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激突、ゴーレムレース

 グラウンドでセラと一緒に訓練をしていると、見慣れない生徒が3人、ビニール袋を持ってやってきた。

 そして落ちているものを拾っては、ビニール袋に入れている。

「ゴミ拾いですか? お疲れ様です」

「ゴミ拾い? いや、ゴミなんかじゃありませんよ。材料を集めているんです」

「材料? 何のですか?」

「夏休みの課題です。僕らはお金がないんで、落ちている材料を使おうと思って、こうして学校中回ってるんです。ほら、これはワイバーンの糞です。これはユニコーンの蹄の欠片。フェンリルの毛に、コカトリスの羽毛。そしてこれはなんと、グリフォンの羽根! 貴重品ですよ!」

「へえ、これで何ができるんです?」

「糞は燃料にすることが多いですけど、成分を抽出すれば薬にもなります。骨や毛は機械の部品に使えますし、特にグリフォンの羽根は高機能な部品に使えるんです。これでいいゴーレムが作れますよ」

「へえ、ゴーレム。じゃあ……」

 なんとなくライトニングに視線を送った。その頭には宝石が七色の光を放っている。

「そうですね、確かにカーバンクルの宝石は最高級のエネルギー源ですけど。さすがに生きているカーバンクルから取ろうとしたりはしないですよ。そんなひどい人、いるわけがないでしょう」

 いや、いるような気がした。少なくとも予約という意味で。

「じゃあ、これは? さっきククルの皮が剥けちゃったんだけど」

 セラは自分の顔くらいの大きさの皮を手にしていた。ごつごつしていて丈夫そうだ。セラが持つと大きく見えるけど、ククルにしたらちょっとすりむいたってくらいなんだろう。

「ここっこれはっ! ドラゴンの皮じゃないですかっ!」

「いいんすかっ! こんなすごいもん、いいんすかっ」

 みんなのテンションが一気に上がった。しきりに使い道を言い合っているようだ。僕には言っている意味がさっぱりわからないけど。

「そんなにすごい物なの?」

「これがあれば、ワイバーンの皮を使ったときより十倍は性能が上がりますよ。ありがたいです!」

「へえ、そうなんだ。なんかちょっと見てみたいな、作るとこ」

「そうだね。ちょっと興味あるかも」

「それなら、ぜひいらしてください。まだ設計段階なんですけど、いろんな方の意見が聞きたいですし」

「行く行く。行きたい」

「僕も行くよ」

 というわけで、課題をやっているところを見せてもらうことになった。

 ライトニングとククルは先に帰らせ、僕らは彼らの後をついて歩き出した。

「そうだ、まだ名前を言ってませんでしたね。僕はトヨタ。工学科の1年です。こっちの背の高い方がホンダ君、で、こっちのぽっちゃりしてるのがスズキ君」

「僕は早来勇」

「私はセラ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしく。では、こちらです、この向こうなので」


 工学科の校舎は、窓を大きくとったとても近代的なデザインで、大都会のオフィスビルのような概観をしている。

 中に入ってもとても整然としていて、しかも明るい雰囲気、こう言ってはなんだけど生物科の校舎とは大違いだ。あっちは今にもゴーストが出てきそうだもんな。

「ここです。僕らが課題用に割り当てられた研究室は」

 エレベーターで3階に上がり、2色でデザインされたドアを開くと、中は綺麗に整理された作業場のような部屋だった。

 壁際には多くの引き出しがついている高い棚があり、上のガラス棚には様々なモンスターの体の一部が所狭しと詰め込まれている。

「うわっ、何これ。なんか気持ち悪いなあ」

 セラはちょっと引いているようだ。といいつつ僕も少しびびっている。

「あ、ああ、すいません。まあ、慣れですよ慣れ。最初は驚きますけど、すぐに気にならなくなりますから」

「えーっ、そんなもんなのかな」

「とにかく座ってください。今、設計図を表示しますから。ホンダ君、あれ表示してよ」

「オッケーっす」

 僕らが作業台の周りの椅子に腰掛けると、ホンダ君がキーボードを操作し始めた。

 しばらくすると作業台の色が急に明るくなり、パッと設計図が表示された。

「えっ、何? ただのテーブルかと思ったのに」

「すごいね、近代的。ローテクの使役科とは大違い」

「いやあ、それより見てくださいよ。これが今設計中のゴーレムなんですが、この足の結合部なんか結構考えたんですよ、自信作なんです。それにこの動力部分、最新の技術を使ってまして……」

