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THE BOWN  作者: Kyontyu
2/3

第二夜

第2夜「愛彩のち哀彩」

Lovecolor later sorrowfulcolor


 僕は痛む左腕を庇いながら枯れた木の葉が舞い落ちる山を下り、学校の校庭に向かっていた。空のディスプレイには襲撃を伝える警告のメッセージと避難勧告で埋まっていた。更に市街地の方でも煙があがっていて、街で戦闘が始まっている事が分かる。下って行く途中で何人か山の避難シェルターに避難する人達とすれ違ったがすれ違った人達の顔、顔、顔は皆恐怖に怯えていた。僕は血が出そうな程唇を噛み締めながら山を下っていく。しかし目は依然として紅黒く染まっていた。



                    ◇◆◇




 ハンターオウルはコロニー内部に到達するが、その瞬間申し訳程度の対空砲が襲う。しかし、ハンターオウルはそれを軽々と避け、加速器の粒子を加速させ、砲塔を掃射する。砲口から放たれたピンク色の光条は当った物を溶かし、地面に赤熱した線が引かれる。

 そして砲塔の大半が沈黙した後、ドロック部隊が侵入した。しかしその時、目視出来ない程の速さの弾丸がビーストドールを貫き、爆散させる。ハンターオウルのパイロットが弾丸が飛んできたであろう方向を拡大表示させながら索敵していると左側に大きな黄色いシールドを展開させてライフルでこちらを狙う機械の巨人がいた。

「新兵器と思われる物を確認した。敵はヒューマノイド型だ。黄色は私が引き受ける。ドロック部隊は索敵を継続していろ」

 そして通信機から「了解!」という声が返って来た。



                    ◇◆◇




 僕は校庭に辿り着いた。そこには座り込んでしまったサキとユウキ、そして地面に片膝をついて静かに佇む灰色の巨人がいた。その巨人は機械だが曲線が多く、ある意味1種の生き物のように思えた。僕はその巨人を見つめながら歩き始めたが立ち上がったユウキが僕の手を掴む。

「何処に行くつもりなんだよ」

 僕はその手を振り解き、振り向かずに言う。

「早く避難しなよ」

「おい、急にどうした……!」

 ユウキは僕の肩を掴み、無理やり振り向かせた。しかし彼は僕の紅い目を見て慄いた。

「おい、お前……その目……」

 ユウキは後ずさり僕は彼を睨みつきながら言う。

「僕は奴らに復讐する。そしていろはの仇をとる」

 ユウキは反論する。

「そんなの、誰かが代わりにやってくれるよ! それに君はあの巨人でどうしようって言うんだよ!」

 それを聞いた僕は怒鳴った。

「それじゃ駄目なんだ! 『誰かが』じゃ遅いんだ! 自分から行動を起こさなくちゃ何も変わらない! そうで無かったらみんな死んでしまう! 友人も、家族も、大切な人だって! だから何が何でもやるしかないんだ!」


「もう止めてよ!」


 座り込んで今までの会話を聞いていたサキが叫び、泣きながら話し始めた。

「もう止めてよ……みんな……みんなおかしいよ……確かにタクヤは大事な人を失ったかもしれない……でも、でもケンジだって……」

 そこでサキが声をあげて泣き出してしまった。

 僕は右手でユウキの肩を掴んで揺らした。

「おい……ケンジがどうなったって? 答えてくれよ!」

 ユウキは僕から目を逸らして言った。

「ケンジなら……死んだよ……」

「ッ!」

 僕はユウキの肩から手を離した。

「頭を瓦礫で潰されていて……どうしようも無かったんだ……」

 そしてユウキは体中から力が抜けるように地面に両膝と両手を地面について頭を垂れた。

 僕は歯軋りする。目は更に赤み帯びて輝いていた。そしてまるで僕の怒りに呼応するかのように巨人の腹部のコックピットハッチが開き、ハッチの上に開いた部分からラダーが下りてきた。


 2号機「アマテラス」のパイロットである雷堂ヨウタは左レバーのパッドと右レバーを使って市街地にいるハンターオウルに狙いを定め、引き金を引く。弾丸はおよそ15ノットのスピードで飛んでいくがハンターオウルには当らなかった。

 ちっ、とヨウタは舌打ちをした。

 いつもはこんなじゃ無かったのに……

 このアマテラスに装備されているグロウリィア粒子式レールガン「アマノセンコウ」膨大な量の電力を消費するかわりに超音速を超える速さで弾丸を撃ち出す事ができ、コロニーに開いた穴がコロニー内の気流を乱し、風が不安定だが弾丸は風を切り裂き直進する為、弾道は絶対に安定する筈だが、ハンターオウルはそれを全て避け、腕に搭載されている高周波ブレード「カレトブルッフル」で攻撃してくる。そこでヨウタのオペレーター兼学園の数学教師のハイスが気の抜けた声が聞こえる。

「お~う会長さん。頑張ってるね~」

 ヨウタは背面の腰についているカーボンナノチューブで造られている黒い刀身が特徴的な小太刀「クロガネ」で防ぎながら話す。

「ハイス先生、何のッ、用ですかッ?」

 そして更に気だるそうな声が返ってくる。

「ん~いやなんか「プロヴィデンント」への避難が完了しそうだからさ、『艦長』さんが言っとけってさ、ウン」

「ッ! 今はちょっと話し掛けないで下さい! アイズ!」

 その瞬間ヨウタの目が黄彩に光った。

 EYE'S(アイズ)―それは遺伝子という設計図から新たに発現した、新しい人のカタチ。1種の超能力のようなものでその能力についてはまだまだ解明されている事が少なく、分かっているのは目の色が変わり輝く事、大きく分けて4種類存在する事だけだった。

