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ドラゴンの故郷へ

 訓練のために、休みの間学校に残るとはいったものの、こう毎日訓練ばかりじゃあちょっと飽きてくるよなあ。

 そう思いながら訓練するでもなくライトニングと校内を散歩していると、向かい側からエルナ先輩とマルガレータが歩いてきた。

「おはようございます。あの後どうなりました? あの部屋は」

「うむ、おはよう。まあダメになった機材もたくさんあったし大変だったな。だがそれよりもかなり貴重なデータが採取できたぞ。それを考えれば、片付けなどたいした問題ではない。今解析を進めているところだが、当面は実験を頼むことはなさそうだな」

「そうですか、お役に立ててよかったです」

「キミらの怪我の方はどうかな?」

「ああ、おかげさまでもうすっかりよくなりましたよ。包帯も必要ないですし。ライトニングもこの通り」

 ライトニングはマルガレータの頭の上に上っている。もしかすると、ライトニングがマルガレータに懐いている感じなのは、マルガレータの頭の中にカーバンクルの宝石が入っていることと関係があるのかもしれない。仲間の気配を感じているからなのかも。

「うむ、それはよかった。では、わたしはこれから機材の買い付けをしに行かねばならんのでな」

「ああ、街へ行くんですね。気をつけて」

「ユーっ!」

 エルナ先輩と別れようとすると、急に空の方から名前を呼ぶ声がした。

 驚いて空を見上げると、セラがククルに乗ってこちらに向かってきているのが見えた。

「セラ、帰ってきてたんだ」

「うん、ちょっといったん戻ったんだ、ユーを迎えにね」

「迎え?」

「そう、家族にユーの話をしたら、一度会ってみたいって言うからさ。あ、ところでこの人は?」

「ほう、これがうわさのドラゴンか。山岳系の種だが、まだ子供のようだな」

「この人はエルナ先輩、生物科の3年生だよ。この前知り合ったんだ。この子はセラ、僕の同級生です」

「セラです」

「エルナだ、よろしく頼むよ。ところでキミたちは付き合っているのかな?」

「えっ、いや、そういうわけじゃ……」

「そっ、そうそう、別に彼氏とかそういうんじゃ……」

「そうか、実家に顔見せと言うからには、そういうことなのかと思ったのだがな。ということはわたしがどうこうしてもいいということかな?」

 エルナ先輩の流し目が、しっかりと僕の目を捉えた。

「いや、そんな、ご冗談を」

「ふふふ、もちろん冗談さ。わたしが興味あるのはモンスターだけだ。ま、いずれドラゴンというのも研究してみたいものだな。もっともドラゴンは意外と研究が進んでいるんだ。ミーハーな研究者が多くてな。ほら、こうするといいのだろう」

 エルナ先輩がククルの羽の付け根をなぞると、ククルはうっとりと気持ちよさそうな顔をした。

「あ、ククルの好きなところ、よく知ってるね」

「セラ、先輩だよ。ちゃんとしないと」

「ああ、すみません」

「じゃあ、わたしは行くとするよ。まあ、もしものときはすぐに連絡してくれ」

 エルナ先輩は、マルガレータに車椅子を押されて去っていった。

「もしものときって?」

「あ、いや、なんでもないよ、うん」

 ちょっとセラには言えない感じがしたので、契約のことは黙っておいた。怒り出すかもしれないからね。

「それより、セラの故郷に行くんだって?」

「ああ、そうそう、乗ってよ。すぐ行くから」

「え、いや、でも準備が」

「そんなのいいって、ほら」

 そんな感じで勢いよくククルの背に乗せられ、僕は大空へと飛び立った。ライトニングは、ククルの頭の上にちょこんと乗っている。

 それにしても、やっぱり空の上は気持ちいいや。まだちょっぴり怖いけど……。


 もう3時間くらい飛んでるのかな。最初のうちは日差しが強くてかなり暑かったけど、だんだんと標高が高くなるにつれて、肌寒くなってきていた。

「あとどれくらいかかるの?」

「もう少し、あ、見えてきた。あそこに見える村だよ」

「あそこ? どこ? 村なんて見当たらないけど」

「あそこだって、山頂が三つ見えるでしょ、その真ん中の山の右上の辺。ほら」

「あの遠くの山? あんな遠くじゃ全然わからないよ、ほんとにここから見えてるの?」

「見えるでしょ、もう、勉強ばっかりしてるからだよ」


 しばらくすると、僕にも村らしきものが見えてきた。ぱっと見た感じ人口三百人くらいの小さな村みたいだ。家の壁は土でできていて、屋根は草でできている。標高が高いので高い木はなく、低いひょろっとした木がまばらに生えているくらいで、その間に家が点在している。間には畑が広がっていた。