「ええと……、これは……」

 そう言われても、見方がよくわからない。セラも困惑しているようだ。

「ああ、すみません。これじゃよくわからないですよね。ホンダ君、完成予想図の方を出してよ」

 今度は作業台にゴーレムのデッサンが表示された。人型ではなく、八足歩行型のようだ。

「へえ、こんな形なんだ。何をするゴーレムなの?」

「障害物競走をするんですよ。2学期の初めに、各グループが持ち寄ってレースするんです」

「なるほどねぇ。障害物競走だから八本足なんだ」

「そうです。キャタピラ型や四足歩行型、もちろん人型も考えましたが、作りやすさや機動性などいろいろ考えた結果、これがベストだろうということで」

「ふうん、どうやって操縦するの?」

「いや、操縦するのではなく、基本的には自分で判断して動くようになっています。ここにキマイラの中枢神経から作った情報処理装置が入っていまして。でも大まかな指示は音声でできるようになっています」

「へえーっ、すごいんだねぇ」

「ねえ、出来上がってるやつはないの? 動いてるところが見たいなあ」

「ああ、たしか別の部屋に歴代の優勝ゴーレムが保管してあったはずです。僕らもまだ見たこと無いんですけど、一緒に見に行きますか?」

「行くーっ、行こう、いますぐに」

「うん」

 ということで部屋を出ようとしたら、トヨタ君がドアの取っ手に手をかける瞬間、大きな音とともに勢いよくドアが開いた。

「おい、やってるか? お前ら」

 そこには真っ赤な前髪を激しくおっ立て、つり上がった太い眉毛をした男性が仁王立ちしていた。

 背も高いし体格もいい、なにより醸し出す迫力が強烈だ。

「あ、ああ、デトロイト先輩、おはようございます」

「なんだおい、別に殴りに来たってわけじゃあないんだ。そう俯くなよ。激励に来てやったんだぜ、ありがたいだろう」

「え、ええ。はい、ありがとうございま……」

「聞こえねぇよ、なんだって?」

「ありがとうございます!」

「おお、そうだよ。お、なんだ、見ない顔だな。他の科の生徒か?」

「あ、ええと、早来勇です。使役科1年です」

「ふうん、そっちの小学生は誰だ? なんでこんなとこにいるんだよ、迷子かよ」

「小学生じゃありません。セラです。使役科の1年生です」

「おっと、そりゃすまなかったな。どう見てもランドセルしょって来たのかって感じだったからよ」

 セラはデトロイト先輩を激しく睨みつけている。それに引き換え、僕は目が泳いでいた。いや、僕だけじゃなく、工学科1年の3人もそうだったんだ。そう、僕だけじゃないんだよ。

「おい、これは」

 デトロイト先輩が作業台に置いていたククルの皮に目をつけた。

「こりゃあ、ドラゴンの皮じゃねえか。しかも取れたてだ。上物じゃねえかよ、おい。何でこんなもん持ってんだよ、貧乏グループの癖によ」

「あの、ええと、それは」

「私がこの人たちにあげたんだよ。なんか文句あんの?」

「えーと――ああ、なるほどな。お前があのドラゴン使いの――はいはい、噂は聞いてるよ。でもな、これはお前らにはもったいないな。この工学科四天王の一人、皮職人のゼネラル・デトロイト様が使ってこそ意味があるもんなんだよ。わかるだろう、お前ら」

