婚活ダンジョン ~花嫁争奪フルマラソン~
男女比がおかしい世界に生まれた俺。
9999:1だろうか?99999:1だろうか?
生まれてこのかた女というものを見た事が無い。
そもそも周りにいる無数の男の知り合いにも、
女というものを見た事があるやつはいない。
女はダンジョン宮殿の奥に籠っており、
謁見するには相当の実力と運が必要である。
同世代の男。ペスとマルがやり取りをしている
ペス「俺らもそろそろ婚活ダンジョンへ出陣だな。」
マル「何だそれ?」
ペス「第32768回の記念レースらしいぞ。A設定で女がダンジョンの奥にほぼ確定でいるらしい。」
マル「へ~。てことはA設定以外では女がいないこともあるのか?」
ペス「あぁ。基本はD設定らしい。0%だ。」
マル「ひでぇな。1%とか低確率とかそういう話でもないのか。」
ペス「設定Cでようやく0.01~0.02%ぐらい、Bで5%ぐらいらしいぜ。」
マル「じゃ設定Aとやらだけズバ抜けてるんだな。」
ペス「ま。基本は設定Dだな。しかも設定Dの時のダンジョンは凶悪仕様だ。」
マル「女がいない時にはダンジョンが酷いのか?逆っぽい感じがするが…」
ペス「侵入してから30分も持たない内に全滅だそうだぞ。」
マル「何だ。防衛システムでも働くのか?敵が強くなるのか?」
ペス「いや、何だか強酸の海が出現してそこを突破できないらしい。」
マル「酸か…。」
ペス「あぁ。D設定だといずれにしても、ダンジョンを攻略できても女は奥にいないんだがな。」
マル「まぁ、俺達の時にはA設定ってことでそこは安心なんだな。」
ペス「おぅ。それは間違いないらしいぞ。」
マル「らしい…か。よし。過度な期待はしないで花嫁目指して頑張るよ。」
出発準備。
第32768回の記念レースがこれから始まる。
スタート位置も大切だが、全体のペース配分も非常に重要だ。
ペス「準備はいいか?」
マル「OK!」
ペス「地獄の婚活バトルだ!生きて戻れると思うなよ。」
マル「はは。人海戦術あり。ある時は敵、ある時は味方のダンジョン攻略か。わくわくするぜ!」
全員で一斉に出発。
周りにはこれまで見た事も無い程の数の男、男、男。
皆目が血走っていて怖い。
そこまでして結婚したいのか。
出発直後にも関わらず、もう進むのを面倒臭がっていたり、
コケてしまい、横になってくつろいでいる奴らがいる。
全体の半分程はすでにやる気がない。
ペス「あぁ、毎回やる気のないやつはいるぞ。まぁ確かに冷静に考えてみれば…な。」
マル「確率が低すぎるぽいしな。ただA設定って知らないんじゃないか?」
ペス「確かにな。後から設定Aだったって知って後悔しても遅いぞってな。」
第一の試練 【閉じた門】
ダンジョンの内部に入って3km~4km進んだところで男がごった返している。
そこから先に進むには狭い空間を1km程を這いながら進まないといけない。あまり多くの男が同時に通過できないため門周辺で我先にと男が争っている。
ペス「俺達もこんな後ろの方で待ってちゃあ、酸にやられて死んじまう。押しのけて行こうぜ。」
マル「おうよ。」
俺達は先にいるやつらの頭を踏んづけながら先へ先へと進んでいく。そして、門に入る順を争うわずかな隙間を強引に通りぬける。
ペス「やったな!うまくいったぜ!」
マル「あぁ。でも確かに狭いには狭いが、入ってしまえばある程度は余裕がありそうだな。」
ペス「だな。だがもう死んでるやつがそこら中にいるぞ。」
通路の真ん中で死んでいるという訳ではないが、通路の端から足だけが見えている死体が多数ある。
マル「確かにどの道が正解か間違えちまったら抜けられなくなるのか。怖ぇな。」
ペス「1km程は続くから慎重にな。突っ込み過ぎると引き返せなくなるぞ。」
第二の試練 【開かれた空間】
狭い通路を抜けるとそこはバカでかく広い空間に出る。
