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ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様  作者: とっぷパン
一章 ”カリム村での旅支度” の段
36/65

6話~お金とお誘い

焼肉を口いっぱいに頬張って御満悦の御一行。大事な資金の足しに果たして無事にお金は手に入れる事が出来るのか……。

「さっきからちょいちょいと聞いてれば、おめえさん方は換金場所を探しているのかい? だったら三軒隣のマルグ婆さんの店がお勧めだ。ここいらで一番の古株で目利きは確かだし、きちんとした品物には相応の値段を付けてくれる。俺の紹介だって言えば店番の娘も直ぐに通してくれぞ、かなりのお勧めさ」


 エルダームの骨付き肉をせっせと焼く傍ら、僕らの話を聞いていたおっちゃんが早速換金場所を教えてくれた。おっちゃんの話によれば、そのマルグさんと言う方は中々にしっかりとした御仁らしいね。


「ほう、ヒューマニアンにしては殊勝な者だな。……聞く限りでは、だが」


「違いねえ! わははははっ!」


 如何やら自分でも話していて怪しさ全開である事には気付いていたらしく、雲龍帝さんの言葉に声を上げて笑いだしちゃったよ。

 まあ、何はともあれ今は僕らの資金を獲得する事が大事。当てもない僕らには現地の人の声しか頼る者は無いので、清水の舞台から飛び降りる気持ちで尋ねてみよう。別に荒事に間こまれても特に問題は無い身体と力を持っている僕と九ちゃん、それに雲龍帝さんがいれば最悪どうとでもなるからね。


「じゃあ、おっちゃんの言う通りに尋ねてみようかな?」


「おう、そうしとくのが一番ってもんだ」


 屋台の熱気で掻いた汗をボロボロの手拭いで拭い、実に男らしい汗臭い笑みを返すおっちゃん。話自体は正直胡散臭い物が強いけども、おっちゃんの魂から放たれる輝きを見れば決して悪い人ではないと分かる。


「じゃあ、改めて。おっちゃんの名前を教えてもらえるかな?」


「おっといけねえ、まだ名前も教えちゃいなかったっけな。俺の名前はウェルヴァ、焼肉の屋台を引いて村に来るお客さん相手に商売してるオヤジよ!」


「ウェルヴァさんですか。僕は奏慈、肩に乗ってる女の子は九ちゃんで隣で小さな竜さんを抱いているお姉さんが――ク、クラウディアさんです」


「そうか、一つ宜しく御贔屓に頼むぜ」


 一先ず雲龍帝さんだけ咄嗟に思い付いた雲の英名であるクラウドからちょっとひねってクラウディアさんと名乗らせて頂いたけど、特に何かを考えて付けた訳でもない単純な名前だから後できちんと付け直しであ――


「……クラウ、ディア? うふ、うふふふふ……! クラウディア……むふっ!」


 ――あ、これは拙い。僕の口から咄嗟にまろび出た適当な名前に雲龍帝さんが全力で喜んでいらっしゃるぅぅぅっ!? やめて、凄く安直な理由で滑り出た名前だから、もっといい感じの名前を付けてあげようと割と本気で考えている最中だからぁぁぁぁっ!


 二マニマと嬉しさを隠そうとするが出来ていない彼女に今更弁明する機会も逃し、泡を食べる金魚の如く口をぱくつかせる僕。ジェミニさんや他の人達に色々言葉を教えてもらった後で一考しようと思っていただけに、一般人であるウェルヴァさんに紹介するだけの場で決まったとなればきっと後悔するよ……僕がね!


