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はじまりのリトルドラゴン

意外性の無い予想通りの展開を目指します。エロもグロもありません。

 今日は入学式。

 ここユグドラシル国立モンスター専門学校は世界一の規模とレベルを誇るモンスターの研究・教育機関だ。ここには4つの学科が設置されている。モンスターとの戦い方を学ぶ戦闘科、モンスターの生態を研究し飼育や治療をする生物科、モンスターの素材としての活用法を学ぶ工学科、そして僕が入学したモンスターを鍛え上げ、意のままに操る使役科だ。

 僕は今年から使役科に入学した1年B組早来勇(はやきたゆう)、十六歳。正直試験はぎりぎりだったと思う。これまでモンスターに出会ったのは、家の裏山でおばけきのこに出くわしたくらいで、あとは本やネットで勉強しただけだった。だもんだから、実技試験でワイバーンを見たとき、かなり腰が引けてしまっていたからね。それでも小さい時に本で読んだエイシェントバハムートの伝説が忘れられなくて、いつかドラゴンマスターになってやろうとがんばった甲斐があったってもんだ。

 ちなみにエイシェントバハムートの伝説っていうのは、まあ簡単に言うと、はるかな大昔、世界が凶悪なモンスターに襲われて危機に瀕したときに、エイシェントバハムートっていう巨大なドラゴンを操る勇者が現れて世界を救ったっていう、わりとよくあるパターンの有名な伝説だ。実際にあったことなのかどうか、その辺はよくわかっていない。専門家の間でも意見が分かれているらしい。

 ともかく僕はその話が大好きだったってわけ。

 それにしても、さすがに大きな学校だけあって、いろんな人がいる。

 この学校は制服がないので服装も様々だし、肌の色や目の色も様々。あの背が高くて黄色い瞳の人は山岳地方の出身っぽいし、こっちの金髪の女性は都市部の出身なんだろう。海洋民族に騎馬民族、もちろん僕と同じ農耕民族もたくさんいる。

 ともかく早く講堂に行かないと。まだ少し時間はあるけど、遅刻したら大変だからね。

「あ、あのっ、すっすみません」

 山岳地方出身っぽい少女に話しかけられた。ぱっと見ずいぶん年下みたいだけど、目がくりっとしていて可愛らしい子だ。真っ黒な髪を複雑に結っている。

「はい、なんですか?」

「ココ、コウドウへは、その、どっちに行ったらいいんですか?」

「え、あちこちに講堂はこっちって矢印が書いてありますよ。ほら、あそこにも、あそこにも。それに入学案内にも地図があるし」

「ごごっごめんなさい。私……字が読めなくて……」

「あ、それはごめん。じゃあ僕もこれから行くところだから、一緒に行こうか」

「はい、ありがとうございます」

 といったことで、一緒に講堂に向かうことになった。講堂はキャンパスのちょうど真ん中にある。ただキャンパス自体がかなり広いので、歩いていくのは大変そうだ。循環している無料バスに乗っていく方がいいらしい。

 近くのバス停に行くと、大勢の生徒が並んでいた。僕と女の子も後ろに並ぶ。

「君も新入生? 僕は早来勇っていうんだけど、君は?」

「私はセラ。使役科一年B組です」

「ってことは同じクラスじゃん。よろしくね、セラちゃん」

「ほほっ本当ですか? はいっ、よろしくお願いします!」

「ええと、ところでこんなこと聞くのもなんだけど、年はいくつなの?」

「年ですか? ええと、みんな同じだと思いますけど、十六ですよ」

「あ、ああ、そうだよね。ごめんごめん、なんか若く見えたっていうか」

「やっぱり……。確かにこっちにきたら子供っぽく見られることが多いんですけど、うちの村はみんなこんな感じなんで。お母さんも見た目が私とあんまり変わらないんですよ」

「へえ、そうなんだ」

 ちょっと怒らせてしまったのかもしれない。でもなんかすごいところから来たみたいだな。僕の家もかなりの田舎だけど、みんな学校には普通に行っているし、ネットだってある。もちろん母親は年相応におばさんだ。ともかく同じクラスってことは長い付き合いになるんだし初日から嫌われるっても困る。もうちょっとコミュニケーションをとっておこうか。

