↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

聖女様?そんなことより絵の具を作ります!

作者: 有梨束
掲載日:2026/04/10

「異世界、退屈だ…」

華美すぎる王宮の部屋のベッドで横になりながら、私はため息を吐いた。




異世界に召喚されて、半年。

ただの日本人の私が連れてこられたのは、聖女が欲しかったからという理由だった。


異世界の人間には、ここでは探知できない別の生命力があって、それに浄化作用があるんだって。

まあ、つまり、ぶっちゃけ言うと、私じゃなくてもよかったという話。

たまたま私であり、もう二度と日本に帰ることの出来ない私は、王国の特別な客としてもてなされている。


聖女としてやることは、特にない。

ただ、国の真ん中にいればいいだけなんだって。

だから王宮にさえいれば、あとは自由という。


それがね、あまりにも。


「暇なんだよなああぁ…」


最初の頃は、魔法に驚いたり、王族や貴族に慄いたりと目まぐるしくしていたけれど、それもすっかり慣れてしまった。

私って順応力あったんだなぁ。


というか、インドアの引き篭もり体質の私からすると、この世界での部屋の中の楽しみが少なすぎる。

小説や漫画もないし、もちろんスマホもないし、やれることは刺繍くらいかな。

贅沢したい欲もなかったらしく、ドレスや宝石なんかも全然惹かれなかった。


「魔法も使えないし、異世界意味ねえ〜」


この世界と別の生命力が流れているのと一緒で、私には魔力回路がないから、魔法は使えないんだって。


つまらん。


「ユズキ、よかったらお茶にしないかい?」

出た、お茶。

それしかないんかい。


「レオぽん、お茶好きだねぇ」

「レオポルド、な」

「カタカナむずいって」

「ユズキの言うことはよくわからないな」

赤髪に赤目を携えて笑っているこの男性は、私を召喚した魔術師のひとりであり、この国の第二王子でもある。


時々、私の様子を見に来ては、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる、まあいい人だ。


レオぽんの赤が綺麗だから、眺めている分には楽しい。

この世界の人は色とりどりで、それは結構好きなところかもしれない。


「レオぽんって、お茶以外にすることないの?」

「仕事かな」

「趣味なし人間か」

「そういうユズキは、何かしたいことでもできたか?」

「ええぇ、刺繍はもう飽きたしなぁ」


ここで淹れてもらう紅茶は美味しい。

けど、それ以上でも以下でもないっていうか、お茶はお茶だよねっていう庶民舌だったので、特にお茶も楽しくはない。

趣味は多い方だと思っていたけれど、この世界にないものが多すぎる。


「絵が描きたいかなぁ」

「魔法が使えないのにか?」

「それなんだよねえぇ…!」


この世界は魔法があるゆえに、なんでも魔法でやろうとする。

私の肖像画を描きたいと言われた時も、魔法で描いていた。

それは感動したけれど、自分には使えないとなるとあまり嬉しいものではなかった。


「…作るか、絵を描く道具」


たった半年で、暇を極めているのだ。

趣味の道具作りから始めないと、死ぬまでに干からびてしまう。


「絵を描くのに道具がいるのかい?」

「私がいたところはそうだね」

「そもそも一般人は絵を描かないけどね」

優雅にお茶を飲むレオぽんは絵になる。

人物画ってあんまり得意じゃなかったけど、この際やってみるのもありだな。

社畜の頃より時間がありすぎているので、なんでもやってみよう。


「ということで、レオぽん。私の世話役として、この国の染料を用意してくれない?」

「もちろん構わないが、そんなものが使えるのかい?」

「わかんないから、試してみる」


そう言って用意してもらった染料は、ラッカースプレーのようで扱いづらかった。


「これで、ドレスとか染めてんの?」

「この染料を魔法で定着させるんだよ」

出た、魔法。

魔法が使えない人間をよく招いたな。

私が苦労するとか、考えないのか。

…考えてねえな、じゃなかったら召喚するなんていう迷惑行為しないわ。


「この世界、楽しくないね」

「…辛辣だね」

「レオぽん、ただの誘拐犯だもんね」

「…返す言葉がないな」

苦笑いしているレオぽんを揶揄うのは、もはや唯一楽しいことかもしれない。


「じゃあ、もう絵の具から作るしかないかぁ」

私はため息を吐きながら、レオぽんに次の指示を出した。


「できるだけ色とりどりの鉱石を用意して」





そうやって集められたたくさんの石たちを前に、私はガツガツ削っていく。


「な、何をしているんだい、ユズキ」

「ん〜、確かこうやって作ったと思うんだよねぇ」


最初に赤い石を手に取って、できるだけ細かく粉のような状態にしていく。

こうやって作る絵の具があったと思うんだよね〜。

まあ、この世界でも通じるのかはわからないけど。


「ねえねえ、魔法でこの粉の粘度を上げられたりしないの?」

「性質を変えるのは難しいな」

「ちっ。魔法って便利じゃないんだね」

「…し、舌打ち。粘り気が欲しいのか?」

「そう、このまま水に溶かしてもたぶんうまく塗れないと思うんだよね」

「染料用の花の蜜ならあるが」

「えっ!それちょうだい!」

「わかった、今用意する」

レオぽんが慌てて用意してくれた花の蜜は、透明で、粉にした鉱石をよく混ざった。


これ、結構絵の具に近くない…?


