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ぽっちゃり少年と旅するご近所の神様  作者: とっぷパン
一章 ”放浪と出会いと危機と” の段
17/65

5話~五大龍帝、顕現

常世に君臨する龍の帝、顕現!

「うう……こ、ここは……?」


「っ……フォ、フォルカ様……御無事に御座いますか?」


「ジェミニか……ああ、私は何とか。だが、私たちは一体何処に飛ばされたのだろう?」


 真っ暗な闇が支配する空間にてフォルカとジェミニは目を覚ました。魔方陣による凄まじい閃光が一団を襲い、彼らは強制的に転移させられた様だ。百人位の規模のヒューマニアンが楽々入れる空間で倒れ伏している一団。その中でも王太子フォルカと副長ジェミニの二人は比較的早く起き上がる事が出来た。


 強制転移によって体に大きな負荷がかかり、節々が痛むのをゆっくりと解しながら二人は辺りを見回す。暗闇の中でも確認できたのは自分達の他にも冷たい岩の地面に転がっている兵員達と、その奥に薄っすらと見える何処へと通じるか分からない道の入り口だった。

 とりあえず、二人のそばで気絶していたドルゲを起こして、残りの兵員達も順に近い者達から起こしていく。中には魔力の閃光によって魔力酔いと言う症状を発症している者も少なからずいた為、フォルカとジェミニの二人は自身の持つ魔力で一人ずつ体内魔力の乱れを直していく。


「……ふう、これで全員覚醒したか」


「すみませなんだ、若。若とお嬢ちゃんを庇う為に飛び出したは良いものの、膨大な魔力の閃光によって気絶してしまうとは……。何とも情けない所を御見せ申した」


「いや、謝らずともよい爺。爺が守ってくれた御かげで我々はいち早く気が付く事が出来たのだ。爺の行動が無ければ何が起きたか分かりはしない、ありがとう」


「そうですよ、ドルゲ様。フォルカ様の仰る通りです」


 申し訳なさそうに自身の不甲斐無さを込めてフォルカへと謝罪の言葉を述べたドルゲであったが、逆ににっこりと笑みを浮かべた二人に感謝を述べられた事から、少しの間目を瞑り黙考して気持ちを切り替え素直に感謝の意を受け取った。


「さて、皆の者よく聞いてほしい。現状、我らは雲龍帝様に顕現して頂く為の儀で強制的の転移させられた。これが雲龍帝様の意思の寄る物なのか、それとも別の何かが原因かは定かではない。が、現状ではそんな事を確かめようもない事もまた事実……」


 一団全員が無事に意識を取り戻したと言う事でフォルカは自身の推察と一団を取り巻く現状を確認する。彼らは是が非でも五大龍帝が一龍、雲龍帝に会わなければならない使命を帯びている。進退の内後退を断たれた彼らにできるのは、この空間で唯一雲龍帝の元にたどり着ける可能性がある奥の道を進む事だ。


「何としてでも雲龍帝様に会わなければ、我らを取り巻く現状の確認すらできない。なれば、あの奥の道を進む他はあるまい。異存は……無いようだな。では、先に進むとしよう」


 異常事態である為、一応一団の意思を確認したフォルカは異論がない事を理由に先に進む。何故か洞窟内だと言うのに薄っすらと明るいこの空間とは違って、奥の道は暗く明かりが必要だった。


「むう、何が起こるか予測できない為、魔力の温存はしておきたい所だな……。松明を持っている者や光の魔石を持っている者は遠慮なく使え。いざとなれば明かりの魔法でどうとでもなるが、不測の事態に備えておきたいのだ」