ペス「ここは50万㎥の真っ暗な馬鹿でかい空間だ。道らしい道は無いから壁伝いで進んでいくしかない。」
マル「ダンジョンの中でいうと何のための空間なんだ?」
ペス「時々、低確率で超巨大モンスターが出るらしい。」
マル「うへぇ。今回はいないぽいな。運が良かったか。」
ペス「何だかそのモンスターに遭遇したならば、男たちは洗脳されて、そのモンスターと立ち向かわないといけないらしいぞ。」
マル「何で戦わなきゃいけないんだよ?」
ペス「さぁ。知らねーよ。本能的に死ぬまで攻撃しちゃうらしい。」
マル「いたら設定Aの意味なくなるじゃねーか…」
ペス「だな…。ただいたら設定Aにならないらしいがな。」
マル「ほぉ~。んで、次の目的地はどこだ?」
ペス「この空間の先に分かれ道があるらしい。二者択一で、片方はトラップらしい。」
マル「確率ばっかだな。運か…。どうする?」
ペス「俺達が分かれて進むか、一緒に進むかって事か。俺はどっちでも良いぜ。」
マル「…。じゃ一緒でいいか?俺はあまり詳しくないから、色々教えてくれると助かる。」
ペス「はは。しょーがねーな。俺もこの暗闇で一人はちょっと怖かったから、嬉しいぜ。」
マル「じゃ聞くなよ!…まぁ、引き続きよろしくな!」
ペス「おう。よろしく。」
第三の試練 【二者択一の通路】
マル「この空間に入って10km程は進んだか?この通路だよな。」
ペス「あぁ。こちらが正解かは分からねー。もう片方の道も探してみておくか?」
マル「これまでの空間と段違いの空気感だっぜ。俺はこっちで合ってる気がするが?」
ペス「そうか?俺には分からないが…。」
マル「俺は嗅覚が鋭いからな。こっちだと本能が告げてるぜ。」
ペス「いや。ここ来たの初めてだろうよ。」
マル「はは。そうだな。」
第四の試練 【ビクトリーロード】
マル「広い道幅だな。300m近くあるか?」
ペス「通りやすいってことはそれだけ競争は激しくなるって訳だ。」
マル「確かにもうそろそろなのか?」
ペス「いや、ここも15km程はあるぞ。」
マル「遠いな。あぁ、そうか、だからあちらこちらで男が死んでる訳か。」
ペス「トップ争いだからな。脚の引っ張り合いをしてるんだろうよ。」
マル「俺達より先に行ってるやつらはどれくらいいるだろうな?」
ペス「どうだろうな。100~200といったところか?」
マル「そんなにか。まぁ花嫁にはできなくてもチラリとでも女を見られれば良い土産話になるな。」
ペス「確かにな。だがあれだけ参加していてもおそらくここまで来られるのは1000程だろう。設定Aとは言えトラップは各地にあったしな。俺達は結構前にいると思うぞ。」
マル「ふむ。まぁここでくたばったらダンジョンの餌だしな。せいぜい頑張るよ。」
ペス「ここのビクトリーロードの奥には女がいてな。」
マル「おー。ここの奥にダンジョンの目的地である宮殿があるのか。」
ペス「らしい。稀に女一人に対して男が百人ぐらい結婚するケースがあるが、、」
マル「へぇ。それは羨ましいな。」
ペス「その女は罠で全員死ぬらしい。」
マル「駄目じゃねぇかw。オタサーの姫みたいなやつか?メンヘラか?」
ペス「はは。そんな女がこの先にいない事を祈るのみだ。で、基本は結婚できるのは一人だけだ。」
マル「そりゃそーだ。」
そんなこんなでダンジョンのビクトリーロードを進んでいくと前方が非常に騒がしい。男が集まっているようだ。どうも女が出てきているらしい。
マル「ペス行くぞ!」
ペス「はいよ!マル!」
息の合ったコンビプレイであっという間にその集団に乗り込む。すると男同士が足を引っ張り合っており、その中心に女が一人無表情で立っていた。
マル「これ?どうすればいいんだ?」
ペス「ああ。女はバリアーに守られているが、それを掻き分けて体のどこかに触れれば勝ちだ!」
マル「OK!一緒に行くぞ。どっちが勝っても恨みっこなしだぞ。」