「ええと、セラちゃん、いや、セラさんはなんでこの学校に?」

「セラでいいですよ。ずっとそう呼ばれてましたから。うーん。うちの家系は代々モンスター使いなんで。いままでは両親に教わっていたんですけど、もっと他の世界を知った方がいいって言われて。それでこの学校にきたんですけど」

「ふうん、なるほどね」

「ハヤキタ……さんは?」

「じゃあ僕のこともユーって呼んでよ。僕はね、小さい頃エイシェントバハムートの伝説を読んで、すっかりその気になっちゃってさ。ははは」

「エイシェントバハムート……ですか」

「そう。子供っぽいよね、大昔の話なのに。ははは」

「ふふふ」

 少しは機嫌を直してくれただろうか。ちょっとだけ笑った顔は、八重歯が覗いて一段と可愛らしく見える。

 ほどなく、バスは講堂に到着した。どうやら全員降りるようだ。まあ、入学式だもんな、みんな講堂に集まるんだろう。

 僕とセラは、そのままの成り行きで、隣り合った席に座り開会を待っていた。講堂の扉が閉じられ、いよいよ開会のようだ。しばらくして壇上に校長が現れた。長いあごひげを生やした老紳士といった風貌だ。

「ええ、まずはみなさんご入学おめでとうございます。私が校長のアスコット・リングフィールドです。校舎では気軽に校長と呼んでくださいね。さっそくですがここで本校の校歌を披露します。すぐに覚えて欲しいと思います」

 すると、スピーカーから伴奏が流れ始めた。校歌というイメージには似つかわしくないヒーローアニメのような曲調だ。


 ドラゴンブレスも受け止める 伝説の勇者ここにあり

 倒したドラゴン掻っ捌き みんなの役に立てるため

 鱗はお皿 牙ならナイフ 血を薬にして 皮は服

 お肉も骨も残さず活用 産毛一本残さない

 だって僕らは最強の モンスターの専門家

 みんなの暮らしを守るため モンスター モンスター ユーグドーラーシール


 そしてまた曲調にふさわしくない、生活に密着した歌詞だった。

 校長は礼をして下がっていった。ほぼこのために出てきたようだ。まあ、長い話を聞かされるよりいいか、と思った。

 その後は色々と説明やら、上級生の挨拶やらがあった。そしてセラは途中からずっと寝ていた。僕も結構眠くはなったが、多少の緊張感もあり最後まで話を聞いていた。

 そして入学式が終わり、解散となった。この後、学科ごとのオリエンテーションがある。

「セラ、ねえセラ」

「あっ、あれ、始まりましたか?」

「いや、もう終わったよ。次は使役科校舎の第一講義室だ」

「そそっ、そうですか、ごめんなさい。えっええと」

「いや、別にいいよ、僕が話したわけじゃないし。じゃあ一緒に行こうか」

「はい」

 今度は2人で使役科行きのバス停に並んだ。

「あいつら使役科か」

「いまどきね。どうせショーか宅配便でしょ」

 そう、どうやら使役科は今の世の中ではあまり花形な存在ではない。というよりむしろ日陰の存在となっている。やはり戦闘科からハンターになったり、生物科から獣医や学者になったり、工学科から職人になる方が世の中的には需要もあるし、ステータスでもある。使役科卒で一番多いのは、宅配便やタクシーであり、珍しいモンスターを手なずけていれば、ショーで稼ぐ人もいる。とはいえ今現在、ドラゴンを使役している人は僕の知る限り一人もいない。たしかこの間リヴァイアサンを使役する人が現れて話題になった、そのくらいだ。そういうわけで、いまやモンスター使いは多くの学生が憧れるという存在ではなくなっているのである。学生の人数も全学科で一番少ない。

「なんなの? あいつら」

「まあまあ、言わせとこうよ」

 いきり立つセラをなだめつつ、バスに乗り込んだ。


 使役科はキャンパスの北側にある。東が戦闘科、西が生物科、南が工学科だ。

 ほどなく、バスは目的地に着いた。

「君たちも、使役科?」

 バスを降りると、ちょっとチャラい感じの男が声をかけてきた。かっこいいといえばかっこいいが、それほどかっこいいわけではない。少なくとも、本人が思っているほどには。

「あれ、何? ひょっとして付き合ってるとか?」

「いや、今日会ったばっかりなんだけど」

「そっかそっか、じゃあオレと一緒じゃん。何組? オレはB組なんだけどさ」

「僕もB組だよ、この子も」

「おーまじで、じゃあこれからよろしく。オレはフィリップ・ドーヴィル、フィルって呼んでいいよ」

「僕は早来勇」

「私、セラ」

 なんか微妙な感じなやつだが、悪い奴ってわけでもなさそうだ。僕達は三人で第一講義室に入った。

 講義室にはもう結構人が集まっている、といっても全部で五十人くらいだろうか。使役科はA組とB組しかないので、たぶんこれでほぼ全員なんだろう、寂しい話だ。僕達は一番後ろの席に腰掛けた。

