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ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様  作者: とっぷパン
一章 ”カリム村での旅支度” の段
31/65

1話~暗い森を抜ければ、そこは――

神々の宴の後は、勿論奏慈君が頑張ります!

 草花が咲き誇り木々が生い茂る広大な面積を持つカルルの森。この異世界の星にて調節者の役割を持つとされる五大龍帝が一龍、雲龍帝が鎮座すると言われている聖地モレス山のすそ野に広がっている。何故いると確定できるのかと言えば、出発してから早三日目ともなると言うのに未だ周りの景色に大した変化が無いからだ。


「ねえ、雲龍帝さん! 森を抜けるにはあとどれくらい掛りそうなのかな?」


「そうですねっ! このままの速度を保てば後二日と言った所でしょうか!」


 高速鉄道もかくやと言う速度で道なき森を猛然と走り進む一団。その光景は異様その物と言った所で差支えが無い。きっと、上空から下を眺めている鳥たちの目にはドでかい何かが土煙を上げて移動している様が映っている事だろうね。


「何ともまあ、ものの見事に何もありはせんかったのう~。ふぁ~……暇で暇でしょうがない」


「ちょっとー! 頼むから途中で寝ちゃわないでよね、九ちゃん!」


「よきにはからえ~、むにゃ……くぅ」


 天気の良さに居眠りする彼女にため息を吐きつつ、ここまで見事に何も無いと気が緩むのも仕方が無いとも思う。何せ、邪気に侵された魔物が出ると言う話を聞いていたものだから、僕らとしては相当に警戒はしていた心算だった。

 だが、ふたを開けて見れば邪気の気配はさっぱりで、霊力レーダーにも微塵の反応が無いまま三日も経過したのである。何だろうね、九ちゃんが作り出した結界と龍帝さんと雲龍帝さんのコンビに恐れをなして近寄って来ないのだろうか? それとも……謎は尽きない。


「奏慈殿! そろそろ昼餉の時間にいたしましょう!」


「分かったー! もう少し進んでみて、開けた場所を探してお昼にしよう!」


 風呂敷結界の中から副官さん(後で聞いたらジェミニさんと言うお名前だった)改め、ジェミニさんが御昼の時間を知らせてくれる。その会話と同時に僕の腹時計が大合唱をし始め、六月の梅雨時期に田んぼで行われる蛙のオペラの如く鳴り響いた。


「クルァ? クルアァァッ!」


「おお、空まで聞こえちゃったかい? そろそろお昼ご飯にするみたいなんだけど、近くにある程度開けた場所はあるかな?」


「クルル……クアッ!」


「そっか。あっちの方にね……了解! 雲龍帝さん、龍帝さんの指示した方に休憩できる場所があるみたいだから、そこで一休みしよう!」


 先頭を走る彼女に場所を伝えると二人して走る方向を右に36度変えて進む。お昼の時間となると龍帝さんは九ちゃんと一緒に風呂敷結界の上に留まり、御昼休憩の場所まで暫しの休息に入る。まあ、他三名で安全を確認しつつ進んでいるので、幼い龍帝さんには出来るだけこまめに休んでくれても特に問題は無いのである。実際結構翼に疲労が溜まっているみたいだしね。


 二、三分走った所で急に視界が開けた場所に着いた。鬱蒼と生い茂る草木がここだけぽっかりと何もなく、座るのにちょうどいい朽ち木の切り株が転々と並ぶお昼には絶好の場所。木々の隙間を縫って差し込む木漏れ日も気持ち良さそうだし、お昼にはぴったりだね!