「ちょっと、勝手に持っていかないでよ。返して、返してよ」

 セラが一生懸命取り返そうとするけど、身長差があるので手が届かない。

「ちょっ、ちょっと」

 僕がそういいかけた時、後ろから聞いた事の無い甲高い声が響いた。

「返してくださいよ!」

 振り返ると、ぽっちゃり体型のスズキ君が鬼の形相で先輩を睨みつけていた。

「お、おう、なんだよ。珍しく口をきいたと思ったら、俺に歯向かうっていうのかよ」

「それは僕らがもらったんですよ。返してくださいよ!」

 スズキ君は先輩の前に歩みだし、一歩も引かない構えを見せた。

「なんだこら、やんのか? デブの癖に」

「勝負ですよ!」

「え? 勝負? なんだよ、勝負って?」

「ゴーレムレースで勝負するんですよ。勝った方がその皮をもらえるんですよ、どうですか?」

「はあ? なんでそんなことすんだよ。勝てるとでも思ってんの?」

「勝ちますよ!」

「ほう……、いいぜ。じゃあ勝負しようじゃねえか。そうだな、1週間後に課題用の障害物レースでいいか? 四天王総出でぶっ潰してやるから、覚悟しときな」

 そう言い放って、デトロイト先輩はノシノシと去っていった。

「ふぃーっ」

 先輩が見えなくなったとたん、スズキ君はべったりと床に座り込んだ。

「はーっ、びっくりしたあ。急にぶち切れるなんて思いませんでした」

「ほんとっすよ、普段物静かなのに」

 トヨタ君とホンダ君もかなり驚いているらしかった。

「あれくらい言ってやらなきゃだめなんだよ。あんたたちももっと言ってやればよかったのに。私ももっと言いたかったよ」

 セラはまだいきり立っている。僕は正直ほっとしている。

「いや、なんか。セラさんが必死な姿を見てたら、急に頭に血が上ってしまったんですよね。でもどうしましょう、勝負なんて。四天王相手に勝てるわけないですよね。やっぱり」

「さっきから言ってる四天王ってなんなの?」

「ああ、それはですね、工学科で自他共に認める最高クラスの四人の職人がそう呼ばれてるんです。さっき来たのが皮職人のゼネラル・デトロイト先輩、あとは骨職人のフォルクス・ヴォルフスブルク先輩、繊維職人のルノー・ビアンクール先輩、そして錬金職人のフィアット・リンゴット先輩。この四人の3年生が四天王です」