「フィルはなんでこの学校に?」

「ああオレはね、小さいときからペガサスに乗った宅配便に憧れてて。地元じゃワイバーンが多いんだけど、ある日オヤジにワインを届けに来た人がペガサスに乗っててさ、うおおっ、すげーってなって、それから何となく自分もやりたいって思ってたんだ」

「なるほどね、憧れの職業かぁ」

「かわいいですよね、ペガサス。私も好きです」

 などと話していると、作業着を着た三十くらいの男性が入ってきて教壇に立った。髪はぼさぼさで、日に焼けた体格のいい人だ。

「ええ、お静かに。それではみなさん、僕についてきてください」

 よく通る大きな声でそう言うと、男性は再び教室を後にした。教室にいた生徒たちも次々と後を追っていく。僕達もその後についていった。

 進んでいくにつれ、徐々に独特の臭いが立ち込めてくる。うちの田舎にも牛や豚はたくさんいたし、その臭いにも慣れていたつもりだが、それらとはまた少し違った、硫黄の混じったような刺激的な香りが鼻をつく。

「ユニコーンだね。十頭くらいかな。あとはワイバーンだね、五十頭はいる」

「へえ、そんなことまでわかるんだ」

「あ、ああ、うん、まあね」

「すごいなあ、セラちゃんは。オレなんて、そんな数のモンスター見たことないわ。いつも一頭とかせいぜい二頭だし」

「僕もだよ」

「ふふ。いつも、村の近くの草原でモンスターと遊んでたから」

「へえ~」

 目的地は広大な牧草地を背後に備えた、巨大な厩舎だった。セラの言ったとおり、たくさんのワイバーンと十頭のユニコーンが厩舎から顔を出している。ワイバーンは実技試験のとき見たけど、ユニコーンは初めてだ。たてがみが炎のようにゆらゆらとゆらめいていて、とても幻想的に見える。

「ええ、全員到着しましたか? 来てない人はいませんね――では自己紹介をしましょう。僕は主に実技を担当します、メイダン・ナド・アルシバです、どうぞよろしく。皆さん使役科に入学してモンスターの調教を学ぶわけですが、まだあまりモンスターに触れたことのない人も結構いると聞いています。ですので今日は皆さんにモンスターに早く慣れてもらおうということで、モンスターとの自由時間とします。注意点は二つ。一つ目、ユニコーンの角には触れないこと。怒って突こうとしてきますから、大変危険です。二つ目、ワイバーンもユニコーンも真後ろに立たないこと。蹴られる可能性があります。あと、解らないことがあったら、僕かこの五人に聞いてください。今日お手伝いしてくれる皆さんの先輩です」

 メイダン先生の左側に三人の男性と二人の女性が立っていて、軽く会釈した。

「では、モンスターを出します。十分注意して、怪我のないように」

 ユニコーン三頭とワイバーン二十頭くらいが厩舎から出され、僕達のいる周囲を柵に囲まれたグラウンドに連れてこられた。ユニコーンは普通の馬より少し大きいくらい、ワイバーンは大型犬くらいの大きさだ。どちらもとても人に懐きやすいので使役対象としてはかなりポピュラーなモンスターだ。主に宅配便などで幅広く利用されている(といっても僕の田舎にはいなかったわけだけど)。ユニコーンは空を飛ぶことはできないが、時速百km以上で走れるし、ジャンプ力もすごい。ワイバーンはスピードはいまいちだけど短い距離なら飛ぶことができるので小回りが利く。つまりどちらにしてもこの柵はあまり意味がないだろう、よく飼いならされているってことだな。

