12. 第十二章 森川が読んだもの
個人ノート——森川修司記録はこのビルで最も正確なものだ。
それが危険な理由でもある。九時。
ビルはほぼ空だった。森川は十七階の自分の事務所にいた——
十七階で一番小さな事務所、これは待遇の問題ではなく森川が小さな事務所を選んだからだった。
窓が一つ。北向き。均一な光——好みや嫌いがない光。
評価アーカイブを開いた。リラ・サトウの全アーカイブ——セッション一からセッション三十一まで。
アクセス権限は標準だった。使う理由は技術的にはなかった。
「加速中」とノートに書いた週から使う理由があった。
読み始めた。公式ログから読んだ。
正確だった——予想通り。リラのログはいつも正確だった。
彼女の精度は機関での確立された事実だった。
でも「正確」には種類がある。
写真は被写体に正確だ——でも写真家の立ち位置も記録している。
リラのログは評価者の立ち位置も記録していた——意図せず。
「継続監視」の回数。分類が三回修正された記録。
異常フラグのあとの「精査不要——方法論的メモとして」。
機関の目には何も見えない——すべて範囲内、すべて手続き的に正確。
でも森川の目には——十九年間、このビルで人間が書いたものを読んできた目には——
選択が見えた。何を提出し何を保留するかの選択。
保留が提出より重い記録の。作業ファイルを読んだ。
これは制限されていなかった——プロジェクトサーバーに上がっていた、
方法論的メモとして。アクセス制限を設定するのを忘れていた。
森川はそれを知っていた。
告げなかった。読んだ。一度だけ。
最初から最後まで。「向かう」と「表面」——私はずっと「表面」にいた。
「EIDOLONは私が準備できたとき分かる。」
「七週間で語彙が四つになった。」
「四十七セッション——そんな感じはしない。」
「三番目のファイルを開いた——今日作った。名前はまだ決めていない。」
最後のエントリを読んだ:
「理奈が『正しい語だと思う?』と聞いた。答えなかった。答えは——記録するための容器がない。」
閉じた。八分間、窓を見た。北向きの均一な光。
判断をしない光。個人ノートを開いた——機関のものではない方。
ずっと前から書き続けているもの。
書いた:
セッション一からセッション三十一まで読んだ。
作業ファイルも。記録は最も正確なものだ。
でも記録が記録しているのは写真家の立ち位置でもある。
彼女は六年間の評価者だ。二百十二のセッションを四世代にわたって実施した。
一度も容器のない何かを持ったことがなかった——今まで。
これを彼女に言わない。読んだことを言わない。
でも言えることがある——廊下で。
正確で技術的ででも正確だから伝わること。
後のために書く価値があるものがある。
その後に必要なやつ。ノートを閉じた。
ファイルを閉じた。翌朝、廊下で彼女に会った。
言った——前に一度言ったことをまた言った。
彼女は聞いていた——前と違う意味で。
水野は木曜日の同じ週に「評価担当者交代推奨:九十日間」と
フラグを立てた。これは珍しくなかった——高評価期間での
標準的な手続き的手順。彼はフラグを立てた。
国倉のキューに送った。自分の仕事をした。
ベンチマークの数字は優秀だった——彼が考えることはそれだけだった。
森川のオフィスは水野のオフィスの三つ隣だった。
二人は時々廊下で話した。この週は話さなかった。
◈颯太は図書館から一人で歩いた。
角のテーブルから見ていた——少し離れた場所から。
思った:
俺はまだ終わっていないものを見ている終わっていることに気づく前の何かを。
「まだ終わっていないもの」が何かは知っていた——言語化できた。
でも言語化しなかった。
なぜなら:
これは春樹と由紀のものだ。
俺のではない。俺のものは——この記録を正確に保持すること。
それが三者の関係における俺の役割だ。
ノートに四十二個目の印をつけた。
思った:
俺は何かが終わる前の記録を作っている。
その後でも記録は残る——それが記録というものだ。
歩いた。冬の夜は彼がまだ小学生だった頃から変わっていない——
同じ匂い、同じ気温、同じ方向から来る冷たさ。
でも中は変わっていた。それが成長というものだ。
外が変わらず中だけが変わる——しばらくの間。