「はっ! 魔石を複数持って居る物は他の兵員にも渡すように。なるべく分散して満遍なく列に組み込みなさい」


「「了解いたしました!」」


 フォルカの案に応えたジェミニが一団に命令を下す。其々が遠征用の装備を各自用意していて、補給物資を運んでいる兵員も数名居たおかげで明かりの確保は出来た。

 一団は持っていた魔石と松明の両方を満遍なく振り分け、明かりの隙間をなるべく潰す事で足元の安全確保を試みる。更に斥候役に適している人材を先頭にし、その者の後ろに一団の中でも最高の戦闘能力を誇るドルゲを挟み、中央付近にフォルカと護衛のジェミニを位置づけて歩を進める。


 暗く湿った道は上から伸びた鍾乳石によって水滴がしたたり落ち、足元のそこ彼処に小さな水たまりを作っていた。それ加えて道の壁や足元の岩の隙間などから時折高温の水蒸気が噴き出す時があり、一団はフォルカに怪我をさせない様慎重に進む事を余儀なくされたのだ。

 熱くジメジメとした熱気によって一団の体力は徐々に奪われ、足を動かす度に滴り落ちる己の汗にも水分を奪われて疲労を積み重ねることに……。


「ぬう、確かモレク山の火山活動はここ数万年休止しておると聞き及んでいたが、これでは学者の言う事もあてには、できんな」


「……ま、全くです、ドルゲ閣下。帰国した際には是非にも、学者連中に進言してやってください。実際に現地に行って確かめたのか、と……」


「ふ、ふははっ! そうだのう、是が非でも問い詰めてやらねばいかんな……」


 先頭を歩く斥候役の兵員とドルゲが自国の学者連中に対しての軽口を交わす。これでもかなりの無理をしているようで、軽口の一つや二つ叩いておかなければ意識を保つのも厳しい所まで一団は来ていたのである。ある意味天然のトラップに嵌ったのと同じことだろう。しかもそれでも進むしか彼らには道は無いのだ。


 歩くたびに体力を消耗させられる道を進む事数十分。冥界の神々から与えられる罰、の様な道にもやっと終わりが見えた。

 奥の方から清涼な風と明かりが漏れ出ている。ここまで不快で猛烈に体力を消耗する道は、他に横穴や分かれ道も作為的な罠も無く完全な一本道だった。故に退避する場所も無く熱さや湿気から逃れる場所も無く、一団はひたすら前に歩を進めるしかなかったのである。

 そして、ここに来て体力の限界がきての希望の光。勇み足で踏み込むものが出てもおかしくは無かった。


「ひゃははっ! こ、これで湿気とおさらば出来るぜ……!」


「ああ、は、早く、早く行こう……!」


「これ、待たんかトルパ、ウェルド! 早まるでない――ぬっく、足が動かん……!」


 ドルゲの制止の言葉も虚しく、先頭の斥候役の者を押しのけて一刻も早く責め苦から逃れたい者達が走り出す。

 得てしてこういう状況では入口や出口に罠が張られていると思うのが定石。だが、正常な判断が出来る普段の状態ならばまだしも、今は体力、思考能力共に平常から大きく逸してしまっている。古人が危機に陥った者は藁をも掴むとはよく言ったものである。


「ハァ、ハァ……俺が一番乗りっ――うわあぁぁぁぁ!?」


「お、おい、どうした――ぎゃあぁぁぁぁっ!?」


 光が射す方向へ彼らが消えた瞬間、悲鳴と戸惑い、そして絶叫が洞窟内に響き渡った。その声を聴いた一団は急いで道の出口に全体力を使って駆けつける。疲労と軽度の脱水症状で苦しむドルゲは後方の者達が肩を貸し、残りの者達は出口付近で一時停止して中の様子を慎重に伺う。


