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キャンディの赤い痕
高橋伸司の両足は、微かに震えていた。
彼は誰よりも早く、この場所の欺瞞に触れていた。
——なぜ、俺のゴミが、あんな場所に鎮座している?
体が震える。
必死に思考を繋ぎ止める。
あれは、間違いなくゴミだ。
自分が出したゴミだ。
展示物を飾る休憩時間に自分が飲んだコーヒーのゴミだ。
床を汚さないように新聞紙を敷いて、その上に置いていたのだ。
人々は伸司の言説の汚染の周りに集まり、伸司の意識と語り合っている。
——言説の汚染。
彼はもう一度、記憶を辿る。
確かアレはキャンディだったはずだ。
透明で、無垢で、甘い光を湛えた赤いキャンディ。
そのキャンディに赤いリップの痕がついていたはずだ。
それが本物の言説の汚染なはずだ。
本物は何処に行ったんだ……!?
伸司は誰にも気づかれないように、辺りを見回す。
そして真理を見つける。
あっ、二つ隣の作品……!
絶対に、あそこに混ざっている……!
伸司の予想の通り『言説の汚染』は他の作品の中に組み込まれていた。
そして、その作品の周りにも人々が集まり、真理と真理が交錯する追求を始めている。
彼らの語る声は、まだ止まらない。