「私は王都から来ましたジェミニと申します。以後、宜しくお願いしますね」


「ほ~う、眼鏡のお嬢さんはジェミニって言うのかい? いや、中々良い名前を付けて貰ったね~」


「ええ、両親から授けられた私の大事な宝物ですよ」


 蒸気を立てんばかりに激しく脳内回路を動かして事態の打開策を検討している僕。その横ではジェミニさんが自慢げにお名前を紹介していた。

 色々と僕だけが混乱している状況だけども、仕切り直しの為にまずは先の目的、お金を確保する為にウェルヴァさんから紹介されたマルグさんと言う方の店に足を運んでみようと思う。少し考える時間を入れなきゃ後々可笑しな事になりそうだよ……。


「――うむ、奏の字! お代わりを所望する!」


「はいはい、僕の分まで食べていいよ……」


「ぬふふ、すまんのう――……って、骨しかないではないか!?」


 おっと、こんなに頭が混乱した中でも僕の口だけはしっかりと動いていたみたいだ。










「ここが、マルグとか言う小娘のやっとる店、かの?」


「その様ですね、姉上……。しかし、ヒューマニアン達で老人と呼ばれる者達も私達の前では小娘扱いとは、面白くも些か哀しくもありますな――主に私達が」


「妾自身言ってから気付いたが、笑えんのう……」


 肉をぱくつきながら出てきた言葉にへこむ御二人。突然沈んだ二人に首をかしげる龍帝さんを撫で、やはり長命な種であっても女性は年齢を気にするものなんだなと思う。別に外見や魂に何の劣化も無く、寧ろ同年代に見える人間達よりも見目麗しくても年齢だけは違う様だ。


 さて、そんな哀しい話題はさておき。僕らはウェルヴァさんに紹介されたマルグお婆さんのお店に足を運んでいた。店構えとしては村と言う括りに立つ店舗としては立派な、尚且つ見事な程質素で歴史を感じる建物が鎮座している。

 お店の象徴なのかは分からないけど、身の丈七尺程の大きなケトル型の夜間が玄関戸の横にでんっ! と置かれているのが特徴的だ。看板には換金所を表す(さっきジェミニさんから聞いた所によると……)お金と道具袋を矢印で繋いだマークが描かれている。

 夜も更けて来たのにもかかわらず人がひっきりなしに訪れているが、ざっと客層を見れば多くは仕事帰りの方が多い様だね。剣を背負っている人もいれば、弓や短剣、中には魔法の杖? らしき装飾品を手に持つ人達と正に十人十色。大いに流行っている御様子である。


「では皆さん、私が皆さまの代わりに交渉致します。品物は果実と聞いておりますので、それ程大きな金額とはなりませんでしょうが、出来るだけの事はさせて頂きます」


 店に入る前に改めて挨拶をしてくれたジェミニさんに頷き返し、彼女を先頭にして店内へと足を踏み入れる。扉の上部に取り付けられた鐘が来客を告げる音を立て、僕らがマルグお婆さんの店に入った事を店員さんへと伝える。

 ろうそくの明かりでは決して得られない光量が店内と人を照らす。何で明かりを得ているのだろうと周りを見回せば、所々の柱や机の上に火を用いない形の照明が置かれているのが目に留まる。


「いらっしゃいませ、何でも買い取るマルグ換金店へようこそ! お客様は――五名様での御来店ですね? こちらの記録水晶にお名前を入れて頂きまして、順番が来ましたら代表者のお名前でお呼び致します!」


 田舎から都に出て来た若者の如く店内を見回していたら、元気な声で店員さんであろう女の子が声をかけて来てくれた。赤みが掛った茶色の髪をおさげにして左の肩からゆるりと垂らし、思春期を迎えたばかりであろう未成熟な身体を簡素な上着とスカート、それにこれまた簡素な前掛けで包んだ少女は笑顔一杯である。

 九ちゃんよりは幾分か背丈が高い彼女は、両手で持った水晶を先導してくれていたジェミニさんへと突き出している。紙では無く水晶との事なので、気になってジェミニさんの手元をのぞき込んでみた。すると、水色よりも幾分か薄く透明に近い透過率の水晶の中に光の文字が浮かび、発せられる力の質から魔力で記録が出来る類の結晶石である事が伺えるね。