「へえ、すごいの? その人たち」

「っすね。去年も一昨年も四天王のグループがゴーレムレースで優勝したらしいっすよ。夏と冬の2回ずつ」

「じゃあ、さっき見に行こうとしてた中に?」

「ですね、彼らの作品も入ってるはずです。4体とも」

「じゃあ、見に行こうか」

 ということで、歴代の優勝作品が保管されている部屋に向かった。


「これはっ」

「やっぱりすごいですね、この皮と骨のつなぎ。それにこの脚部の繊細な造形、無駄の無いエネルギー変換。さすが四天王という感じです」

「そうっすね、このボディなんてマンティコアのたてがみで織ってあるっすよ。すごい弾力っす」

「うん、どれもすごいですよ。特にこのユニコーンの角の切り出し方といったら、どうやってるのか全然わからないですよ」

 3人ともしまってあるゴーレムを見た途端、夢中になって隅々まで見回している。

 設計図ではわからなかったけど、ゴーレムは意外と大きくて、両手で抱えるくらいの大きさだった。

 細かいことはよくわからないけど、確かに小さな部品までとても綺麗な仕上がりになっているし、素人目にもすごく速そうなのはわかる気がした。

「そう? うちの弟の方がうまいような気がするけど」

 一緒にゴーレムを見ていたセラが、ぽつりと呟く。

「え? ジョフ君?」

「うん、ジョフも結構うまいと思うよ。と言っても、私の方が断然うまいけどね。へへん」

「マジっすか? セラさん」

「うん。難しいことは解らないけど、骨とか皮とかの細工なら自信あるよ。おばあちゃんに教えられて、ちっちゃい時からやってたから」

「じゃ、じゃあ、ちょっとやって見せてください」

 そう言ってトヨタ君は何かの骨と小刀をセラに手渡した。

「ワイバーンの手首の骨だね、じゃあ、こうして、こうして、こんな感じかな」

 骨はみるみるうちに、ドラゴンの姿へと変貌した。躍動感のある緻密な造詣で、今にも動き出しそうだ。

「すごいじゃないですか! いけますよ、これならいけますよ!」

「そっすね、設計は我々がしますから、細工をお願いしたいっす」

「いいよ。私もあいつをぎゃふんと言わせてやりたいからね。協力するよ」

「僕もできることは協力するね。一緒に四天王を倒してやろう」

「よし、やるぞ!」

 みんなで声を合わせた。


 一週間後。

 もう約束の場所で三十分待っているけど、四天王は誰も姿を現さない。

 周りを見渡すと、いつのまにか人だかりができていた。僕らは誰にも言っていないはずなのに、四天王が言いふらしたのだろうか。

 それにしても遅い、もしかするとすっぽかされているんじゃあ、と思っていると四天王が談笑しながらやってきた。

「おお、わりいな。目覚ましが鳴らなくてよ」

「鳴らなかったも何も、セットしていなかったではありませんか。まったくあなたという人はいつもこうだ」

「ねぇ、さっさと終わらそう。今作ってる服さ、早く仕上げたいんだよね」

「まったくだな。こんなことで時間を潰してしまって、迷惑な話だ」

 デトロイト先輩は相変わらずラフな服装で髪型はばっちり決めている。あとの3人は、縁無しのメガネをかけて服装もシックに決めた一見するとまじめそうな男性と、背が小さくて派手な服を着た、ぱっと見地味な顔立ちながらも愛嬌のある女性、そしてすらりとした長身で切れ長の瞳に長い金髪をなびかせた綺麗な女性だった。

「もう一人の男の人がヴォルフスブルク先輩。小柄な女性がビアンクール先輩、背の高い女性がリンゴット先輩です」

「へえ。ありがとう」

「いえ」

 トヨタ君が小声で教えてくれた。どの人も一筋縄ではいかない独特の雰囲気を醸し出している。

「じゃあ、とっととはじめようぜ」

「いや、待ちたまえ。その前に条件の確認をさせていただきたい、と言うより条件を追加したいのですよ。勝ってもゼネラルが皮を受け取るだけというのは、まったく物足りないじゃありませんか。僕にも何かメリットが欲しいのです。いや、たいした物じゃあありませんよ、ドラゴンの爪、伸びすぎて切った分をいただければ十分です」

