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ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様  作者: とっぷパン
一章 ”放浪と出会いと危機と” の段
30/65

番外編~神々の内緒話……1

神々は日々世界を見ている。そんな彼らも宴で騒いで疲れりゃ寝るんですよ?

 凪風 奏慈が異世界へと旅立ってから数日後。本日も世界は変わらず日々の日常を時に刻み、生きとし生ける者達の命の営みが行われていた。そんな平凡な日常を送る世界の中、日本のとある神社の一角ではある神々による寄り合いが行われようとしていたのである……。


「ふむ、大方の出席者は集まったかのう?」


「ええ、便りを送った方々は全員来て下さったみたいよ。忙しい中で全員出席して下さったのだから、早く始めちゃいましょう姉さん」


三十畳もある広い続き間の中に四角いテーブルを五つ程続けて、その周りを囲む様に様々な神界の神々が並び腰を下ろしていた。人型である者やそうでない者も含め全ての神々の前には日本酒が入った徳利と御猪口が並び、色とりどりのおつまみと料理が所狭しと配膳されている。古代ローマを思わせる服装の神も居れば、スーツを着用している神もいてにぎやかな様相を加味しだしている。が、その目の前に並ぶ料理はどれもこれもが一級の食材を使って作られた物であると言うのが見るだけで分かり、香しい匂いが鼻腔と胃袋を刺激して止まない。


 だが、神々によるちょっとした宴の中で黙々と酒を口に運んでいた一柱と、それに付き合う形でお酌をしていた一柱がそろって主催者である己の姉達に話しかけた。


「……なあ、姉貴達よ。俺は今日何のために呼び出されたのか知らされていないんだが? 嫁さんと湯治に行く予定がおじゃんにされたと思ったら、嫁共々引っ張って来られて見れば何だ。こりゃあ、何の御祝だ」


「ん? 何だ、知らずにこの場に居たのか。二人とも月詠から話を聞いて居ら何だか?」


「はい、何せ突然の事でしたので……。私も旦那様も着の身着のままではせ参じたのです、義姉上様」


 疑問を投げかける二柱に対して既に話し合いの中身を承知している者として進めていた姉こと、我らが太陽神・天照大御神。ちらっと視線を妹神である月詠の命へと向けると、向けられた視線に対して月詠の命はちろっと舌を出して可愛らしく誤魔化したのであった。


「――であるか……ふむ。まあ、参加さえしておれば話も自ずと理解は出来ようから、そのまま料理に舌鼓を打って居るが良いて。何も小難しい話はせんしのう」


「説明するの忘れててごめんなさいね。でも、酌のついでに耳を傾けていれば理解は出来ますよ。……納得するかは別ですが」


 妙に嬉しそうな顔で何も難しい事ではないと話す長女。だが、それに対して次女は含みのある言い方で二柱、つまりは弟神である須佐之男命とその妻・櫛名田比売に一抹の不安を残す。人間界では横暴な性格として語り継がれている須佐之男命ではあるが、実は小さな不安が降って湧いてくると非常に気になる性格を持っている。

 上等な酒や美味い料理が所狭しと並び、愛する妻の酌で酒を煽っていてもだ。突如湧いた小さな不安がのどに刺さった魚の小骨の如く、奥歯に挟まったほうれん草の御浸しの如く気になってしょうがない。その小さな不安が齎す不満が重なるとイライラしだし、積もり積もって爆発するのだ。

 まあ、その爆発するまでの時間の短さが彼を破壊神だとか横暴だとかの所以につながっているが哀しい所である。


「……凄まじい不安が俺の魂から溢れてきそうなんだが」


「大丈夫よ、貴方。ほら、私が家から持ってきた煮物があるから食べてみて! この間ね、奏慈君のおばあちゃんから教わった調理法なのよ~」


「ああ、あの祖母さんからね……。人間にしておくには惜しい位うめえからな、祖母さんの飯はよ。――――お、すげえ美味いなこれ。流石は俺の嫁だぜ!」


 ――が、意外と単純な所も併せ持つ神様でもある。


 奥さんの機転で破壊神が爆発する事態が未然に防がれて事態に他の神々が気付く事は無い。だがそれでいい事もある。世の中には知らない方が幸せな事があると言う典型がここにはあった。


