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ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様  作者: とっぷパン
一章 ”放浪と出会いと危機と” の段
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17話~いざ行かん、アルバス王国

長なら誰でも通る道。二人の目には微笑ましく。

「皆さま、そろそろ王国へと出発しとうございます。我らが先導いたしますので、詳しい説明は道すがら私と副長のジェミニからさせて頂きます。その上で一つお聞きいたしますが、移動手段は如何致しましょう? 私共が乗って来た馬が数頭御座いましたが、先程の騒ぎで逃げ出してしまいまして。見つかったのは僅か五頭程でした」


「そうじゃの~。お主が言いたいのはよく分かるが、妾や奏の字はこの通り健脚じゃし龍帝や雲龍帝はそもそも身体の作りが違うからの。よって、馬は全てお主らで使う方が建設的じゃ。遠慮などせずに大いに役立てよ」


「……重ね重ねの御厚意申し訳ありません。ですが、この場は有りがたく受けさせて頂きましょう」


 僕らが話している間にフォルカさん達は乗って来た馬を探していた様だ。そう言えば龍帝さんから放り出された直後、ちらっと視界に馬さんが数頭程映った気がする。直ぐに地面と接吻しちゃったから頭の中から抜け落ちちゃってたけど、あれはフォルカさん達の馬だったんだね。


 競馬等で走っているサラブレッドよりも一回り程大きい馬の嘶きに合わせて、五頭の馬が僕らに頭を下げた。生物の頂点に立っている方が新旧・その他合わせて二名と一匹も居るのだから、これは本能で首を垂れるべき存在を理解したのだろう。綺麗な整列で以って軍隊の様な一糸乱れぬ頭の下げ方だったよ。


「……うむ、これより数日間共に旅をしようぞ。さて、王太子よ。アルバス王国はこの場より西へ行った所であったか。お主らの足では二十日ばかりの日数を必要とする距離であるな」


「はい。更には我らの一団が二十数名となりました原因が道中にありまして、瘴気――つまりは邪気にまみれた所謂魔物と呼ばれる獣が多数存在しているのです。我らは何としてでもこの場に辿り着く為にいかなる犠牲を払ってでも参りましたが、その犠牲は五百名程で構成された一団がほぼ壊滅状態まで追い詰められる程でした」


「つまりは、帰るにしても来た時の様な術は無く。尚且つ戦力的に脆弱な一団では帰れるかどうかも心配だと言う事か。ま、それは概ね正しい」


 なんとまあ、そんなに多くの命がこの場所に来るだけで散って逝ったのか。いや、散って逝ったと言うの正しくない、彼らは希望を繋げる為に命と想いを託したと言う方が適切か……。


 国の為、家族の為にフォルカさん達をこの場まで導いた方々に心の中で哀悼の意を奉げる。彼らの奮闘が道を繋ぎ、そして僕らの出会いへと繋がった。出来れば彼らの国へと魂を連れて帰ってあげたいと思うが、襲われて散り散りになったみたいだし、邪気に侵されない様に鎮魂をする為には色々と準備と覚悟が要りそうだ。


「だが、それも妾達と出会わねばの話よ。戦力的には妾達の参入で事は足りようし、この近くに居る邪気など物の数では無い。それよりもじゃが、一番の問題は距離よな。お主らの足で二十日ばかりも掛るとなると……うむ、微妙に遠いの」


「直線で結べばそうでもない距離なのですが……やはり地形の高低差や道の有る無し、更には魔物に襲われる危険性と対処の時間を考慮致しますとどうしても……」


「ふむふむ。たしかに、遥か昔ではあるが普段は飛んでおった身からすると確かに距離は近くも遠くも無かったな。体感で十も数えれば着く距離だった」


 いやいや、龍帝だった頃の感覚で話されましても……。ほら、話を振ったフォルカさんと副官さんも苦笑いしていらっしゃるじゃないですか。今さっきまで龍帝だった存在に言うのも変な感じだけど、今は人の感覚で語ろう。


「取りあえずだけど、徒歩もしくは馬で移動するのは決定なんだよね? で、その場合だと少なく見積もっても二十間位の日数が掛ると。戦力の問題は気にしないにしても、戦闘で負傷している兵士さんもいる中でどうやって御国への時間を節約するか……いくつか提案があるんだけど聞いてくれるかな?」


 僕の提案を是非にと言ってくれたので、いくつかの案を並べてみた。

 人の足ではどうやっても時間がかかってしまう。だけども、この場には人間やヒューマニアンの身体能力を遥かに超えた存在が居る。これを有効活用しない手は無いよね! と言う考えから考案したものだ。


一、僕を含めた人から少し外れた存在を活用して時間を節約する。

二、その方法は各自の身体能力を平均させてやれる事。

三、出来るだけ安全を考慮した手段で行う事。


 この三つを僕の中で照らし合わせた結果、三つの案が生まれました。


 一、結界術でフォルカさん達を纏めて包み、僕らが風呂敷宜しく担いで全力で走る。


 所謂泥棒走りで、これは実に簡単でかつ迅速にアルバス王国に辿り着ける案だ。体力的には九ちゃんが最適なんだけど、面子と絵面的には僕が一番働かなきゃいけないだろう……。

 欠点として挙げるならば、地上を僕が担いで走るから揺れが酷いって事かな。残念ながら僕の両腕には車の様に振動軽減のサスペンションは装備されてないからね。

 

 二、これまた結界術で纏めて包み、龍帝さんから空を通して空輸してもらう。


 今の所空を飛べるのは龍帝さんだけだと思う。雲龍帝さんは元・龍帝とは言え、今は人の身体に変化したばかりで勝手が掴めていない状態だ。正直、現代日本に生きる龍神様も含め、どうやって空を翔けているのか僕には今一理解できていない。

 霊力や神力、又は魔力をどのように扱っているのか、子供のころからの大いなる疑問の一つである……。


 これに関しての欠点を上げるとするのならば、龍帝さんの体力がどの程度まで持つのかが不安な事位かな?  


