相も変わらず、饅頭の如き身体に似合った甘さと優しさも兼ね備えておる――ぬふふ、好きかな、好きかな!」


 ――て、事だね。僕らはこれからアルバス王国の王都に向かう手筈だ。その道中でここの支店があるのならば、その都度立ち寄ってちょこちょこと受け取れば大金を持つ手間と危険性も省けるってもんさ。


 但し、その場合少しだけ懸念が残るのが惜しい所。それは大まかに二つあって、一つ目はマルグ換金店が狸の葉術の如くどろん! しないかどうかが分からない事。二つ目はマルグ換金店が先の欲に突き動かされた人達に襲われないか、これが凄い心配だ。

 前者は僕的には余り残念がる必要もない瑣末な、しかして結構な大事を引き起こす可能性が捨てきれない事象だ。でも、問題は二つ目の方が大きいと言わざるを得ない。これはマルグさん側に迷惑が掛かってしまうのは当たり前だが、問題は誰が狙ってくるかが分からない所。個人は勿論の事、名のある盗賊や夜盗と言った世に嫌われている人達、更には宗教的な組織や国家が来る場合もありあえる。

 そうなったらお金処の騒ぎじゃない。

 ある意味では僕が発端となって戦争が――なんていう事態もありえない話ではないだろう。深く考えすぎじゃ、坊よ――あーちゃんからそんな言葉が聞けそうな気がするね……うん。


「まあ、あれですな。私はヒューマニアンの文化はよく存じ上げませんが、お金とやらで食べ物に困らぬのであれば好き事です!」


「クルァ? クルルルゥ~ア!」


「やはり生き物には食事が必須。前の私は特に必要としませんでしたが、主様に貰った命のお陰で食に対する興味が絶賛湧き上がって居りますれば。やはり、道中ひもじき思いはしとうありません」


 だよね。

 きらきらと星が浮かぶ銀河の様な瞳で嬉しそうに語る雲龍帝さん。やっぱり、幼い龍帝さんに飢えを教えるのも忍びないし、大人になれば雲龍帝さんの様に食事を必要としなくなる可能性がある。ならば、食べられる時期に沢山食べておいた方が得策だよね! ……なんか”ぽっちゃり特有の発想だろ、それ” て全力で突っ込みが入りそうな気もするけど。

 皆が賛成してくれるならと思い切って先ほどの提案を受ける事にし、アルバス王国に滞在している間に支払いを済ませると言う取り決めも合わせて行う。他の国で支店があれば話しは別だったが、残念ながらマルグ換金店は王国内部で商売を行っているお店との事だ。契約用の記録水晶と羊皮紙にサインを入れたら――はい、完了! 僕らから信頼を籠めて換金して頂きましょう。




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