「うむ! 実に良い所を見つけたの! 褒美に木の実をデザートにつけてやろう」


「クルルルッ! クルアッ!」


「おうおう、よしよし。早速薪拾いに繰り出すかの~」


 柔らかな草が生い茂る所で風呂敷結界を下ろす。地面に風呂敷が付くと九ちゃんが結界を解除して龍帝さんと薪を探しに走り出して行った。

 もちろん、ここまでの道中で僕達にお世話しされているフォルカさん達も、唯守ってもらう訳には行かないと薪を探しに駆けだして行く。残ったのは一番若い飯炊き係のカリムさんと、結界内で走行中の振動によって今にも吐きそうなフォルカさんとドルゲさん、それに護衛役としてのジェニミさんだ。

 二人とも馬さんには乗りなれている様だけど、流石に現代日本並みの走行速度に振動軽減装置サスペンションが付いていない風呂敷結界超特急は駄目だった様だね。逆に、ジェニミさんがぴんぴんしているのが不思議なんだけど、女性には不思議な所があるからきっとそれだろう。そう思いたい。


「フォルカ様。昼餉は私達で準備いたしますので、どうかドルゲ様と共にお休みなさっていて下さい」


「……すまないね。普段なら王族として虚勢を張る所だけど、こればかりは――――うっぷ!?」


「殿下、ジェニミの言葉に甘えて休みましょうぞ。まだ、後二日はこの調子ですから――――ぐぽっ!?」


「これ、二人とも。折角の飯が不味くなるから、吐くのなら木陰でやってまいれよ?」


 苦笑いの雲龍帝さんに肩を叩かれて追い出された二人は、振動で喉元までせり上がってきている聖水を必死に押し留めながら木陰に全力疾走。大きな木の陰に入った瞬間盛大な二部合唱が始まり、木漏れ日による光の屈折現象で虹が二つ掛ったとさ。


 盛大な公演が開かれているのに目を逸らしつつ、こちらではカリムさんとジェミニさんによる簡易竈が出来上がっていた。そこら辺に転がっている手ごろな大きさの石を組み上げて、簡易的に竈を拵えた二人は満足げな息を吐いた後料理の準備にかかる。

 僕も暇なのでお手伝いをするけど、基本的にこちらの食材を把握していないので水の霊力を以って鍋や食器などを洗う作業に従事する事に。如何やらすぐ近くに小川が流れているらしく、周りの空気中から水の霊力が強く感じられる。そこから霊力を集めて僕の右手を簡易的な水道として扱い、水汲みの手間を省いて少しでも回復するのに専念している訳。


「……ううむ、薪拾いをして居ったらとんだ物を見せられてしもうたわ。少々飯マズな気分じゃ」


「あ、おかえり。飯マズって……ああ、聖水のマーライオンを見ちゃったんだね」


「妾はまだ飯マズくらいで済んでおるが、龍帝などは大分きておるみたいじゃぞ……所謂貰いゲーじゃ」


 戻って来た九ちゃんが舌を出してうへぇとなっていると思ったら、一緒に居た龍帝さんは木陰でマーライオンになっているみたい。誠に御気の毒様で、これから昼食になると言うのに大変残念な事だ。


「奏慈殿、後は鍋に水をお願いします。……今回も煮込み鍋になってしまいますが、何卒ご容赦ください」


「いいんですよ。こっちはまともなご飯が食べられるだけでも御の字ですし、修行中は殆ど何も口にしない日も沢山ありましたから慣れてます」


「私達も恩人である貴方方にはもう少しまともな料理を差し上げたいのですが、こればかりは何ともしがたく心苦しい限りです」


 申し訳なさそうに綺麗な眉を八の字に歪めて話すジェミニさんにもう一度大丈夫と言い、早く飯を食べさせろと喚くお腹をさすりながら調理を見守る。

 程なくして薪を集め終わった皆さんが帰って来たので、早速竈に薪を置いて火をつける。水場が近い割にはよく乾燥して火の付きやすい薪が、魔石と呼ばれる石から放たれた火によって燃え盛り。鍋に入れられた水と材料に火を通していく。ある種のサバイバル的な雰囲気もありつつ、されども雰囲気はピクニックや山登りと言ったところだね。


 煮立った鍋の中で干し肉や茸、干した芋がらみたいな食材が躍り狂う。調味料は塩とカリムさんが調達したと言う味噌擬きで、日本人のはしくれとしては擬きでも味噌が良いよね。

 実はここ三日間で大分味噌擬きも食べちゃったから、正直口飽きしてる部分もあるんだけど……僕は大して気にならない性質だ。と言うのも、美味いものは美味いし、非常時には贅沢自体が敵である精神をあーちゃんから叩き込まれたからである。いやー、あの時のあーちゃん程怖いと思った事も今となっては無いし、これを叩き込まれたからこそ現代っ子の僕が異世界で生きていられるんだ。