「ただいまー、連れてきたよ」

 ちょっとした広場のようなところに着陸すると、何人かの人が迎えに来てくれていた。

「おお、おかえりー。この子かい、セラの言っていたのは」

 セラにちょっと似た感じの女の子がゆっくり近づいてきた。背丈もスタイルも顔の感じもセラとそっくりだ。ただセラと大きく違っているところが一つだけあった。それは――おっぱいが大きい!

「あ、どうも、はじめまして。早来勇といいます。ええとこの方は? セラのお姉さん?」

「私は長女だからお姉ちゃんはいないよ。この人はおばあちゃん」

「えっ、おばあちゃん? だってこんなに若いのに?」

「若くないよ。もう六十過ぎてるんだから」

「こらセラ、あんまり人の歳を勝手に言うもんじゃないよ」

「ごめんなさーい」

 そういえば前にセラが言っていたな、村の女性はみんな若く見えるって。でもこれほどとは、どう見ても十代前半なんだけど……。

「それより、長旅で疲れたでしょう。こんな所じゃなんだから、早くうちに来な」

 ということで、セラの家に行くことになった。


 セラの家は、他の家と同じように土の壁に草の屋根で、広い畑の真ん中にぽつんと立っていた。広さは5LDKといったところだろうか、結構広い。

 中に入ると、広間にひげを生やした四十代くらいの男性とショートヘアーで十代前半くらいの女性がいた。といっても、もうだまされない、あれはきっとお父さんとお母さんなんだ。

「おじゃまします。はじめまして、早来勇です」

「おお、いらっしゃい。待ってたよ、娘が世話になってるらしいじゃないか。すまんねぇ」

「いえいえ、こちらこそですよ。世話になりっぱなしです」

「ふふふ、私の言った通りでしょ」

「もう、セラったら、ユー君の話ばかりするんですよ。そんなに言うんなら、連れてきてよって話になっちゃってね。ささ座って、ミルクティー入れるから。ほんとこんな田舎まで来させてごめんなさいね」

「とんでもないです。すごくいいところだと思います」

 お世辞じゃあない。もちろん礼儀をわきまえての発言だけど、景色もいいし空気も綺麗だし、なにより会う人会う人、いい人ばっかりだ。

「この子がライトニングちゃんね。かわいらしいわ」

「でしょ。この宝石の色が珍しいんだよ」

「ほんとに、不思議な色ねぇ」

 そんな感じで、しばらく広間で学校の話や僕の故郷の話なんかをした。

 ふと気がつくと、窓の外から男の人が覗いているのが見えた。僕よりちょっと年上くらいの感じで、ちょっと機嫌が悪そうな表情をしている。

「あっ、ジョフ。あんたもこっち来て話を……」

 セラが声をかけると、その男性はぷいっといなくなってしまった。

「いまのは?」

「弟だよ、ジョフっていうんだけど」

「へえ、ずいぶん大人っぽいね。年上かと思った」

「まだ十四だよ。見た目は立派だけど、中身は全然子供なんだよね、まったく」

 それからしばらく話をした後、昼食をいただくことになった。

 昼食の間も、セラとお母さん、おばあさんはよく喋り、お父さんはたまに話をするくらい、弟は一言も喋らなかった。こりゃ完全に女系家族だね。

 昼食は芋と山羊の肉を煮込んだ素朴なものだったけど、食卓の雰囲気が賑やかでとてもおいしく感じられた。僕の田舎もこんな感じだったので、少し懐かしさがこみ上げる。やっぱり帰っておけばよかったかも、とも思ったり。

 