「ありがとう御座います! ……ジェニミ様、ですね? では皆さま、あちらの空いている席にお座りになってお待ちください。後、換金して頂きたい品物はあちらのカウンターで先に店員へお渡しくださいね!」


 そう話しながら営業スマイルをかまして次の客さんの対応に向かう少女。と、そうだ。あの子が看板娘さんかどうかは分からないが、ウェルヴァさんからの紹介って事だけは伝えておかないと。


「君――――って、行っちゃったか……」


「奏の字、早うカウンターに行くのじゃ。あっちの女子に言えば十分伝わるじゃろうて。ジェミニ、其方は先にテーブルへと付いているが良いぞ」


 九ちゃんからの言葉にそれもそうかと思い直してカウンターへ、ジェミニさんは雲龍帝さんと龍帝さんと連れ立って席を取りに行った。僕らの前に数人程並んでいたので順番を待ちつつ、腰に下げたあーちゃん特製の巾着袋から次々と違う種類の果実をに三個づつ出して袋に詰めて行く。カルルの森は多種多様な植物が自生していて、僕らが墜落した場所の周辺には結構な数の果樹が実を付けていた。

 明日も知れぬ身となった僕らはまず食料の確保から始めた訳で、丸ハゲとまでにはいかないまでも、多くの果実をもぎ取って来たんだ。中には大きすぎて巾着袋に入れるのに苦労したものも結構あった。それに、巾着袋が物の重さも無くしてくれたのには大いに感謝したい所だね。


「うむ、捥ぎたてそのままじゃのう~。色艶も良し、味は妾達の舌が保証済みじゃしのう……!」


「あははは、確かに。それなりの値段になってくれるといいんだけどねっと」


 桃みたいな果実や葡萄擬き、梨擬き、林檎擬きと、僕らの地球で食べられている果物と見た目が似ている奴は大抵味が他の果実の物になっているのが多い。それだけに最初こそ衝撃が走ったものの、慣れてしまえばこういう物だと納得して気にならなくなったね。


「――では次の方どうぞ!」


 おっと、そうこうしている内に僕らの番が着た様だ。詰め込んでサンタクロースの担いでいる袋みたいに膨らんだ大袋を手に受付カウンターへと向かう。


「代表者ジェミニさんの品物で、新鮮な果実を数種類換金して頂きたいのですが。――これが品物です」


「ジェミニ様ですね。品物をお預かりいたします。では、早速鑑定させて頂きますね」


 先程の少女を大きくした様な女性はニコリと微笑むと鑑定をする為に袋から果実を取り出す。一番最初にまろび出たのは、僕らがこの世界に墜落して最初に口を付けた葡萄擬きだった。

 某鑑定番組の如く品物を傷つけない為に白い手袋をし、備え付けの拡大鏡と照明器具の明かりで以って傷が無いか調べる。宝石や美術品とは違って細かな傷まで見る事はせず、次々と袋から果実を取り出しては鑑定して行く様は正に職人その物。いい仕事してます!


「……計七種、鮮度、品質、大きさ、どれも最高級品と見ました。失礼ですが、これらをどれ程換金なさる御積りなのでしょうか?」


「ええ~と、大体この袋で言うと其々十袋程は持ち合わせてます」


「それは本当ですか? 本当に後十袋ずつ用意できるの?」


「はい、本当ですよ」


 何だ? 果実の数を言ったら急に真剣な雰囲気を出して、見事なお客様対応の敬語だったのも地の部分が顔を出していらっしゃるよ。


「それじゃあ、貴方達に折り入って話があるわ。換金が終わった後で少し時間を頂けるかしら? 大丈夫、損はさせないわよぽっちゃり君」


 美人なのお姉さんからウインクをかまされてこのお言葉に思わず顔を見合わせる僕と九ちゃん。何の意図を以って僕らと接触しようと考えているのかは不明だけど、まあ、なる様になるでしょう。


 あ、お肉の焼き上がりに間に合うかな?



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