「……どうだ、先走った者二人は生きておるか?」


「王太子殿下……はい、どうやら地面に倒れ伏しているようですが、怪我や出血などは見られない模様です。すぐに回収へ向かいますか?」


「ああ、すまんがカリム頼めるか。彼らに何が起きたか分からないが、このまま仲間を放っておく訳にもいくまいしな」


「分かりました。誰かお手伝いをお願いします。僕一人ではトルパさん達をを担いでまで運べませんから」


 偶々一番先に出口に着き様子を伺っていたのは新人のカリム二等兵だった。フォルカの言葉に一も二も無く頷いた彼は、自身の他にも救出の為に人員を要請し、近くに居た比較的体力が残っている兵員と共に倒れた二人に近づいていく。

 何が起きるか分からないので救出に参加した四名の隊員は慎重に近づいて行った。岩かげに隠れながら忍び足で二人の元まで接近した時、カリムを含めた四名の隊員は気付く。


「なっ……!?」


「ひぃぃっ!?」


 物陰でこそこそとしている自分達を見つめる巨大で鋭い視線を放つ圧倒的な存在に。


『よくぞ来た、アルバス王国のヒューマニアン達よ。……最も、こちらとしては招いた覚えは無いのだがな』


 巨大な空洞に鎮座する圧倒的な力の塊。見るものすべてに畏怖と尊敬を同時に与える事が出来る神話の存在。古の時代から聖なる山モレクにて世界を見守る五大龍帝が一龍。嵐と雨の力を内包した最強の龍帝、雲龍帝。その圧倒的な力を持ってすれば全ヒューマニアンは一日で滅び、その痕跡ですら三日間で抹消させる事が出来るとまで言われた伝説の存在――


『して、何用で参ったのだ? 此度の不躾な来訪、事と次第によってはこの雲龍帝の怒りに触れると知っての蛮行か?』


「あ、はっ……っ!?」


 ――その神話の龍帝が今彼らの前に完全なる怒りと敵意を向けて顕現したのだ。


 余りの威圧感と自分たちと根底から違う存在に息をするのも忘れる兵員達。視界に入れるだけで自身がいかに矮小な存在であるかを叩き付けられるのだから、高々一ヒューマニアンでしかない兵員達では到底受け止められる圧力では無かったのである。

 むしろ、先程の先走った二人の様に視界に居れただけで気絶しないだけ幾分かましだろうと言える程だ。最も、彼らを見下ろす雲龍帝からすれば些細な差であったが……。


『どうした、愚かなヒューマニアンよ。……私は息の仕方から教えてやるほど気は長く無いぞ?』


 溢れる力に奔る稲妻、開いた巨大な顎門漏れ出る息には焔が混じり。明らかに雲龍帝が怒気を交えて彼らを睨み付けている事が伺い知れた。


『それとな、その様な稚拙な気配の消し方で隠れているつもりか? 残りの者達も潔く出てくるがいい』


 雲龍帝の聖域であるモレク山内部では何もかも御見通しなのだろうか、気配を消して事態を見守っていたフォルカ達もあっさりと見つかってしまった。最早隠れた所で意味は無く、出てこない事で更に雲龍帝の怒りを買う羽目になるよりは素直に出て行った方が良い、そう考えたフォルカは兵員達に合図して雲龍帝の眼前に歩み出た。

 改めて目の前で見る雲龍帝の姿にフォルカは魂の底から畏怖を覚えた。一歩一歩近づいていく度に全身の筋肉が戦慄き、アルバス王国の歴代王達が頑なに守り通した約束の相手の意味を知る。

 ついにその身が雲龍帝の前に辿り着いた時、正直なところフォルカは祖国の事も放ってこの場から消え去りたいと思う程精神的に追い詰められていた。


『ふむ、お前が私を呼び出した者か……。あの鐘を持っていると言う事はお前も王族の一人なのだろう。名を名乗る事を許す、申してみよ』


「は、はっ、はい! 私はアルバス王国国王ラドルフ・G・アルバスが嫡男、フォルカ・G・アルバスと申します!」


『……ほほう、さしずめお前は王太子と言う訳か』


「ははっ! 上に兄が居ります故、次期国王と言う立場にはなれませぬ。が、血のスペアとして生涯兄上を支えていく覚悟に御座います!」


 何とか震える喉を動かして声を発するフォルカ。鼓動が早くなるのを胸に中てた掌で感じ、深く深呼吸する事で正常値とまではいかないまでも幾分か落ち着ける。緊張と恐怖で乾く口の中を唾液で濡らそうと思うも、先程の道を通った事による軽度の脱水症状によりそれすら叶わない。

