第一夜
初めましての人は初めまして、Kyonytuです。今回の作品はまだ試作品というわけで、何か設定や、世界観などに気になる部分がありましたら、感想欄に書いてくれると、嬉しいです。
第1夜「始まりの空彩」
The beginning of skycolor
昔の僕にとってその日は随分と普通で何も当たり障りの無い1日だった。
だけどこの日が始まった瞬間から世界は壊れていったんだ。
◇◆◇
晴れ。
空は満天の青空、小鳥のさえずり、心地よい風、ここまでの再現力と高解像度の空があると自分が地球にいると勘違いしてしまいそうだ。ここは地球と月のラグランジュポイント、L3にある現存する中で地球にもっとも近いコロニー、カラースカイzeroだ。空となる天井には大量の高解像度有機ELディスプレイが貼られている。そこに映し出される青空は虚偽のものとは頭では分かっているつもりだが、何故か心が落ち着く感じがする。これがヒトの本能というものなのだろうか。
そんな事を考えながら僕は学園の校庭の端にある真っ赤に紅葉した木の木陰でお茶とオニギリを食べていた。今は昼休みなので校庭ではサッカーやバレーをやっている人達が見えた。僕はそんな人達の姿を見ながらオニギリを1口ほおばった。しかしそこで「相変わらず孤独だなぁ!」という1声と共に背中をど突かれた。まだ口の中にあった米と具(鮭)の中の1つの米粒が気管に侵入して思わずむせ返った。僕は喉を押さえゲホゲホと咳ごみながら考える。この声音、言動、犯人は一瞬で察しがついた。
咳が収まった後、徐に後ろを振り向くと、そこには見慣れた人物、白崎いろはが満面の笑みで立っていた。この画だけを切り取るといかにも可愛らしい娘なのだが、騙されてはいけない。彼女は外見と裏腹に男勝りの身体能力でバトミントン部のキャプテンを務め、校内徒競争大会では男子陣を完膚無きまでに叩きのめし、校内記録を塗り替え、更にその身体能力に合う凶暴さを兼ね備える。先程の小鳥のさえずりとは全く縁の無い人物だった。
そんな彼女とは逆に、僕、高彩タクヤはお茶とオニギリが大好物で化学部に所属する世間で言ういわゆる草食系男子だった。
僕達の暮らすこのコロニーにはこの学校と幾つかの大学しか無い。だから僕達の通う学校は小中高一貫の学校、空彩学園という学校だ。ちなみに僕といろはは高等部二年で同じクラスだ。
満面の笑顔のいろはの足元に一つのサッカーボールが転がって来た。いろはがボールを拾うと三人の子供達が走って来た。どうやら背丈から見ると初等部だろう。しかし、子供達はいろはの顔を見るなり「あっ! 怪力女だぁぁぁぁ!」と叫んだ。流石にいろはもキレたのかブチッと血管が切れるような音が聞こえて、更にサッカーボールが潰れてしまうのではないかと心配するぐらいにサッカーボールを握り締め、「うらぁぁぁ!」の掛け声と共にサッカーボールを蹴った。サッカーボールはなんとざっと五百メートルあるクリーム色の校舎まで飛んでいき、少し遅れて悲鳴が聞こえる。これでは怪力女と言われても仕方のないように思えた。でも、彼女はあまり見せることは無いのだがとても優しい場面もあったりして僕はこういう所に惹かれていったのだった。僕は不意に携帯電話を取り出し、すこし操作した後ホログラム画面に表示されたニュース欄を見てみた。だがしかしそこに映っているのは戦争の話ばかりだった。
13年前から火星付近に位置する1つのコロニーが突如として他のコロニーに侵略を開始した。目的は謎、何度か和解の交渉を持ち掛けたが、交渉どころか国の責任者すら出て来ないという散々な結果に終わっていた。最初はコロニー単体で防衛していたが、敵の技術力は大変なもので1つのコロニーでは太刀打ちする事が出来なかった。
そして争いは二分化していく。侵略されたコロニーと本国で構成されたアルカディア軍、多数のコロニー国家が同盟を結んで創られたコロニー国際連合軍、通称UNCA。
しかしこの戦争は何年か前から泥沼化が進み、長期化していた。しかしここ数年で敵が新兵器を導入した事により、物量で圧倒していたUNCAが不利になっていき、UNCAが押され始めていた。いずれ僕達が住むこの中立国のコロニーにも飛び火するのも既に時間の問題となるだろう。
いろはが画面を覗き込み、「ふーん、まだ続いてるんだ、戦争」と呟いた。
うん、と僕は頷く。
「まだどちらも決定打を決められていないようだし、まだまだ長期化しそうだ」
と、そこまで言ったところで学校の昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「とりあえず戻るか」
僕は立ち上がった。
◇◆◇
「ハンターオウル1号機、ステルスモード機能は正常に稼働しているか?」
橙色のストライプが入ったウィングを畳み、フクロウのような形をしたV字型の頭部が特徴的な「ハンターオウル」のコックピットに乗っている白いノーマルスーツを着たパイロットは横にしたラグビーボールのような形をしたコックピットを見渡して答える。
「問題無い」