「でもいきなりモンスターと自由にって言われても、どうしたらいいやら」

「迷ってないで、なんでもやってみるのが一番だよ、ほら」

「そうそう、当たって砕けろだ」

 二人に促され、まずはワイバーンから近づいてみる。爪や牙は丸められていているし、とてもおとなしい。とはいってもこの大きさで人を乗せて飛べるんだから、それなりの力は持ってるんだよな、鱗も硬いし。まあ実技試験の時よりは怖くないぞ、僕も成長している。そんな微妙な自信から、わりと自然な感じでそっと首の辺りを撫でてみた。

 大丈夫、気持ちよさそうに目を閉じている。なんだ、全然問題ないじゃないか。フィルも反対側の方を撫でている。

「おとなしいね」

「だな、ちょっと乗ってみるか?」

「えっ、もう? もうちょっと慣れてからの方が」

「平気だって、よっと、おっ、とっと、おわ」

 フィルはワイバーンの背中に一瞬またがったが、すぐに地面に落っこちてしまった。当のワイバーンは何食わぬ顔ですましている。

「いたた、だめか」

「私がやるよ、見てて」

 今度はセラがさっとワイバーンの背中に乗り込んだ。

「ほら、いい子いい子。ねえ、ちょっと飛んでみて欲しいな。いいでしょ」

 セラがそう言うと、ワイバーンはゆっくりと翼を羽ばたかせ始めた。そして、ふわりと宙に舞い上がっていく。

「そうそう、いいよ、その調子」

 セラの乗ったワイバーンは5~6mの高さのところをくるくると飛び回っている。とても楽しそうだ。

 その時だった、辺りがすっと大きな影に覆われ、強い風が吹き荒れた。

 何かと思って空を見上げると、巨大なドラゴンがセラの上でゆっくりと羽ばたいている。いままで本でした見たことはなかったけど、オレンジ色の筋肉質の体と鋭い爪や牙はモンスターの頂点に君臨するその力を実感するのに十分だ。でもさっきまで影も形もなかったのに、本当に突然現れたんだ。

「ククル! 来ちゃだめっていっておいたのに」

 セラがドラゴンに話しかけている、セラのドラゴンなんだろうか。そしてワイバーンからジャンプして、ドラゴンの背中に飛び移った。セラに乗られると、ドラゴンの目がなんとなく嬉しそうに見えた。

 そしてセラはドラゴンに乗ったまま、牧場の草地に降り立った。

 地上は大騒ぎだ。生徒もユニコーンもワイバーンも、あちこちに走り回ったり、声を上げたりしている。

「セランゴール・シャー・アラムさん、モンスターの学内持ち込みは禁止ではありませんが、無断で乱入させられては困りますね」

「すみません、先生。村を出るとき、待ってるように言ってあったんですけど。来てしまったみたいで……」

「しかし驚きましたね。まだ子供のようですが、ドラゴンを使役しているとは」

「使役とかじゃなくて、友達です。小さいときから一緒だったので」

「ほう、なるほど、なるほどね」

 もう、みんなユニコーンもワイバーンもそっちのけで、ドラゴンに群がっている。はじめは驚いて遠巻きに見ていたけど、セラにすっかり懐いているのがわかると、徐々に近づいていって撫でたり眺めたりしている。

「セラ、すごいよ。ドラゴンなんて初めて見た。使える人がいたなんて!」

「僕も。マジでっけー」

「うん、驚かせてごめんね」

「そんなことないって。ずいぶんおとなしいね」

「ユーも乗る?」

「いいの?」

「もちろん」

「あっ、オレもいいかな?」

「フィルも乗りなよ。ほら、いくよククル!」

 そして僕達は大空へ飛び立った。すごい、ワイバーンなんかが飛ぶよりはるかに上空だ。学校の敷地全体が見渡せる。そして強く吹き付ける風がとても気持ちいい。

「すごい、すごいよ、これは!」

「マジすげー! すっげー!」

「へへ」

 セラは照れくさそうに微笑んだ。ククルの表情も何となく誇らしげに見える。きっと2人は強い絆で結ばれているんだ。

 そしてこの時僕は改めて思った。いつか自分のドラゴンに乗って、こんなふうに大空を飛び回るっ! って。

 そんな感じで色々あったけど、始業式は終わった。この学校は全寮制で、基本的に生徒は全員敷地内の寮に入ることになる。もちろん男女別だ。僕はセラと別れ、フィルと一緒に寮の部屋に帰った。

 でもよかったな。友達もできたし、楽しい学校生活が送れそうだ。明日からがんばろう。

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