 フォルカ自身の事を話している感触からして先の険悪な感情は少し和らいだ様に見えた。


『して、その王太子が何用で参ったのだ。お前も王族の一人ならば古の約定は知っておろうに、何故来た?』


「……は、はい、その事なのですが――」


 だが依然としてフォルカに向けられる威圧感は一切揺らぐ事は無い。口調こそ穏やかさを感じさせるものとなっているが、その向けられる視線と圧力は寧ろ鋭くなっているのだ。王太子として生を受けて十数年と幾日か、これまで様々な力を持つ者と出会い見て来たフォルカは強者が自分に向ける視線には敏感になっていた。故に、今現在伝説の存在である雲龍帝から向けられる力が怖くて堪らなかった。


「実はここ数年、我が王国内部でおかしな事件が多発する様になりました。原因は不明で分かっている事はどの事件でも死人が出ている事だけ……。やり方もやり口も不明ですが、遺体には激しい損傷を負った者が多く。中にはミンチになって遺留品からようやく身元が判明した者までおります」


 実はここ数年で、世界各地にあるヒューマニアンで構成された国家や獣人、魔族と言った人種の国家で不可解な事件が多発していた。

 事件が起こる度に死傷者が多発し、それはそれは凄惨な現場には結界を施して封印する他ない場所まで出る始末。それに加えて事件後には必ず瘴気と呼ばれる邪悪な力が発生し、それによって二次的な被害まで出ると言うのだからたまった物では無い。


 瘴気を祓えるのも世界各国にある神々を崇める教会の中でもほんの一人握りしか居らず。慢性的な人材不足に悩む協会と国家では、瘴気を祓える人材の獲得競争が激化している位だ。今この世界はゆっくりと滅びに向かっている状況なのだ。


「――と言う次第です。この瘴気に感染した者はまず思考に変化が現れ、進行の度合いが深ければ体内の魔力が増大しより攻撃的な人格へと変異します。……かく言う私もその被害に会いまして、旧年来の親友を亡くしてしまいました」


 悔しさに震える拳をきつく握りしめ、当時の状況を思い出したのか己の無力さに唇を噛み締めるフォルカ。王太子として動こうにも相手は一概にはどうしようもない相手、結局はその者の命を絶つ事でしか救う手立てが無いのが現状だった。


「お願いでございます、雲龍帝様。貴方様が我々ヒューマニアンの事象に不介入を取っておられます事は重々承知の上で申し上げます……。どうか、どうかその御力を持ちまして我らこの世界に生きる者達に御助力をっ! 不肖フォルカ、命を擲ちましての嘆願に御座います!!」


 魂の奥底からの渇望。混迷極まる世界にて唯一残された希望の頂点、五大龍帝に対して地面に土下座をする王太子。国を守る為、家族を守る為、臣民を守る為。彼を動かすのは正に王族のとしての覚悟だった。


『…………』


 その王太子の覚悟と目的を見せられた雲龍帝は沈黙を貫く。ジッと伏しているフォルカを見つめ、次いでその後ろに居るフォルカを見守る者達に視線を移す。誰も彼もが王太子であるフォルカを心配する者がほとんどで、その中でも副官のジェミニとドルゲの二人は固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた。


『成程、事の全ては理解した。これより、その方達が瘴気と呼ぶものについて二、三説明しようと思う。その対策ものな。だが――』


「え?」


『その前にこ奴らを始末せねばならぬ……!』


 そして、唐突に事態の急変は訪れる……。



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