(7)結城、覚醒、黒結城....!?
しばらくの沈黙の後、私は立ち上がった。
「千早!?」
結城の驚いた顔。
そんなに驚かなくてもいいじゃないか。
「利用.....してたんだね」
「え?」
「そりゃ、こんな単純馬鹿のことなんて簡単に信じさせることできるか」
「な、なに言ってんの!?千早ちゃんを利用するとか.....そんなんじゃない!」
「私の名前を呼ぶな!!自分が助かればいいんだろ!?そんな.....そんな意味のわからないことに私を巻き込むな!!」
こんなふうに感情任せに結城を責めてもしょうがない。
でも、でもね。
「好きだったのに.....」
大切だったのに。
「千早ちゃん.....」
「結城のこと、水樹ちゃんよりも好きになりそうだったのに!」
結城。
「結城のこと!好きなのに!!」
初対面のときから、結城はアホで。
バカで、マヌケで。
でも、優しかった。
好きだった。
大切にしてくれて、嬉しかった。
こんな短い時間でこんなにも結城を好きになったのはさ、結城がそういう人間だからだよ?
「千早ちゃん....えと.....」
結城が少し困ったように、あたふたする。
そりゃそうだ。
「巻き込むな」って言ったと思えば、「好きなのに」だもんなぁ。
自分でもなにがなんだか。
「......ありがとう」
う。
不意打ち。
天使かこいつは!?
笑うな!可愛いから!!
ちっ。
くっそ可愛い。
「千早ちゃん、あ、あのさ!僕は....ね、千早ちゃんを利用するとかじゃないから!!千早ちゃんに見せない僕の姿もあるけど...でもね....っ!」
可愛い。
「結城」
「な、なに?」
「たっーぷり時間あげるから、私が納得するぐらい、私に見せたことのないお前の姿を見せてみろ!バーカ!」
「.......いいの?」
「あったりまえ!」
すると、結城は眼鏡をかけた。
め、眼鏡.....?
素晴らしい!萌えアイテムではないか!
「ばっ....結城!」
シンさんが何故か止めようとした。
が、なんと結城はシンさんを腕一本で止め.....た!?
あのアホ結城がシンさんをか!?結城くん覚醒ですかマジですか!?
「あぁ......手遅れかよ....」
「あ、あの....シンさーん....?結城君一体どうしたんすかねー....」
「簡単だ、黒結城だな」
なんすかその中ニ病ネーム。
眼鏡ってそういう働きあったっけ。
いきなり結城に世に言う壁ドン、というものをされる。
本当にいきなりだ。
「なぁ」
結城の声が耳元でくすぐったい。
体が張り詰めたように動かない。
「さっき千早は、たっーぷり時間くれるつったよな」
「は、はい.....?」
「.....覚悟しとけよ」
すんません、あなた誰ですかね。
あの結城が壁ドンなんてそんな高度なことできるわけないっすよね?
そうっすよね?
私、合ってるっすよね?
「ね、ねぇ.....あんた....誰?」
「結城だけど....わかるだろ?」
「え、あ、はい」
つい敬語になってしまうくらい、結城ならぬ『黒結城』は.....
「.....っ」
かっこよかったんだ。
そして、黒結城の顔が近づいていく。
「ちょっ....結城!?」
「と、そこまでな」
シンさんが結城の眼鏡を無理矢理とった。
「シンさん!?じゃ、邪魔しないでくださ......」
言いかけてハッとする。
邪魔しないで.....?
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ嘘です!嘘嘘!」
恥ずかしい。
なんだよ、もう。
恥ずかしいって....相手は結城だよ!?
しっかりしろ自分!
「千早ちゃん....?」
「嘘だっつってんの!!それとも私、なんか言った....?邪魔しないで...とか言った...?」
「え、あ、いや..…言ってないっす」
黒結城.....か。
普段の結城とはまるで正反対。
「結城.....黒結城と意思疎通できんの?」
「うん。できるよ。あいつも、僕も、僕だから」
「そっ…か」
あんな…...恥ずかしいことも...普通の結城がやろうと思えばできるんだ...。
「千早ちゃん....顔赤いけど.....」
「こ....の....っ、ハレンチ!!ばかやろおおおおお!!」
「えっ」
「おい結城妹、結城がかなりショック受けてるぞ」
「あ、ごめん」
でも、結城の顔を見ると、心臓がギュッとなってたまらなくなるんだ。
「で、でもさ!なんで私が謝らないといけないのさ!」
そうだよ。
私は悪くない。
「ゆ、結城がかっこ可愛いのが悪いんだよ!!」
あれ?
