表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三題噺もどき4

雷雨

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくにじゅうさん。

 




 窓を叩く雨音は酷く激しい。

 白い光が差し込み、暗い部屋を一瞬照らす。

 その数十秒後に遠くから轟音が聞こえてくる。

「……」

 仕事をしながらも、耳はどうにもその音ばかりを拾ってくる。

 マウスを操作しながらも、何度も入り込む閃光と聞こえてくる雷の音に、何度も作業をとめられる。

 手が止まり、小さく体は跳ね、過去の記憶を引きずりだそうとしてくる。

「……」

 トラウマなんて可愛らしいものはとうに仕舞い込んだはずなのに。

 気づかぬうちに刻まれていた傷は、脊髄にまで染み渡っていたようで。

 反応したくなくとも、勝手に体が動いてしまう。

「……」

 ぴくぴくと、時折瞼が震えて、どうにも鬱陶しい。

 マウスパッドに描かれた蝶々がなぜか気に障る。

 いちいち手をとめるこの体が、気に食わなくて仕方ない。

「……」

 夕方、起きた時にはここまでの悪天候ではなかった。

 いつものようにベランダに出てみれば、小学生がしゃぼん玉を飛ばしていて、可愛いものだと思った。

 夕日に照らされ、キラキラと光るその様はとても美しいものだった。

 私の目の前まで飛んできたしゃぼん玉は、その目の前で、ぱちんと弾けた。

「……」

 それから風呂に入って朝食を食べて、いざと仕事を始めたあたりで、ものすごい勢いで雨が降り出したのだ。

 今は、外で防災無線というのが流れている。避難指示まで出ているようだ……。かなりの雨が降っているのだろう。まぁ、少し離れたところに川というか水路というか、そういうモノがあるから、下手したら氾濫してしまう恐れがあるからだろう。

 それに雷もこうして合わさって、きっと眠れない人間もいるのだろう。

「……」

 私はまぁ、眠るも何もないのだけど。

 仕事をしなくてはいけないし、この時間が一番動けるのだから、寝ること自体が難しいと言っても過言ではない。

 この有様では、散歩にも行けないし、明日の分の仕事までやってもいいかもしれない。

「……」

 それなのに。

 光と音に反応する身体と記憶が、思うようにさせてくれない。

「……」

 もういっそ、やめたほうがいいのかもしれないのだが。

 それはそれで、なんだか嫌な気がして。

「……」

 また、光が視界を埋める。

 今度はすぐそこで音が聞こえた。

「……」

 間髪開けずに白く視界は埋められる。

 更に近くで轟音が響いた。

「……」

 手は止まり、幼い記憶が想起され、寒さに怯えるように小さく体が震える。

 瞼がピクリと震え、体は思うように動かず、ほんの少し呼吸が浅くなる。

「……、」

「…、…、」

「、…、…、」

「、…、―、」


「ご主人」

「、……、」

 声のした部屋の入り口に立っていたのは、エプロンを付けた小柄な青年だった。

 私の従者で、世話係で、親のようなもので、元の姿は蝙蝠の。

 私の唯一の、家族である。

「大丈夫ですか」

「、ん、……うん」

 その声が聞こえただけで、私は酷く安堵する。

 緊張が解けて、先程までの震えが嘘のように無くなる。

「……休憩にしましょう」

「あぁ、」

 私はきっと、これからも。

 この声に掬われるのだろう。





「……今日はもうお休みしたらどうですか」

「ん……んーしかしなぁ」

「……ご主人?」

「休むよ、」








 お題:蝶々・脊髄・しゃぼん玉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