「さて、遠路遥々参加してくれた神々達に我から一言礼を述べさせて貰おう」


 忙しく神社に住み込みで働いている巫女さん達が新たな料理を運ぶ中、主催者である天照大御神が立ち上がり挨拶を行う。彼女の話に全ての神々が箸を止め話を止め、彼女の言葉と一礼に合わせて礼を返した。


「この度、世界中に散らばる各神界の最高神と太陽神と称される恒星神に集もうてもろうたのには、ある報告とその承認を頂きたいと思うたからに他ならない」


 恒星神とは何か? 実は、天照大御神や各神界に存在している太陽神と呼ばれる神々は、人間達の中で太陽と呼ばれる星だけを担っている訳では無いのだ。


 太陽、つまりは恒星と称する星は宇宙に幾億萬と存在している。人間達が認識できている宇宙の範囲でもそれだけの恒星が存在し、また認識外にはさらに多くの星が漂っているのだ。それら全てを放って太陽だけを担えば世界にとって良い筈も無く、各地に散らばる太陽神が分担して調整を担っているからこそ世界の安定につながっていると言う。


 ちなみに、星系と呼ばれる構成範囲には地球や火星、金星や木星と様々な惑星が存在しているのも周知の事実だ。それらに神々の名前が当てはめられているのも珍しい話ではないが、これらは惑星神と呼ばれる神々によって日々調整されている。

 さらには惑星に付属している衛星なども、衛星神によって管理されている裏話がある。日本神話に登場し、かつ弟夫妻を揶揄うお茶目さんである月詠の命も、分類的には衛星神の枠組みに入っている。


 だが、これらの枠組みよって神々の序列が決定されている訳でもなく、あくまでも担当している仕事がそれだと言うだけだ。


「――既に承知されている者もおろうが、遂昨日、この神社の跡取りである凪風 奏慈が修行の名目で他世界へと旅立った。一計を案じての旅立ちだったが大凡上手くいき、無事に彼の世界にて旅をしておる様じゃ」


 笑顔を浮かべつつ奏慈の近況を語る天照大御神。奏慈が生まれる前から彼の存在を予見して、教育や子育てに積極的関わりを持ってきた彼女だからこそ余計に嬉しいのだろう。最高神としてこの場に立っているにも拘らず、喜びの感情を隠そうとしない事からも度合いが伺える。

 そんな彼女に祝福の拍手を送る神々もまた、彼女の健気な奮闘ぶりを知っているからこそ心からの気持ちを載せていた。


「して、奏慈君は今どの辺りに居るのかのう? 前に会うたのが既に五年も前だし、それはそれは良い男に成長しておるのだろうな」


「おお、ラー殿もそう思うか! いや、身内に贔屓目と言われればそれまでじゃが、ほんに良き心と魂を持つ男へと育ってくれたのじゃよ~」


 饒舌な彼女にラーと呼ばれた神は、記憶に残る奏慈を思い浮かべながらご機嫌な様子で料理をつまんでいる。鷲を象った頭を持つ人型の太陽神である彼は、古代エジプト神話における主神であり最高神である太陽の神だ。

 過去に様々な神と集合され同一視された太陽神ではあるが、そこはそれ人間界での話であって彼ら自身には微塵も関わりが無い事である。


「ラー殿は五年もで御座いますか。私などはつい先日会ったばかりでして、ケルト神界で開かれた太陽神会議のおりに天照殿に随伴して参加していた所でお茶会に誘いましてな。いや~、いつ見ても気持ちの良い食べっぷりに心癒されました」


 ラーの話に乗っかて来た金髪の青年はケルト神界の太陽神、ルーである。偶に他の神話に登場する時などは、トゥアハ・デ・ダナーンの一柱として長腕ルーの名で知られている神でもある。ちなみにこの御方は、昨今アニメや漫画で大人気の英雄・クー・フーリンの父親としても世に知られている神だ。


「確かに、これも五年前の話になるが食べっぷりは我らの神界と比べても遜色が無いと感じたものだ。ははははははっ!」


 ラーが自分の所の神々と当時の奏慈を比べて豪快に笑う。恐らくは思い出による美化が相当に入っているとは思われるが、彼の言っている事も概ね正しいので天照大御神とルーも揃って笑い声をあげた。


「して、天照殿。此度の会合は礼を述べる為だけではないのだろう?」


「うむ。其方の顔つきと神力の活性化具合から大凡の内容は察するが、一つ話して下さらんかな」


 このまま茶飲み話と井戸端会議を合体させたような語り合いに突入する前に、ラーの正面とその隣に腰を下ろしていた二柱の神が天照大御神に問う。二柱のナイスなフォローによりポンと手を打って彼女は会合の筋を正した。