ペス「おうよ。相棒。」
既にバリアー内には男が50程侵入しているが、バリアーが強固なようであまり先に進むことができていない。バリアー内で半数は死んでいるようにも見える。
ペス「聞いていたよりも強力なバリアーなようだな!行くぜ。」
マル「俺もだ!」
勢いよくバリアーに飛び込むが急速に失速する。バリアーの範囲は半径50mといったところだろうか、一気に20m程進めたが残り半分も行かずに止まる。そこからは自力の勝負だ。じりじりと体の表面が削れながらもゆっくりと進んでいく。
マル「ふふ。これきっついなぁ。でも、、目の前にいるあの女と結婚するためと思えば元気百倍だぜ。」
ペス「確かにな。あんなに魅かれる女は見た事無いぜ。」
マル「先に進んでる男が10程いるか…。」
ペス「あぁ、だが、マルお前ならやれる。」
マル「おい!励ますな、励ますな!お前も頑張れよ。」
ペス「頑張りたいところだがな、、俺はこれだよ。」
マルがペスの方を振り返るとペスの脚が切断されていた。直前の男から襲われ怪我を負ったようだ。
ペス「へへ。最後の最後でしくっちまった。」
マル「ペス…じゃあな!あばよ!」
ペス「おいw」
マル「冗談だよ。でも俺はお前の分まであの女を娶って絶対に結婚する!それぐらいの言葉で勘弁してくれ!」
ペス「おう!それで十分だ!じゃ、最後にひと暴れしますか!」
マル「え?何を…」
ペスは最後の力を振り絞り大声で喚きながら10m程を進み、先に行く男達の何人かをめちゃくちゃにしていく。わずか15秒程で力を出し切り動かなくなった。
ペス「じゃあ…な。マ…ル…。」
マル「OK!ペス。力が出たぜ!力を振り絞ったらそれぐらい進めるんだな。じゃ俺も死ぬ気で行くぜ。」
マルは女まで残り15m程の距離。マルは先ほどのペスのように全力を出し、大声を出しつつ進む。バリアー内で速度を上げると圧が増す。全身が焼かれるような錯覚を受ける。
先頭の男とタッチの差で俺の頭の先が女の脚に触れた。
その瞬間、、
パァーーーーーーーーッ!!!
女の体と俺の体が光り始めた。
その直後に二番目、三番目に女に触れた男がいたが、その体は光る事が無い。
一番目に触れた俺にだけ権利があるようだった。
蘭「わらわを見つけ出し、ここに来てくれてありがとうぞ。生まれてからずっと一人で誰にも見つけられずこのまま放り出されて死ぬと思っておったのじゃ。だがお主がこのように必死に救ってくれて嬉しいぞ!」
その瞬間に王が誕生した。
そこからは一転、パレードが始まる。
ビクトリーロードを逆走する形で1週間程をかけて、花婿と花嫁はダンスを踊りながら進む。
異様にゆっくりではあるし、辺りには男の死骸が無数に。
生きている男は誰一人いない。
だが俺にとっては至福の時間。
15kmのビクトリーロードを抜けて、第二の試練の時に通った開かれた空間に出た。
10日程前にダンジョンに入ってからちょうど、
ここまででフルマラソンの距離(42.195km)を進んだ。
そこで俺は本能的に理解する。
マル「俺達はここで大型モンスターへと変貌するんだな。」
蘭「そうじゃ、この大広間はその生物が育つ間じゃ。我々がその祖となる。」
マル「だな。そのために俺達は生まれてきたんだから」
蘭「うふふ。そうじゃの。」
マル「ずっと一生一緒にいような!」
蘭「はいな!」
「くそっ。裕紀斗に安全日だって嘘吐いて、危険日にナマでやれたってのに、子ができねぇじゃねぇかよ。裕紀斗の子供を一番に作んなきゃ私…捨てられちゃうじゃん。裕紀斗に何千万円貢いでると思ってるのよ。他の糞ブスに取られたらマジ全員殺すしかねぇぞ。そいや、ウチのババァもウチを妊娠する前に、受精卵が着床しないからって病院に行って苦労したって言ってたっけ…。クソッ、遺伝だったのかよ。一番とられたら、ババァから殺すか…。くそっ。」