 午後はドラゴンの巣の方へ行くことになった。

 夏はこのあたりのドラゴンの出産シーズンということで、ちょっと危険もあるっていう話だけど、セラがいれば心配ないだろう。

 ドラゴンの巣は、切り立った崖の中腹にポツポツと空いた、大きな横穴の奥にある。

 普通の人にはとても近づけないような場所だけど、ククルに乗れば簡単に中に入っていけた。直径10mくらいだろうか、丸い横穴でカーブしながら奥へと続いている。

「静かにね、卵を温めてるかもしれないから」

「わかってる」

 小声で話しながらゆっくりと横穴の奥に歩を進めると、一番奥のところに赤茶色をした30mくらいのドラゴンがうずくまっているのが見えた。目を閉じて眠っているようだ。

「やっぱり卵を温めてるところだね。ほら、あの前足のところ」

 セラの指差した先を見ると、銀色の卵が腕に包まれていた。ドラゴンの大きさからすると小さく見えるけど、実際には1mちょっとはある感じだ。

「へえ、こんな姿が見られるなんてほんとすごいよ。来てよかった。すごい、すごいよ」

 僕の興奮をよそに、ライトニングはちょっと怯えているようだ。僕の後ろでしきりに辺りを気にしている。

「あんまり大きな声出さないで。卵を抱いたドラゴンは気が立ってるんだから」

「ああ、そうだった。わかってるんだけど、ついつい感動しちゃって」

「もう行こうか、父親が帰ってくると出られなくなるかも――あっ……きちゃった……」

 入り口の方を振り返ると、黄土色の巨大な顔がヌッと現れた。鋭い目つきで、口にはヒュドラの死骸を咥えている。と同時に、ズシンと大きな振動が走った。

「隠れなきゃ。この窪みの中でククルの陰に隠れて。臭いで気付かれないように」

「う、うん」

 ライトニングは驚いて、一目散に僕の服の中に入ってきた。

「だ、大丈夫だよ。たぶん……」

 ごつごつした皮膚がすぐ間近を通り抜けていく。基本的にはククルと同じなんだけど、やっぱりでかいと迫力が違う。それに、ヒュドラの血の臭いが充満して、目がくらくらしてくる。

 でもどうやら無事、やり過ごすことができたようだ。

「さ、早く行こう。今のうちに」

 ドラゴンが奥の方を向いているのを確認して、素早くククルに乗り、横穴の外に飛び出した。

「ふーっ、緊張したぁ」

「私も穴の中にはあんまり入ったことないんだ。普段は池の辺りで遊んだりしているから」

「池って?」

「じゃあ、行ってみる?」

 山の上空を飛んでいくと、山合いにひょうたん型の池が見えてきた。その周りでは数匹のドラゴンやワイバーン、それに小型のモンスターたちが、水を飲んだり休んだりしている。

「学校に入る前までは、いつもここで村のみんなと一緒にモンスターと遊んでたんだ。ククルともここで出会ったんだよ」

「へえ、いいところだね。緑も多いし」

 それからしばらく、池のほとりで景色を眺めながら、セラと話をした。


「ユー、もう日が暮れちゃうよ」

 あれ、確か話をしていたと思ったけど、いつの間にか寝てしまったらしい。辺りは少し薄暗くなってきている。

「ああ、ごめん。いろいろあったから疲れてたのかな」

「へへ、実は私も、さっきククルに起こされたんだ。帰ろう、おなか空いてきたし」

「そうだね、僕も」

 ということでセラの家に戻り、晩御飯をいただいた。

「今日は泊まっていきなよ、ユー。なんなら何日かいてもいいんだよ」

「そうね、何もないとこだけど、ユーさんさえよければいつまでもいていいんですよ」

「まあ、多少農作業をやってもらうけどな。ほっほっほ」

「ああ、いえ。そうですね、今日はもう遅いんで、お言葉に甘えようかな。でも明日は帰ることにします。やっぱり迷惑はかけられないので」

「えーっ、いいのにー」

「そうかい、まあ今日だけでもゆっくりしていきなさいな」

 この村では、一家全員一緒に広間で寝るみたいだ。僕もその中に混ぜてもらうことになった。お父さんと弟の間だ。セラが隣を主張したけど、こればかりはお父さんが断固拒否したのでこうなった。まあ僕もその方がいいと思うよ、やっぱりね。