「そうであった。いや、与太話に花を咲かせるところであったわ。アポロン殿にヘリオス殿、フォローの程忝い」


「いやいや。この様にご機嫌な貴女を見るのもこちらとしては楽しいのです。私共でも楽しいのですから、当事者である貴女は更にとなるのは当然で御座いましょう。お互い様ですよ、天照殿」


 優しそうな雰囲気が滲み出る髭のお父さん然とした神がギリシャ神界の太陽神・ヘリオス。そして、その隣で御猪口に口をつけて美味しそうに酒の飲んでいる青年が、オリュンポス十二神が一柱で全能神ゼウスの子であるアポロンだ。

 二柱はしばしば同一視される事があったが、列記とした別神である。


「では、二柱の御厚意に甘えて本日の主旨を話すとしよう。実はの――」


 皆が皆上機嫌で料理に酒にと楽しむ中、遂に天照大御神の口から主旨が語られる。酒が入った事で少々呂律が怪しくなっている彼女の言葉が紡がれる度に、神々の笑顔が苦笑いに変わり。苦笑いから笑みが取れて苦虫を噛み潰したような顔へと変化して、止めに絶望した時の様に感情が表情筋から消え去った。

箸を持つ手が止まり、御猪口に酒を注ぐ音が消えて行く中で、ただ一柱だけが饒舌に上機嫌で話を続けている様が異様に映る。一応妹神である月詠の命だけは平然としているが、長男で在り弟神でもある須佐之男命は完全に青ざめた表情で今にも吐きそうだ。


「――どうじゃ、勿論この場に居る者達は協力してくれるものと信じておるぞ! ん? なんじゃ、どうしたのだ?」


 朗々とした演説の如き話が終わった時は、ほぼ全ての神々から生気が失われた状態で死屍累々とした状態だった。


「……のう、天照殿よ。それは真実誠の事で、我々が幻覚を見て集団催眠に陥っている訳では無いのだな?」


「何を言っておるんじゃ、ゼウス殿。そちも耳が遠くなるにはまだ早いぞ~!」


「Oh、My、God……」


「神はそちじゃろうが?」


 慈悲も慈愛も微塵も感じられない返答が帰ってきた瞬間、ギリシャ神話の最高神・ゼウスが意味不明な呟きと共に崩れ落ちる。更にツッコミが彼の心に突き刺さり、それを聞いた月詠の命が思わず吹き出した。御通夜の様な雰囲気の中で月詠の命の笑い声だけが静かに響いて流れる。


 太陽神と最高神が集う会合にて、天照大御神だけがキョトンとして周りの雰囲気を理解していなかった……。








「ウフフフッ! 姉さんたら上手なツッコミだったわ~!」


「可笑しいのう……。我としては沈黙も笑いも取るつもりは無かったんじゃがな?」


 余りの沈んだ雰囲気に一柱、また一柱と席を立ち。自然消滅をする形で今回の会合は終了する羽目になった。天照大御神自身としては大いに実りのある結果を想定していただけに、他神界の神々の反応に納得がいかない様子で唸っていた。


「……なあ、俺の愛しい嫁さんよ。俺の目鼻耳は大丈夫か? もしかしたらその辺に落ちてやしねえか?」


「何を可笑しな事を言ってらっしゃいますの? それよりも私の愛する旦那様。貴方こそ、私の目鼻耳の行方を知りませんこと?」


 少々錯乱した夫婦が己の身体に付いている物を無い無いと探しているが、彼の姉から解き放たれたビッグバンに比べれば些細な事であると言えよう。なんせ――


「――我が奏慈と共に旅に出る事の何がそんなに問題なのか、皆目見当も付かんわ」


 であるのだから。


「ほら、二人とも何時までもそんな事してないで正気に戻りなさい」


「「はいぃぃぃっ、正気に戻ります月姉(月義姉様)!?」」


 姉の一言で背筋をピンと伸ばす二柱。もはや二柱の魂の中にまで彼女の怖さが染みついているのだろう、可哀想に……。


 そんな弟夫婦の姿に笑みを浮かべつつも、やはり納得・得心が行かない天照大御神。結局この後、禊であるお風呂に入るまでうんうんと唸り、父母を心配させた挙句に風呂上りには綺麗さっぱり忘れていたと言う……。

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