「それならあたしだって、ドラゴンの鬣が欲しいんだけど。なるべく首の付け根に生えてるやつね」

「そういうことなら、わたくしにはドラゴンの糞をいただこうか。少なくとも10kgほど。できれば尿もいただきたいが、どうかな?」

「ええっ、そんな……」

「いいよ! あげるよ! でもその代わり、こっちが勝ったら全員土下座して『威張ってごめんなさい』って謝ってよね」

「ああ、いいぜぇ、勝ったらな」

「交渉成立だな」

 なんか勢いで決まってしまったけど、本人がいいって言うんだからいいか。といっても正確には本人はククルだけどね。

「ではお待ちかね、こちらのゴーレムから出させてもらうぜ。こ~れ~だっ!」

 デトロイト先輩が取り出したのは、二足歩行の人型ロボットだった。シンプルなデザインだが、細かい造形はさすが四天王という感じで、完璧に仕上がっている。

「まさかバランスの難しい二足歩行型を選んでくるとは思いませんでした。かなり舐められてるってことでしょうね」

 トヨタ君たちの表情は硬く強張っている。ちょっと相手の圧力に飲まれているみたいだ。

「これが俺達の集大成よ。単に勝つだけじゃねぇ、華麗に、圧倒的に、パーフェクトに勝つ。それが俺達四天王のやり方だ」

 向こうは4人とも完全に勝利を確信しているようだ。自信に満ちた顔でこちらを微笑みながら見つめている。

 だけど、僕たちだってここまで頑張ってきたんだ。負けられない。

「では僕らのゴーレムも出しましょう」

 トヨタ君が、僕らがこの一週間必死に改造を加えた、八足歩行型のゴーレムを取り出した。中央の球体部分から長い8本の足がすらりと伸びている。

 実はこのゴーレムにはちょっとした秘策があるんだ。あの球体部分の中には……ふふふ、後のお楽しみだ。

「へえ、なかなかよくできてんじゃねぇの。といっても俺らの敵じゃないけどな。じゃあ、スタートはそっちのタイミングでいいぜ、いつでも始めてくれや」

 お互いのゴーレムをスタート地点にセットする。スタートの合図はセラがやることになった。

「よーーーい、スタート!」

 僕らのゴーレムはスタートと同時に快調な滑り出しを見せた。

 でも四天王のゴーレムはピクリとも動かない、故障だろうか。なんにしても今のうちに差を広げておきたい。

 早くも最初の障害物、三十段の階段上り下りにさしかかろうとしていた。そして順調に1段1段上っていく、いいぞ、その調子だ。よし、もう頂上だぞ、あとは下るだけだ。

「っしゃあ、いけぇ、ビュイック! 四天王の力見せつけてやれ!」

 デトロイト先輩が叫んだ途端、四天王のゴーレムがすごい勢いで走り出した。綺麗なフォームで二本の足を交互に繰り出し、あっという間に階段の下までやってきてしまった。

「いやあわりぃな、ちょっと早すぎたかもしれねぇや。盛り上げようと思ったんだけどよ」

 そしてピョンピョンと跳ねながら、階段を1段飛ばしで上ってくる。なんて軽快さだ。

 こっちはちょうど階段の下りが終わるところだ、ああ、でも追いつかれる、追いつかれた、追い抜かれたぁ。

「残念だったなお前ら。もうお前らの勝ちは無いぜ」

「楽勝だったね、やっぱり」

「まだ大丈夫だよ、頑張って! プリウス!」

 四天王のゴーレムは、次の障害である十個のハードルを次々と飛び越えている。

 僕らのゴーレムも遅れてハードルに到着した。よし、ここだ。

「スーパージャーンプ!」

 セラの声とともに、僕らのゴーレム、プリウスは空高く飛び上がった。そして、一気に十個のハードルを飛び越えた。

「よし」

 トヨタ君達が小さくガッツポーズした。3人ともかなり考えて工夫していたからね。成功してよかったよ。

 これで少し差が縮まったけど、まだ相手は結構先だ。四天王のゴーレムは最後の障害である、トラップゾーンに到達している。

 ここがこのレース最大の難関だ。大きな鉄球が往復し、上下左右に動く床や、地雷が設置されている死のゾーン。毎年ここでリタイヤが続出するとトヨタ君から聞かされている。確かにこりゃそうなるよな、まったくこの学校は……。

 でも四天王のゴーレムは巧みにタイミングを取り、次々にトラップを突破していく。

 相手が三分の一ほど進んだところで、僕らのゴーレムも遅れてトラップゾーンに入った。そして、順調に鉄球を潜り抜けていく。

 と、突然の爆発。プリウスの足が、途中から一本吹っ飛んだ。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

「ああっ」

「終わったな、お前ら」

「一本くらい大丈夫。まだ七本あるんだもん。いけるよ」

 どうにかトラップゾーンを越え、最後の直線コースに入った。もう四天王のゴーレムは30mほど先、残り70mだ。

「よし、今だっ! ライトニング!」

 僕の掛け声で、僕らのゴーレムの球体部分が光を放ち始めた。そう、これが僕らの秘策。ゴーレムの中に待機していたライトニングの力で、一気にスピードアップを図る作戦だ。ずるい気もするけど、生きたモンスターを使っちゃいけないっていうルールは無いみたいだし。問題ない!