「了解、ウェーブクラウドを解除したら30秒以内に粒子ビームで外殻の目標ポイントを崩壊させろ。それを過ぎれば奴らのレーダーに映ることになるぞ」
「了解した」
「現在、ドロック部隊をそちらに向かわせている。もう少し待っていてくれ」
そこで通信が終わった。
パイロットは周りに表示された空間を見て呟く。
「……静かなものだな」
周りには絶対零度の虚空が広がり、目の前には水を湛えた蒼い地球、後ろには鼠色の球が浮かんでいた。
◇◆◇
今日の全ての授業が終わり、僕たちは裏山にある山道の掃き掃除をしていた。
木々は真っ赤に紅葉しており風景としてはとても綺麗なのだが、掃除をする側にとっては大迷惑だ。掃いても掃いても木の葉が落ちて来るので埒があかない。
はぁ、と溜息をつく僕の隣にいる形山ケンジがニヤニヤしながら肘で突っついてきた。
「さっきの話、覚えてるか?」
「うん、まぁ」
「準備は万端、何やってもOKだから、後はお前の勇気だけだ。頑張れよ」
ケンジは右腕でガッツポーズをして、木の裏に隠れた。そして僕は再び今日最大級であろう溜息をつく。
◇◆◇
事の発端はこの掃除が始まる前に遡る。
僕が竹箒を取りに行った時に肩を叩かれたので後ろを向くと掃除の班の班員の形山ケンジ、刀乃ユウキ、鱗咲サキが立っていた。
「なぁ」と僕の肩にケンジが手を置いた。そして彼は真剣な顔をしてこう言ったのだ。
「彼女に、告白しないか……」
その言葉を聞いた途端、頭が真っ白になった。
体感時間では3分ぐらいだろうか、いや、よく分からない。そして頭が導き出した答えは至ってシンプルな物だった。
「お断りします」
と箒を持ってそそくさに立ち去ろうとするがケンジに肩を掴まれ、「今がチャンスなんだ!」とか、「これを逃したら絶対後悔するぞ!」などと言われ僕の拳がわなわなと震えた。そしてネタが尽きたのか「いつやるか、今でしょ!」なんて古いものとか言われると怒りが臨界点に達し、頭が白熱化する。僕は涙を浮かべた目でキッと前を睨み、「分かってますよ! そんな事!」と怒鳴った。
「僕だって、僕だってねぇ、言いたいんですよ! でも勇気が無いんです! そんな事を言う勇気が!」
そしてそれを聞いたケンジが自分を親指で指し、「俺に任せろ!」と言った。
そして今に至る。
僕は咳払いし、いろはに近づいた。
「ドロック部隊、到着しました」
レーダーに映らないように少し遠方に集まった部隊を見て白いパイロットスーツを着た男は愕然とした。
「たったこれだけか……」
集まったのはハンターオウルと同じようなV字型の頭部があって下半身が無い半人型ロボット「ドロック」が3機、胴体の形はドロックと同じだが、頭部にはセンサー類を沢山装備し、丸っこい形をしたAI操作の「ビーストドール」が5機だけだった。
しかしどんな戦力でもこれは任務だと自分に言い聞かせて、ハンターオウルのウェーブクラウドを解除する。両ウィングが開き、両手で後ろに粒子加速器と追加バッテリーが装着した荷電粒子ビームライフルを構え、粒子の加速を始めた。
「作戦開始まで20秒」
僕はいろはに歩み寄り、いろはの肩を叩いた。
「あのー、いろは? 話があるんだけども……いいかな?」
◇◆◇
「発射」
男はトリガーを引く。ハンターオウルの荷電粒子ビームライフルから放たれた熱線はコロニーの外殻を貫いた。
彼女は俯いて、僕の耳の横に口を近づける。予想外の彼女の行動に思わず僕の心臓は高鳴る。そして彼女は僕にそっと小さく耳打ちした。
「逃げて」
彼女はそのままの姿勢で僕を押し倒し、僕はそのまま急な斜面に落下した。何も考えられずに落下していると、さっき僕達がいた場所が爆発した。そしてバキッと嫌な音がしたか思うと僕は意識を失った。
僕は目を開けた。最初は目がちかちかしていて前があまり良く見えてなかったが、徐々に風景がはっきりし始めた。そして僕は徐に立ち上がると左腕が骨折したのか、激しく痛んだ。僕は左腕を庇いながらゆっくりと急な斜面を登るとそこには大きなクレーターが出来ていた。気付くと僕は涙を流していた。クレーターの中を見るといろはのブレスレットが落ちていた。ピンク色だったブレスレッドは色が落ちて灰色になってしまっていた。この光景を見るかぎり彼女の体は蒸発して無くなってしまっているだろう。僕はブレスレッドの前にがっくりと膝をつき、ブレスレッドに触れた。すると体中に衝撃が走り、ビクッと背中を仰け反らせたのと同時にさまざまな情報が頭の中に入ってくる。脳が処理出来ない程の情報量だ。
そしてそれが収まった時、僕は徐に目を開けた。
その眼の彩はどす黒い血のような紅に染まり、周りは何事も無いように紅い木の葉が舞い落ちていた。
サキとユウキが山の学園に避難しようとしていると校庭の地面がせり上がり、そこから片膝をついた鋼鉄のような物でできた灰色の巨人が現れ、サキとユウキは腰を抜かして座りこんでしまった。
巨大ロボット物を小説でやるのは難しいといいますが、ロボットがどうしても好きなのでやってみました。
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