「き、兄妹愛.....」
シンさんが目を逸らした。
しかも、少し頬を赤くして。
ん?
ん?
ん!?
「ち、ちっがぁぁぁう!!なんでそうなるぅぅ!?」
「いや、だってよ....」
「千早ちゃん.....褒めないでよぉ、よし!頑張るぞ!」
「お前らちょっと待てえぇぇぇぇぇぇ!」
「ふぅ.....とりあえず、落ち着けたな」
「.......」
「結城いいいいいいい!?」
すっきりした笑顔の私の前には、珍しく汗ダクダクなシンさん、そして結城だった物体、がいた。
「おまっ.....結城妹!なんで結城を殴るんだ!?」
「え?やだなぁ、私が殴る?んなアホな。ってか結城って誰ですか?え?この物体?......あぁ、あなたもこんな感じにしてほしいと?」
「い、いや!そのっ!......結城、悪い」
「ちょぉぉぉぉぉ!?友達を見捨てるなよ!?お前キャラ崩壊してんからな!?」
「「あ、復活した」」
「うっ.....うっ.....お前らなんて....お前らなんて.....」
あぁ。
なんか面倒くさそうな雰囲気。
「シンさん、行きましょ」
「あぁ、そうするか」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?人で無し!!ばかばかばか!」
結城に呆れながらも、いつもと同じ様子の結城に少しほっとしてる自分がいる。
まあ、いつもって言っても会ってからのことだから、大した時間じゃないんだけどね。
「結城ぃ、水〜喉渇いた....」
「う、うん!了解っ!」
「お前、下僕みたいだな」
「や、やだなぁ褒めないでよっ!」
「結城、シンさん褒めてないからね」
すっかり元の調子。
結城が利用してたとか、本当なのかな。
私は、結城が好き。
でもね、私は結城を信用できてる?
心のどこかで疑ってるんじゃない?
そう思うと、怖くて仕方がないよ。
「千早ちゃん?」
「う、うわぁ!?結城っ!」
「あ、ごめんね。驚かせちゃったかな?」
「....結城」
「ん?」
純粋な目。
すごく綺麗な目。
でも、哀しい目をしている。深い海のように濃い色。
「.....なんでもない」
まだ言うのは早いよね。
なんて。
本当は利用してる、て言われるのが怖いだけなくせに。
「千早ちゃん....?」
「な、なに?ほんとなんでもないんだよ?うん。間違えただけ」
「ならいいんだけど.....」
結城、不安そうだな。
でもそれも演技だったり....。
「......なに考えてんの、そんなわけないじゃん」
「千早ちゃん」
私、性格悪すぎ。結城は普通に心配してくれてるだけなのにさ。
「千早ちゃんは、僕のこと信じられないんだね」
「えっ!?い、いやそうじゃないけど」
「.....大丈夫だよ、僕は」
あ.....。
結城、寂しそう。
「結城....ごめん」
「なんで謝るのさ〜、はいお水」
私は結城から水の入ったコップを受け取る。
コップの半分以上入った水。
持ちやすいようにか、取手がついているコップ。
そんな、小さな気遣いが嬉しい。
好き。
「結城、結城妹。俺は外に出る。お前らは休んでろ」
し、シンさんに気を遣わせてしまった....。
ていうかこの状況で2人きりは辛い!
「........」
「........」
喋ってよ馬鹿結城!!
「....喋って...この沈黙嫌だから」
「え?あ、うん。えっと.....」
私、こんなときまでバカみたい。
結城に、素直になる。
こんな簡単なことができない。
嫌だなぁ。
「ねぇ、千早ちゃん.....」
そんなとき、結城が口を開いた。
とても更新が遅れた......。