 さて、そろそろ出来上がって来たみたいだね。


「よし、味はばっちりですね。副長、隊長とドルゲ閣下の分は如何いたしましょう? あの御様子ですと、暫くは体を休ませないと食べられないと思われますが……」


「そうですね。気分が優れないからと言って食べない訳にはいきませんから、ある程度落ち着いてから温め直して差し上げなさい」


「了解です。では、先に兵士と奏慈殿達に頂いて貰いましょう」


 馬さんに取り付けていたカバンから木製の御椀を人数分取り出し、熱々の具材と汁を次々によそっていくカリムさん。中々に手際の良い様子だけど、ジェミニ聞けば軍隊に所属する新人が最初に覚えるのが戦地や野外での調理法らしい。食事も軍隊では大切な訓練の内と言う事で、新人は肉体訓練よりもまず食べる事の大事さを教わるそうな。

 成程、人間食べなきゃ力は出ないからね。ましてや、身体を使って任務をこなす軍隊ならば尚更だろう。


「はい、雲龍帝様。はい、こちらが龍帝様の分。そして、九ちゃん様に奏慈殿と……」


 先に僕達三名と一匹分をよそってから自分達の分を取り分けるカリムさん。若干ではあるが、僕と九ちゃんの御椀には干し肉が多く盛られている嬉しいサービス付き。勿論、雲龍帝さんや龍帝さんにも具沢山の椀が渡されているけど、やはり助けてもらったと言う印象が強いらしく、こんな感じでちょこちょこサービスをしてくれる。君は良い奴だね、カリムさん!


「――と、これで皆さんに行き渡りました!」


「ふむ。では皆の者、奏慈殿達に感謝を奉げつつ食べなさい!」


「「「おう!」」」


 其々に神々や精霊と言った存在に祈りを捧げて食べ始める。

 やはりと言っては何だが、こちらのお国柄では頂きますと言う文化は無いらしく。食事の前には信仰している神様に祈りを捧げるとか、精霊様に感謝を奉げると言うのが一般的な様だ。神々が直に見える状況ならばこれもまた当然だろうし、日本人の様に自然から恵みを貰って生かされていると言う死生観で育てば日本文化の様な価値観になるんだろう。不思議だよね?


「うむうむ、中々に美味いの~。乾物ばかりであるのがちと惜しいが、全体的な味付けは整っておる」


「そうだね。まさかここまで来て味噌味に出くわすとは思ってなかったから、余計に美味しく感じるよ」


 味噌味鍋を楽しみつつ箸は止まらない。はっきり言って、僕が日本で普段から食べている量から比べればかなり抑えている状態だ。もっと、もっととお腹と脳みそが訴えかけてくるのを気合で跳ね除け、凄まじい速度で噛み締める事で空腹を紛らわせる。最早、最後の方になると味は全く感じらずに具材はペースト状になるんだけど、アルバス王国に入るまでの我慢と思い耐える他ない。


「ほれ、野菜もしっかり食べるのだ。好き嫌いをして居っては立派な龍帝にはなれんぞ」


「クルア……クペ、クア!」


「よ~しよし、その調子で雄々しく育つが良いぞ。しかし、ヒューマニアンの料理は美味いな~。この様な楽しみが世にあったとは……私の龍生は実につまらないものだったのだとつくづく思うぞ」


 嬉しそうに鍋を食べる雲龍帝さんは、子供の様な存在である龍帝さんに躾をしながらも自身の過去を振り返っている様だ。

 雲龍帝さんは世に生を受けてから世界の安定の為に尽くして来た。流石に龍の姿で食事となると食材が幾つあっても足りない位であろうけど、人と同じ姿ならばその心配も無くなるだろうし、楽しみの幅もこれからどんどん広がっていく。是非、彼女には新たな生を謳歌して欲しいものだよね。


「ふん? ……成程、やっとお出ましって訳か……美味い」


「そうじゃの。妾達の仕事じゃ」


「では、私は護衛を務めますれば……」


 さてさて、美味しい食事の後は食後の腹ごなしと行きますか……!





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