 三、結界で移動させる人達を全力でブン投げる。


 力技、以上でも何物でもない荒っぽい方法。これをやる場合心配なのは、今一何処に着地するのが不明瞭な事と着地方法だ。更には、結界内部で宇宙遊泳とピンボールを組み合わせた楽しい事態になる事必須。


「――とまあ、こんな感じだけど。一番楽なのは正直三番――」


「「「一番でお願いします!」」」


「――おおう!? そんなに大声で添えて言わなくても……」


 冗談のつもりで三番を押したんだけど……皆さん想像が豊な人達だね~。必死なフォルカさん達の反応を見て九ちゃんはカラカラと笑っているし、龍帝さんは雲龍帝さんに抱っこされたまま、いつの間にか気持ち良さそうに寝息を立ててるよ。


 さて、では一番の提案をご所望と言う事なので結界の維持を九ちゃんに頼むとして、僕が抱えて走る人に自動的に就任。雲龍帝さんは護衛で並走し、龍帝さんは空中待機。ま、こんな所だろうか。


「それでは早速、お主らはここいらで纏まって立つが良い。馬には荷物をくくり付けてしっかりと縛っておけよ。走行中は派手に揺れるからの」


 九ちゃんに言われた通りに馬さんにしっかりと荷物をくくり付け、フォルカさん一行は指定された場所に纏まった。皆若干緊張していらっしゃるみたいだけど、九ちゃんの結界術は中々のものだから安心して良い。きっと、結界に触れた邪気は立ちどころに消えてしまうから……。

 全身に霊力を漲らせた彼女はフォルカさん達へ静かに手を翳す。圧縮され、研ぎ澄まされた力が彼ら足元から四方へと広がり、地面から蒼い霊力の幕がドーム状に包み込んだ。彼らの頭上で風呂敷の結び目を結ぶ様にキュッとすれば完成だ。


「おお~……。何とも不思議な心地ですな、若?」


「た、確かに……。先程の戦闘でも同じ様な状態になったが、改めてとなると少々不可思議な心持ちだよ」


「殿下は落ち着いていらっしゃいますが、他の兵士どもはほれこの通り。新兵の訓練後の様な状態ですわい、ガハハハ八ッ!」


 そう言う御爺さんも足が若干震えてますよ?

 風呂敷を担ぐにはもちろん結び目を首下に掛けてが定番なので、風呂敷の結び目がある所まで一息に飛び上がる。小さい頃に遊んだエアーアトラクションの様な踏み心地の結界の上に着地して、結び目を掴んで滑り落ちる。

 結界内部ではフォルカさん達は既に地面から浮いている状態なのでそのままくるりと回転。直径三メートル位の結界式風呂敷を担ぐと、霊力を全身に巡らせて身体を強化する。今回は特に足を酷使するから、霊力の比率を足に多く振り分ければ準備は完了。


「では主様、私は前を走らせて頂きます。障害などは私が排除いたしますのでご安心を」


「妾は上に居るからの。一応周囲を警戒しておくが、居眠りしちゃったらすまん」


「クアッ! クルアァァッ!!」


 出番が回って来た事が嬉しいのか、ウトウトとうたた寝をしていた龍帝さんが覚醒。あれ? 今一人だけ残念な事を言っていらした人が――ま、いっか。

 それぞれが自分の持ち場に入った所で足と腰に力を入れて立ち上がる。人と馬と九ちゃんと、総勢三十名程の重さをぽっちゃりボディについている大根足で支える。しっかりと身の詰まった大根だから、このぐらいの重さは何のそのと歩み始めた。


「うむ! 中々に見晴らしが良いのじゃ。龍帝よ、お主はしっかりと空から見張っておれ。何かあったら直ぐに妾達に伝えるのじゃ!」


「クルァ!」


 僕らの頭上から警戒をする為に空を翔ける龍帝さん。澄んだ青空の中を力強く羽ばたき、自由に空を支配する様は正に龍帝。これなら警戒監視活動も大丈夫だろう。


「主様! 私が先導も致しますので、後を付いて来て下さい! これより先はモレク山のすそ野に広がるカルルの森で御座いますれば、天然自然の結界の様な場所です。くれぐれも私から離れません様お願いしますぞ!」


「分かった! でも、雲龍帝さんも気を付けて進んでね!」


 並走する僕らは互いに離れないように気を付けて走らなきゃいけない。ちょっと霊力を範囲察知に使えば、カルルの森とやらがとても優れた迷路になっているのが分かる。魔力と言う力も森全体に満ちていて、これは霊力での探知でないと確実に迷う仕様に自然だからこそのえげつなさを感じてしまう。

 この世界、特にヒューマニアン等の生き物は霊力よりも魔力に力を割いて生きている様だ。逆に自然に生ける植物などには霊力に重きを置いている様で、カルルの森全体から濃くも清々しい霊力が溢れ出ている。その溢れている霊力が感覚を狂わせるんだ。怖いね……。


「はてさて、道中何が出るやら……。気を取り直して――――いざ行かん、アルバス王国へ!!」


「「「「おう!!」」」」


 邪気を征伐する為、僕の修行の為。様々な思惑が絡んでいそうな旅の始まりだ!



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