 ヨウタはアマテラスを1度後退させた。そして左肩のシールドが分裂して10基の独立したビットになった。

 一方的に通信を切られたハイスは一瞬ぼーっとした。 

「あっ、1号機……」

 モニターにはコックピットの座席に座り込むタクヤの姿があった。



                    ◇◆◇




 僕は副座式のコックピットの前に座るとコックピットハッチが閉まり、横にあったコンソールがスライドして前方に移動する。そしてコンソールにはこう表示された。

Big

Offense

Weapon

kNight

 僕は連なる大文字を繋げて読む。

「ボーン……これが僕の力……」

 そして両レバーを前に押し倒して機体を立ち上がらせようとするがその瞬間ドロックが飛んできて地面に押し倒されてしまった。

「うわぁぁぁぁ!」

 そしてドロックは両腕でBOWNの頭部を連続して殴る。そしてしばらく殴った後、アームの機関銃で頭部を撃ち続ける。しかし装甲には穴が空かず装甲が少しずつへこんでいった。

 やられる!と思った瞬間どこからか声が聞こえた。心の中から響いてくるような声だ。

……ヤツラガニクイカ?……

『憎い! 僕の大切な人を奪った奴らが憎い!』

……ナラ、ナニガヒツヨウダ?……

『力……力が欲しい!」

……ソウカ、デハツヨクオモエ、ノゾミハチカラダ……

『強く…思う…』

……ソウダ……ソシテモット


コロセ


「うぉぉぉぉぉ!」

 僕は叫ぶ。憎しみを、悲しみを、怒りを、欲望を、心の全てをこの巨人に預けるために。するとBOWNの色が青と白に変わり肩のフレームに「須佐能乎」(スサノオ)と印字され、機体の所々に入った線状のへこみの部分が水色に染まり、頭部のバイザーが上にスライドし、バイザーに隠れていた紅い目をした生き物の目が現れた。そしてコックピットの座席が変形し、僕の動きをトレースできるようロボットスーツのように体に纏わりついた。不思議な事に既に腕の痛みは引いていた。そして僕となったスサノオは左手で起き上がり、右手でドロックの頭を掴み、ゆっくりと握り潰す。最後の方にバキッと共に何か柔らかい物を潰す感覚がスサノオのマニピュレーターを通じて伝わって来た。僕はその感覚に歓喜し、その快楽に完全に溺れていた。何故か自分の気持ちが高揚するのが分かる。しかしそれに反して僕の目からは涙が流れていた。

涙を流した僕は怒鳴る。

「まだだ……まだだぁぁぁ!」

 BOWNの口だと思われる部分がバギッとという音と共に開く。


―――グヴォオオオオオオオオオオオオオオ!


 おおよそこの世界では聞く事の無い全ての感情を吐きだすようにスサノオは吼えた。そして口から黒い吐息のようなものを吐き出し、背中のライトローダーを起動させて描かれた蒼空に黄緑色の輝線を描きながら翔んだ。



                    ◇◆◇




 モニターを見ていたハイスが1号機の異常に気付く。既にコックピットカムは謎の通信エラーによって遮断されていた為、1号機の状態を示す画面に切り替わっていた。

「ッ! 主任さん! ちょっと来てくださいっ!」

 そこにさっきまで1号機の謎の起動の究明にあたっていたBOWNメカニック主任、斎木エリカが棒付きキャンディーを銜えながらモニターを覗きこんだ。しかし彼女はモニターを見て危うくキャンディーを落しそうになった。

「何よこれ……! この反応はBOWNじゃ無い……!? ヒトの生体データなの? ハイスさんっ! まさか私をからかう気じゃないでしょうね!?」

 ハイスは否定するように体の前で両手を振る。

「いやいやいや、ちゃんと見て下さいよ! ちゃーんと『波動』が感知されているでしょう!?」

「……じゃあ、BOWNが完全に『覚醒』したのか……」

 まさか、とエリカは思った。そしてエリカは持っていたタブレット型の端末でこの生体データを元にコロニーのサーバーに検索をかけた。すると検索結果は彼女の予感通りだった。

「高彩…タクヤ…」

「知ってるんですか!」

 ハイスは自分の生徒の名前を聞いて驚いた。ええ、と彼女は頷く。

「高彩タクヤ…BOWNを造り上げた者の息子…1号機の起動の鍵は彼のDNAコードだったのね……」

 ハイスは身を乗り出す。

「他に何を知っているんですか?」

 エリカは信じられないといった顔でモニターを見つめながら言った。

「でも彼、高彩タクヤは……」


 ―10年前に死んだ……


 そしてエリカはキャンディーを噛み砕いた。


「うわぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇ! あぁぁぁぁ!」そこで僚機からの通信が途絶えた。その後隊長は何度も呼び出すが通信機から返ってくるのは五月蝿いノイズ音だけだった。しかし隊長はもう1機の危機を察知する事が出来なかった。

「ぐゎぁぁ!」

 もう1機のドロックは横から高速で飛んできたスサノオに頭部を蹴られて地面に落下してそのまま頭部を踏まれた。ドロックは抜け出そうともがくがアームが脚に届かない。

「あ…悪魔」と兵士がその先を言おうとした瞬間スサノオに踏みつぶされた。そして踏みつぶされたドロックの両腕が力無く落ち、親機を失ったビーストドールが1機落下した。

 隊長は2機のビーストドールと共に周囲を警戒したが、物体の接近を伝えるアラートが鳴った瞬間両側のビーストドールが爆散した。そして隊長の正面のモニター映ったのは両手に刀、「クサナギ」を構えて飛びあがるスサノオの姿だった。

「こんな事が……」

 隊長のドロックは×の字に切り裂かれ、爆発した。燃え上がる残骸の炎が映るスサノオの姿はまるで鬼神のようだった。


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