 夜中にふと目が覚めた。

 枕が替わると眠れないってわけでもないけど、夕方に寝てしまったし、よその家ってことで緊張してしまったのかもしれない。

 辺りを見回すとカーテンの隙間から月の光が漏れてきているのがわかった。夜中でも外は意外と明るいみたいだ。

 窓に近づいてなんとなく外の様子を覗いてみると、大小2つの影があちらこちらに動き回っている。なんだろう? こんな時間に。

 部屋の方に視線を返すと、セラの弟がいなくなっていた。

 すぐに眠れる感じでもなかったので、ちょっと外に出てみることにした。


 どうやらセラの弟は、モンスターの訓練をしているみたいだ。暗い上に小さいので姿がよく見えないけど、まだあまり懐いていないらしい。

「やあ、こんばんは」

 最初、何て言っていいかわからないので、挨拶をしてみた。

「あ、どうも」

「ええと、ジョフ君――だよね。これはバジリスクかな?」

「ええ、まあ――あの……」

「ん?」

「このことは誰にも言わないでくださいね」

「うん、わかった。でもどうしてこんな時間に?」

「まあ、バジリスクは夜の方が活動的っていうのもありますけど、他の人に知られたくないっていうのが大きいかな」

「何で見られたくないの?」

「だってまだ全然扱えてないし。姉貴はもうあんなにドラゴンで自由に飛び回ってるってのに、俺はまだこんな小さなモンスターすら……」

「まあ初めは誰だってそんなもんだよ。僕だって、やっと言うことを聞いてもらえるようになってきたばかりだし」

「でも姉貴は俺くらいの時、もうドラゴンに乗ってたんですよ。村のみんなも、弟の方は期待はずれだとか思ってますよきっと」

「ううん、そんなことないと思うけど。セラに教えてもらったりはしないの?」

「姉貴がこっちにいるときには教わろうとしたこともあるんですけど。でもなんていうか、はっきり言って下手なんですよね、教えるのが。自分は簡単にできるもんだから、できない奴の気持ちがわからないっていうか」

「ああ、ちょっとわかるかも。僕もセラに教わったんだけど『それくらい感覚でわかるでしょ』とか言われたりして。いや、わかんないよ、って」

「そうそう、こっちは同じようにやってるつもりなんですけどね。モンスターの表情を見るだけで気持ちが大体わかるみたいだし。俺にはさっぱり」

「だよねぇ。僕も全然わからない、いつも手探りだよ。この前もライトニングに噛み付かれたんだけど、理由はいまだにわからないんだ、はは」

「姉貴は解ってないんですよ、モンスターの気持ちは解っても、俺達の気持ちが解ってない。バジリスクにもなめられる俺達の気持ちが」

「言えてるかも。こっちは感覚でわからないから、一つ一つ覚えていくしかないんだよなあ」

 そんな感じで主にセラの悪口と自分のダメダメエピソードで盛り上がり、すっかり話し込んでしまった。

「ふあぁ、そろそろ寝ようかな。ジョフ君は?」

「俺はもうちょっとやってから寝ます」

「そっか、おやすみ」

「おやすみなさい」


 翌朝、窓から差し込む日差しで目が覚めると、寝ているのは僕とジョフ君だけだった。

「いつまで寝てんの? ユー。ライトニングも、もう起きてるよ」

「ああ、ごめん。おはよ」

「ほら、ジョフも起きなさい」

「うん」

 なんとなく目が合って、お互いに笑みがこぼれてしまった。

「何? 二人して笑ったりして」

「いや、なんでもないよ」


 朝食をいただいた後、学校に戻ることになった。

「ほんとに帰るの? じゃあ、私も寮に戻ろうかな」

「あんたも帰るのかい? もっとゆっくりしていきなさいな」

「もう十分いたしね。ククルもすっかりリフレッシュしたみたいだし」

「そうかい、まあがんばりなさいよ。せっかく学校に入ったんだからね」

「うん、そうだね――じゃあ、行くね」

「あ、そうだセラ。ひとつ言っておくことがあるんだよ」

「何? おばあちゃん」

「ここ最近ドラゴンの様子がおかしいんだよ。いつもよりもたくさんのモンスターを狩ってきたりしてね、気が立ってるみたいなんだよ。なにかの前触れかもしれないから気をつけな」

「うん、わかった」

 僕らはゆっくりと飛び立ち、学校へと向かった。

 村の人はみんな手を振って見送ってくれている。僕も精一杯手を振った。

「セラ」

「何?」

「僕、ドラゴンマスターになるよ。絶対」

「急にどうしたの? うん、がんばろう――まあ、まずはカーバンクルマスターからね」

「ああ……、うん……」


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