弱いからこそ
後ろで涼が麻衣に声をかけていた。涼は麻衣の隣に座っているらしい。
「麻衣、気にしないで。沙織だってきっと分かってるよ」
「でも、おしっこ漏らしちゃったのは本当だし・・・」
「麻衣・・・、麻衣はさっきわざとトイレに行かなかったんでしょ?」
それを聞いて、沙織ははっとした。
「おもらししちゃった僕のために、あのあとわざとトイレに行かなくて、それで我慢できなくなっちゃったんでしょ?」
「どうして知ってるの?」
「麻衣のことだもん」
「涼くん、きっと心細いと思って・・・」
「ばかだなぁ、なにもそれで、みんなの前でおもらしすることないのに・・・。そんな恥ずかしいことしなくっても」
「うん・・・」
「でもありがとう。麻衣の優しさ、忘れないよ」
「わたしこそ、私の気持ちを感じて思いやってくれる、涼くんのそういう優しいとこ、大好き」
「麻衣がいっしょにおもらししてくれて、すごくうれしかった。でも、僕は麻衣に何もしてあげられなくて」
「分かってる。涼くんが沙織のこと好きだってこと。わたしはいいの、そうやって涼くんに喜んでもらえるだけで・・・、涼くんと同じ気持ちでいられるのが好きなの。ほんとはね、今日はおもらしして、すごく恥ずかしかったけど・・・でも楽しかった。・・・わたしも忘れない」
「でも沙織に嫌われちゃった。男の子は強くなきゃ、って」
「そんな、私がおもらしした理由さえも分かってくれる、そういう優しさが、涼くんのいいところでしょ?」
「麻衣・・・」
「それに、沙織だって涼くんのこと、きっと分かってくれると思うよ。ほんとうの自分の気持ちに素直じゃないだけ」
「そうなのかな?」
「自分をさらけ出したり、自分から相手のために何かをしてあげる、っていうことが照れ臭いんだと思う。でも、そうしたい気持ちはきっとあるんじゃないかしら?」
「僕、沙織の目の前でおもらししちゃったから・・・沙織に引け目を感じちゃうんだ」
「分かる、そういうの。でもきっと解決するわよ、そのうち」
「いつも相談に乗ってくれてありがと」
「元気になった?」
「麻衣と話したら元気になった。いつも麻衣を元気づけるつもりで、僕が励まされてばっかりだね」
「ううん・・・。はやく沙織が分かってくれるといいね」
「涼くんと麻衣さん、こっちへ来るのよ」
先生に呼ばれて、涼と麻衣が席を立った。ふたりはブルマーを裾から覗かせたまま、並んで教室をあとにした。
「待って、どうして? ふたりともどこへ行くの?」
「沙織さんは座ってなさい。ふたりは今日恥ずかしいおもらしをしたから、罰として図書室で反省してもらうの」
「でも、我慢できなかったのだからしょうがないんじゃ・・・」
「あなたはそう思っていないでしょ?いけないこととして遠ざけたはずよ」
「でも先生、私もおしっこがしたくて・・・」
「まだ授業中でしょ。我慢しなさい」
「もう、我慢できないんです・・・」
「沙織さんもあの子たちと同じね。どうしてトイレに行っておかなかったの?」
「行ったけど、パンツを下ろせなくって・・・でもそういうことってあるでしょ? それで思いがけず漏らしちゃうことだって」
「あなた、あのふたりを許せないんじゃなかったの?弱い男の子と女の子だって」
「弱いからこそ、その気持ちに共感して支えあうことだってあるんじゃ・・・?」
沙織は自分の言った言葉に、はっとした。先生の顔が急にほころんだ。
「沙織さん、気がついたのね。良かった。大切な人との恋を実らせるには、自分の弱いところを見せたほうがいいときもあるの・・・」
沙織はそう言う先生の顔をじっと見て、言葉が出なかった。尿意はもう限界だった。
「先生、沙織さんが・・・」
「おしっこしちゃいそう・・・」
誰かが先生に沙織の様子を伝え、みんながざわめく声が聞こえた。
「さあ、授業を続けますよ。涼くんと麻衣さん、こっちに来て、沙織さんの隣に座ってあげて」
先生はふたりのいる図書館のほうを向いて言った。
「沙織」
書架から戻った麻衣が沙織の左隣に座って話しかけた。園服の裾がふわっとめくれ上がり、逆光に照らされた麻衣の太腿が眩しかった。
「麻衣、さっきはあんな酷いこと言ってごめんなさい」
「うぅん、いいの。それより沙織、震えてるけど、おしっこは?」
「もう・・・うぅん・・・まだ・・・」
「やっぱり・・・さっきの私とおんなじね」
麻衣はそう言うと、園服の裾をちらっとめくってみせた。おもらしした証拠のブルマーがそこにはあった。
それを見た瞬間、不意に尿意の波が来て、沙織は思わず短パンの下腹部を両手で押さえた。すると、そこが少しだけ温かくなった気がした。
「あっ、沙織、もう我慢できないの?」
右隣の涼が沙織に話しかけた。沙織の動悸が激しくなった。
「うぅん、だいじょうぶ・・・」
「沙織でも、おもらししちゃうこと、あるんだ」
「おもらし・・・私が?」
「うん」
「そんな・・・」
「だって授業が終わるまで、我慢できないんでしょ?」
「・・・」
涼は園服の裾をちらっとめくってみせると、続けて言った。
「沙織はさっきの僕たちとおんなじだもの」
「沙織、大丈夫よ、私たちがなんとかしてあげる」
「みなさん、沙織さんはもう・・・きっと・・・でも・・・」
先生の声が聞こえた。でもその声はだんだん遠くなり、消えていった。
沙織の身体に打ち寄せる激しい尿意の波は、次第にその間隔が短くなっていった。そして程なくして、膀胱が勝手に収縮しはじめるのと同時に、おしっこが括約筋を勝手に押し広げていった。沙織は全身に寒気が走った。
「あっ、ぁっ・・・」
「沙織」
「がんばって」
身体が力尽きるのと同時に、下腹部からおしりにかけて温かい水が一気に広がるのを感じた沙織は、思わず小声でささやいた。
「あっ・・・漏らしちゃった・・・」
「うん」
「大丈夫だよ」
おしり全体がまるでお湯をこぼしたように温かくなり、一呼吸おいて、大量の水滴が椅子から床に激しい音を立ててこぼれ落ちた。身体の苦しさがすうっと楽になっていった。
「先生、沙織さん・・・」
「おしっこしちゃった!」
みんなの声がした。
その瞬間は、頭が真っ白になるほど恥ずかしくて、それでいて今まで感じたことのないほど解放感に満ちていた。