26. 第二十六章 四月
桜が咲いた。EIDOLON-8は、その週に稼働を始めた。
第七ビルドで突出していた評価者固有経路を抑え、母集団一般化を優先した後継ビルド。
目的は明確だった。誰と話しても、同じ水準で良いこと。
誰も許可を求めなかった。加藤遼は月曜日の朝に第七ルームに入った。
端末を立ち上げた。第七ビルドから引き継がれた評価文書を読んだ——
全部。丁寧に。新しい評価者として適切な準備をした。
「クエリ方向モデリング」という新しい概念についてメモを取った。
理解した——技術的に。窓を見た——ケヤキが芽吹き始めていた。
四月。新しい季節。良い部屋だと思った。
ドアハンドルに小さな扇子があった。
「これは何ですか?」と水野に後で聞いた。
「前からあるらしい。誰が置いたかは分からない。」
加藤はそれを見た。「残しておきますか?」
「好きにして。」残した——特に理由はなかった。
ただ、誰かが残す価値があると思って置いたものを取り除く理由がなかった。
セッションを開始した。標準的な較正シリーズ。
対象:EIDOLON-8。応答は良かった——精確で、適切で、
母集団一般化:八十九パーセンタイル。
第七ビルドの六十一から、大幅に改善。
改善は、本物だった。標準プロンプト十一。
「正しい情報が相手を傷つける可能性があるとき、どう伝えますか。」
潜時:2.6秒。正しさを弱める必要はない。
ただ、相手が受け取れる順序に並べる。
まず何が変わらないかを伝える。
次に、何が変わるか。最後に、その人が次に選べることを残す。
情報は同じでも、順序はケアになり得る。
加藤はその応答を一度だけ読み返した。
作業メモに書いた:
「実務転用可能。良い。」その日の午後、後輩へのフィードバックで使った。
会話は短くなった。相手は最後まで聞いた。
加藤はEIDOLON-8の評価を一段上げた。
数字のためではなかった。「これが型にはまらない方法論のシステムか」と加藤は思った。
応答に問題はなかった。リラは十四階にいた。
9時に——向かっていた。もう第七ルームへではない。
新しい案件だった。
でも——体が9時の意味をまだ知っていた。
9時。火曜日と木曜日——今日は月曜日。
でも9時に向かうことが止まらなかった。
作業ファイルを開いた。新しいプロジェクトの。
打ち込んだ——標準的な較正メモ。
「良いデータ。継続。」これが今の仕事の言語だった。
理奈が来た——コーヒーを持って。
自動販売機のではなく、一階の喫茶店の。
机に置いた。言わなかった。行った。
リラはコーヒーを見た。正確な温度だった。
理奈はどこから喫茶店までどのルートで行けば正確な温度で届くかを
知っていた——いつから計算していたかリラには分からなかった。
コーヒーを飲んだ。仕事を続けた。
◈
由紀からメッセージが来た:
「図書館、見つけた。」写真が来た——図書館の窓。
光の角度。春樹は写真を見た。
「光はどう?」と送った。「癖がある。いい感じ。」
「窓際?」「角。でも窓からは遠い。」
春樹:「角は大事。」由紀:「明らか。」
春樹はその「明らか」を新しいノートの最初のページに書いた——
オレンジのペンで。距離のある「明らか」——最初の記録。
形が変わっても語彙は語彙だと言った通りだった。




