エピローグ~扉の向こう
「沙織・・・沙織・・・」
隣に座っている涼の声が慌てていた。近くで本を探していた麻衣も、読んでいた本を閉じて駆けつけてきた。
「沙織・・・、えっ、どうしたの、おしっこしちゃってる・・・」
沙織はまどろみから覚めながら、涼に肩を抱かれたまま、自分のおしりを包む短パンの中に渦巻いた温かい水が、わずかに開いた太腿の間にあふれながら、雨のように椅子から絨毯に落ちていっているのに気がついた。沙織はそれに抗うことなく、ただ身体が楽になるように身を任せた。
《涼も麻衣も、こんなふうに感じてたんだ》
おしりに広がった水の流れは、ふわっとして、とても温かかった。さっきまで沙織のなかで激しく高まっていた、もどかしさと焦りのような気持ちを出しきって、沙織は恥ずかしいのにすっきりした気持ちを感じていた。
「沙織、起きて」
「麻衣・・・」
「いっぱいおしっこ、しちゃってるよ・・・」
「やっぱり、おもらししちゃったんだ、私・・・」
「沙織?・・・きっと私のあげたコーヒーがいけなかったのね、ごめんなさい」
「ううん・・・、でもこれで良かったの。麻衣のおかげ・・・」
沙織の身体が軽くなり、絨毯に降り注ぐシャワーのような柔らかい音が、やがて止んだ。
麻衣と涼が、まだ信じられないといった表情で訊いた。
「私のおかげ、って?」
「夢、見てたんだね? 沙織」
「夢・・・、そうね、うんと長い夢を、見てた」
「夢の中で、おしっこしたの?」
「うん、トイレに行けなくて、我慢できなくて、そして・・・」
「いいわ。沙織、さあ、立って」
麻衣に身体を支えられながら立ち上がると、沙織の丸くてかわいらしいおしりを包んでいる短パンが、おしりの上のほうまでぐっしょり濡れてしまっていて、そこからたくさんの透明な雫が沙織の太腿を伝った。
「あっ、沙織・・・」
悩んでいた沙織の気持ちを拭い取るかのように、カバンから取り出したタオルを持った涼の手が伸びて、沙織のおしりのしずくを拭いた。
すると、涼の動きにつられるように、
「沙織、パンツ持ってないでしょ?私の貸してあげる」
麻衣がカバンを床に置き、そそくさとパンツを探しはじめた。
「あ、そうだ、パンツないんだった・・・じゃ、代わりにブルマー穿いて。私が陸上のときに使うやつ」
沙織はふたりの思いやりがうれしくなって、微笑んだ。
黙って沙織の短パンにタオルをあてがっていた涼だったが、ふと手を下ろすと、
「なんだか不思議・・・、こんなこと昔にもあったような気がする」
そんな言葉が独り言のように口をついて出た。
「うん・・・私も・・・なんだろ、恥ずかしいのに、そうじゃない感じ?」
ようやくカバンから取り出した赤いブルマーを手に持ちながら、麻衣も沙織を見上げて相槌を打った。
「そういえば、幼稚園のとき、麻衣、おもらしして、そんなブルマー穿かされてたよね?」
「涼くん、忘れちゃったの? 沙織みたいな短パン穿いてて、おしっこ漏らしたこと?」
「えへ、そうだっけ・・・?」
「ひどい。あれって、涼くんがおもらししたから、私がトイレに行けなかったんだよ」
「どうして? 行けばよかったじゃない?」
「・・・知らないけど」
「でも、沙織だけはおもらしするような子じゃなかったよね?」
「うん、あ、でも一度だけ授業中にそわそわしてたこと覚えてる。でもその後のこと思い出せないんだよね」
「そういえば。そのあとどうなったっけ?」
「そのあとは・・・ほら、こう」
沙織は、はにかみながらチュニックの裾をめくって、おどけてみせた。
「じゃあ、沙織、脱がすよ?」
一言だけ声をかけると、涼は当然そうすべきといったそぶりで、沙織の短パンのホックを外し始めた。ファスナーを下ろし、ストンと足もとに落とすように短パンを脱がせると、おしりの上までぐっしょり濡れた沙織の白いショーツが、陽の光に輝いていた。涼はショーツのゴムを前後に優しく引いて、ゆっくりと下げた。
普段気の強い沙織が、このときは黙って涼に身を任せていた。
《おもらしして脱がせてもらう・・・》
そんな初めてのはずのことが、なぜか懐かしい気持ちがしていたからだった。
「あ・・・、ねえ、ふたりとも幼稚園のとき、こんなふうに脱がされてたよね?」
下半身を裸にされた沙織が、恥ずかしさを紛らわすようにはにかんで言うと、
「おもらしした子は黙ってて。涼くん、沙織のこと、うんと綺麗に拭いてあげてね」
麻衣は沙織の裸に目を輝かせながらそう言って、これから穿かせるブルマーの裾を広げて待っていた。
すると、涼が麻衣に訊ねた。
「あれ、でもどうして麻衣は、今日はパンツ持ってなかったの?」
「え・・・ああ・・・持ってたかなあ、って思って」
「いつも替えのパンツ持ってるじゃない?」
「知ってるの?」
「またおもらししたの?」
「えっと・・・さっき、急いでトイレ行ったとき、間に合わなくて、ちょっとだけ」
「ほら、おもらしじゃない?」
「そんな、おもらしってほどじゃないし」
「パンツ、濡らしちゃったんでしょ?」
「そうだけど・・・ていうか、パンツ持ってるのは、涼くんがおもらししたときに穿かせてあげるためでもあるの」
涼と麻衣は互いに目をあわせて、あのときのように微笑んだ。そして、3人の間に陽だまりのような暖かな空気が流れた。窓の外の緑が優しく輝き、滴で濡れたままの沙織の下半身がまぶしかった。
「ねえ、恥ずかしいから早く、涼くん」
「ごめん、沙織の裸、すごく素敵で見とれてた」
「もう・・・」
涼はタオルで時折しっかりと押さえつけるように、また時折さらりと撫でるように、前後から繰り返し下半身を拭いてくれた。そして麻衣がブルマーを両脚に通してくれたあと、涼がそれを持ち上げ、子どものように下半身を抱き上げてブルマーを穿かせてくれた。それはまるで涼に抱かれているように気持ちがよく、沙織は涼のなすがままに身を委ねた。いつの間にか涼は優しく、そして強い男の子になっていた。
最後に麻衣が、沙織のチュニックをワンピースのように下ろして、それを覆い隠すと、3人はほっとした。
「沙織の格好、なんだか幼稚園のときみたい」
「ねえ、ちょっとチュニックの裾、めくってみせて」
「あ!」
「ほんとだ!」
沙織の丸くてかわいらしいおしりを、「おもらしした証し」の赤いブルマーが包んでいた。
「あ、人が来るよ・・・」
「よかった、着替えが間にあって」
「あ・・・これ、これを何とかしなくちゃ」
濡れたままの沙織の短パンとショーツ、そして沙織の座っていた椅子が、絨毯にできた大きな丸いしみの上で、窓から差し込む陽の光に反射し、輝いていた。
再びみんなでいっしょにあわて出したのが、沙織はうれしかった。
これで3人がずっと仲良しでいられそうな気がした。
(終わり)