試しに掃除用の刷毛に取って、紙の上を滑らせてみると。


「お、おおおっ…!?意外といいかもしれないっ!」


少し鈍い赤が、紙にしっかりついた。

水で溶かせば、絵の具だこれ。


「えええ、できんじゃん!すごっ!」

「いい感じなのか、ユズキ?」

「うん!この世界に来て、はじめて楽しいかもしれない!」

「…それは、よかった」

悲しそうに笑うレオぽんを特に気にすることなく、私は黙々と作業を続けた。


やればやるほど、こだわれるし、何もすることがなかった私はこの作業に没頭した。

ついでに、筆にもこだわって描きやすい形を探求した。

ものづくりというか、図工とか美術とかが好きな子どもだったからあの頃みたいで、時間も忘れて作り続けた。


レオぽんの訪問があっても、帰ってもらっていた。

だって、邪魔されたくないし。

引き篭もりは、1人遊びが得意なんだよ!

時々食事も忘れたり、思った色にならずに舌打ちしながら、私は絵の具作りの研究を続けた。





「見て見て見て、レオぽん!私の成果っ!」

ようやく作業が落ち着いた頃、レオぽんがちょうどやってきた。


私は、色相環の色ほぼ全部作れたんじゃないかという色味表を見せると、レオぽんは目を見開いた。


「この染料を、あの石から作ったのかい…?」

「そうだよー!いいでしょ〜っ、すっごく綺麗で!」

「ああ、宝石みたいだな…」

まじまじ見られると恥ずかしいが、出来栄えは相当いいと思う!


これでようやく、絵が描けるってもんよ!


「つーわけで、レオぽん。私のお願い、聞いてくれるよね?」

「そりゃあもちろん、君を召喚した私の責任だ。なんでもするよ」

「じゃあ、そこのバルコニーの椅子に座って」

「わかった」

「この角度で、そうそう、そのままね。よし、じゃあ動かないでね」

「動かないって、どれくらい?」

「私がいいよって言うまで。まあ、日没までには終わらせるわ」

「えっ!?それって、何時間…」

「魔法じゃないんだから、秒で描けるわけないでしょ。はい、動かないっ!」

一国の第二王子をこき使って、私は絵を描き始めた。

レオぽんに話しかけられた気もするけど、集中しちゃって覚えていない。


やっぱりこの鮮明な赤は、作った絵の具だけでは表現できないなぁ。

他にも、赤くて絵の具になりそうなもの探そう。

レオぽんの赤は、こんな濁った色じゃない。


そんなことを思いながら描いたレオぽんの顔は、はじめて描いた割にはまあまあの出来だった。

男前って、描くの難しいんだな。


「う〜〜〜ん、この赤じゃないけどまあいっかあ」

「…ユズキ、あとどれくらいかな」

「あっ、おつかれ。もういいよ」

「…ぷはぁ〜」

レオぽんは体を伸ばすと、息をついた。

それから、こっちを見た。

もう少しで夕暮れになりそうな空は、レオぽんによく似合っていた。


やっぱ、綺麗な赤なんだよなあ。


「はい、レオぽん!最初だから、これで許してね」

「え…」

レオぽんの人物画の紙を、そのまま手渡した。


「もっと、こう、レオぽんはギラギラな赤だからさ、似てない色で悪いけど」

「……」

「どうせなら世界中の鉱物とかで試したいよね〜。ねえねえ、そういう贅沢って許されるかな?」

「……」

「レオぽん?どうかした?やっぱ、難しいかな」

「……これ、ユズキが描いたのか?」

「? そうだよ、今、目の前で作業してたでしょ?」

「魔法じゃないのに、こんなものが描けるのか…?」

何度も瞬きをしているところを見るに、手描きの絵ははじめて見たらしい。


「この世界、すぐに魔法だね」

「…それが、普通だからな」

「その割には、浄化はできないよね」

「魔法に、浄化作用はないからね…」

「ふふん、手描きもいいっしょ。ぬくもりみたいなのがあって」

「…ああ、肖像画とは、もっと無機物なものだと思っていたから、ユズキがなんでこんなことをしているのかわからなかったが」

そこで言葉を止めると、紙から目を離して私の方を見た。


「このために、ユズキは頑張っていたんだな」

「レオぽんって、嬉しそうに笑えたんだね」

「え」

「どうせなら、そっちの顔が描きたかったなあ」

くすくす笑いながら、私は作った絵の具の赤色をレオぽんに見せた。


「レオぽんの赤は綺麗だからさ。描いてみたかったけど、この絵の具の色じゃなかったみたい、残念」

そう言って肩を竦めてみせると、弾かれたようにレオぽんは驚いていた。


「…私を描きたかったのか?」

「そうだよ、鮮烈な赤だからね」

「…私の色しか、気に入ってもらえてないのか。…あれ、ユズキ、これ」

もう一度私の描いた絵を見たレオぽんは、急に真顔でこっちに近づいてきた。


「えっ、なに」

「この絵に、浄化作用を感じる…!」

「は」

「ユズキの、聖女の力かもしれないっ!」

興奮気味のレオぽんがそう言うと、紙からほんのり赤い光が浮かび上がった。

私はそれを見て、ニヤリと笑った。


実益が伴っているなら、この趣味も贅沢も範疇のはず。

何よりこの世界は聖女を召喚するくらい、浄化作用が喉から手が出るほど欲しい。

使えるものは、使わないとね!


この世界に来て、一番心躍らせながら、たぶん私は悪い顔をしている。


「じゃあ、それを確かめるためにも、ありったけの鉱石を用意してほしいな!とりあえず、赤色全部!」






了

お読みくださりありがとうございますっ!!

毎日投稿100日目。わーい。ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。