 僕らのゴーレム、プリウスは一気にスピードアップし、四天王のゴーレム、ビュイックに追いついてきた。

「よし、もうちょっと」

 もうあと数mのところまで迫った。これは勝てるかも。

「なんだと、どういうこった、これは」

「まだ奥の手があるでしょう。まさか使うことになるとは思いませんでしたが」

「やっちゃいなよ、あれをさ」

「うむ、やるか。ターボチャージャー発動! ペガサスエネルギー点火!」

 四天王のゴーレムが急に加速した。背中から真っ赤な炎を吹き出し、猛スピードで両手足を動かしている。

 でもまだこっちのほうがほんの少し速い。少しずつだけど差が縮まっている、どうにか追いつけそうだ。

「バカな、わたくしのターボチャージャーを上回るとは。いったいどんなエネルギーを使っているんだ。せめてペガサスの糞ではなくグリフォンの糞が手に入っていれば……。ああ、糞が、糞がぁ」

 リンゴット先輩が大声で糞を連呼している間に、ゴールは目の前に迫ってきた。2体のゴーレムは横一線だ。

「よし、いけぇえ! プリウス!」

「ビュイック! 意地見せろぉお!」

 するとゴール直前、僕らのゴーレムの球体部分の光が消えた。

「ええっ」

 そして……、負けてしまった……。

「よおっしゃああ!」

「そんなぁ……」

 僕らは全員、がっくりと肩を落とした。四天王はデトロイト先輩とビアンクール先輩が激しい動きで喜びを表現している。あとの2人はあまり表情には出していないけど、なんとなくほっとしているように見えた。

 しばらくすると、リンゴット先輩がゆっくりと僕らのゴーレムに近づいていく。そして、球体部分を開けた。

「なるほどな、こういうことか」

 僕らも急いで駆けつけると、中でライトニングが目を回していた。乗り物酔いかもしれない、あれだけ激しく動いたんだもんな、無理はない。かわいそうなことをしてしまったかも。

「ライトニング、しっかりして。ごめんね、無茶させて」

 ライトニングを中から出し、地面に寝かせてやった。

「カーバンクルにこのような力があるという話は聞いたことがないが……。なかなか興味深い現象だな」

「おい、こんな事してたのかよ、お前ら」

「いや、生きたモンスターを中に入れてはいけないというルールはありません。なんら問題ないでしょう」

「ちょっと、モンスター虐待だよ! だめ! 絶対!」

 でも四天王の機嫌がいいのはもちろんだけど、トヨタ君達の表情も晴れやかだった。全然敵わないと思っていた四天王をここまで追い詰めたんだし、そう考えると上出来だよな。

「ユーさんセラさん、ほんとにありがとうございました。2人の協力が無ければここまではできませんでしたよ」

「その通りですよ。ほんと感謝感謝ですよ」

「ほんと、そうっす」

 スズキ君は、軽く涙ぐんでいる。僕とセラは顔を見合わせて微笑んだ。

「まあ……、でもよ。確かにお前らよくやったよ。ぶっちゃけ、ここまでやるとは思わなかったぜ」

「確かに、賞賛に値しますね」

「でも、約束の賞品はもらうけどね」

「無論だな。このバケツ一杯に入れてくれたまえ」

「ちぇーっ、わかりましたぁ」

 セラはふてくされていたけど、なんかこれで四天王の人たちとも打ち解けたような気がした。トヨタ君たちも四天王の人たちと、レースの内容やゴーレムの構造についていろいろと話している。全力で戦ったことでお互い親近感が沸いてきたのかもしれない。僕らとベルモント姉妹みたいにね。


 後日、セラは四天王の人たちに約束の物を届けたみたいだ。というよりククルを連れて行って、その場でやってもらったみたい。

「なんかすっきりしちゃったよ。爪も鬣も綺麗になっちゃってさ。それに……う、うんちも……」

 とのことだった。

 あと、トヨタ君達にもその中の4分の1くらいを渡してくれたらしい。

「あいつらには、このくらいで十分だろ。感謝しろよな、俺らに」

 と言っていたそうだ。

 でもやっぱり悔しいな。いつかリベンジしてやりたい。セラもそう思っている感じ。

「今度のときまでに、もっとライトニングを鍛えておいてよね」

 だってさ。

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