【ネトコン13応募】カタシロ様
一.
これは私が小学五年生まで住んでいたとある村であった話だ。
俗に言われる田舎の村。村のすぐ近くには川が流れていて、川にかかる橋を渡ると昔から神様が祀られている神社が建つ小さな山がある。
そんなどこにでもある田舎の村であった。
村に住んでいたのは足腰の不自由な父方の祖母と一緒にいるためで、祖母は幼い頃から私の面倒を見てくれていた人だった。
祖母は生まれてからずっとこの村に住んでいて、村から出る人も多い中で離れることはなく、田舎暮らしに憧れた移住者が増える昨今、村の物知りとしても頼られることが多かった。
祖母は寝物語として、よく村の昔話をしてくれた。
一時は林業で栄え、私にとって高祖父母に当たる人たちの代から村に住むようになったこと。戦時には都会から疎開者が来ていたこと。疎開者も含めて山の神社で祭りを行っていたこと。
林業に携わる人が次第に減って、今のように農業を中心とした生活になったこと。
山の神社を管理する神職が村在住ではなく、車で三十分はかかる街からやって来る神主に変わってから一度、山の神様を祀る祭りが無くなりそうになったこと。
祭りを続けることを祖母が神職に強く訴え、今でも夏に祭りが行われていること。
そして、山の神様についても。
「あの山の神様はね。ずうっとずうっと昔。何百年も前はね、神様ではなかったって言われていたんだよ」
祖母は語った。
「山に入る人が行方不明…いなくなるのを止めてもらうために、今のように神社を建てて神様になってもらったんだって。神様として村を守ってもらえるようにしたの。それから夏のお祭りで神様に“いつも見守ってくれてありがとうございます”と、“見守ってくれるお礼です”って村で採れたものとかをお供えするようになったのよ」
「じゃあかみさまがかみさまになるまえはなんだったの?」
「妖怪。化け物。といわれていたの」
「ようかいやばけものってなに?」
「人間ではないもので色々いるのだけどもね、中には人に悪いことをするのもいるの。山の神様が神様としてお祀りされる前はね、人に悪いことをする妖怪や化け物と言われていたんだって」
「かみさまがかみさまじゃなかったから、やまにはいるといなくなるひとがいたの?」
「そうだよ。今は神様になったからそんなことも無くなったの」
祖母は幼少の私の質問攻めにも嫌な顔一つせず、丁寧に話をしてくれた。
神様が神様であることを忘れないように、村の祭りを継続するように祖母は神職にお願いしたのだとも。
そんな祖母が私の物心ついた頃から口酸っぱく、何度も飽きるほど言い聞かせてきたことがあった。
「一つだけおばあちゃんと約束だよ。お友達と遊ぶ時は“絶対に夕方の四時を過ぎたら河原でかごめかごめをしてはいけない”からね。どんなにお友達が誘ってもやってはいけないよ」
私が“うん”と答えるまで祖母は私の目を真っ直ぐに見たことをまだ忘れられない。
「ほかのあそびだったらいいの?」
「他の遊びだったらいいよ。かごめかごめだけは絶対にしないとおばあちゃんと約束できるかい?」
「うん。ゆうがたのよじすぎたらだめ。しない」
この約束は事ある度に祖母と交わしており、両親に理由を尋ねても首を傾げるだけだった。
小学校一年生になったある日の夜。私は祖母に尋ねた。
「おばあちゃんはどうしてあそびのやくそくをするの?」
「そうだね…前に神様の話をしたのを陽子は覚えているかい?」
「うん。山のかみさまがずっとむかしはかみさまじゃなかったって」
「覚えていて陽子はえらいね。おばあちゃんが遊んじゃだめと言っているのはね、神様に関係するからなんだよ」
「かみさまに?」
「夕方というのは太陽の神様と月の神様がお空で交代をしようとしている時間って昔から言われているの」
天照大御神から月読尊に空が移り変わりゆく夕方。
その時間帯を黄昏時。昔は「誰そ彼」とも言われていたことを祖母は話した。
誰が空を統治しているかあやふやな時間帯。その時間帯になると山の神様が祀られる前の存在…妖怪、化け物としての側面が強く出てしまうという。
山に入った人を行方不明にさせていた存在としての側面。
「神様のお名前を話したことはなかったね。あそこの神様は“カタシロ様”と呼ばれているんだよ。人の身代わり…病気や怪我をした時に神社でお願いをすると早く治るって言われているの」
妖怪・化け物とされた存在から人の身代わりをする神様とされたカタシロ様。それが祀られている山の入り口を流れる川の側、河原でかごめかごめをするとどうなるか。
「陽子はかごめかごめはしたことがあるかい?」
「あるよ!わたし、あてるのとくいなの」
「当てるとき、何を言うかい?」
「うしろにいるひとのなまえ」
「おばあちゃんが小さい頃から川は境目…カタシロ様の住む場所と村を分けるものと言われているの。夕方のカタシロ様はね、その境目で聞こえてきた人の名前を自分の名前にしちゃうんだよ」
普段は山から降りてこないカタシロ様。けれども山の入り口の川までは来ることができるという。
夕方の妖怪・化け物としての一面が強くなってしまったカタシロ様は河原で聞こえた名前を取り、身代わり…名前を聞いたものの身に成り代わりとなると祖母が子どもの頃に聞かされていたという。
「ほんとうにそんなことがあるの?」
「あったんだよ」
祖母が当時の私より少し大きくなった時の頃。祖母が風邪をひいてしまい遊びの誘いを断った日のことだそうだ。
疎開で都会から来ていた一人の女の子が夕方四時の河原でかごめかごめをした翌日から一週間後、突然いなくなってしまったという。その子は数日後に山中から見つかった。戦争が終わり、女の子と一家は都会へ戻ることとなった。
女の子と祖母は仲が良かったようで、女の子が都会に戻った後も文通を行っていたそうだが、ある日女の子の母親から手紙が届いた。
「女の子がね、いなくなったんだって。数年前いなくなった時と同じように。それから女の子は今になるまでどこにいるかも分からないまま。生きているかどうかも。おばあちゃんはね、その時に気づいたんだ。」
祖母が言いにくそうに、少しだけ言葉を区切った。
「かごめかごめをしたあの日にカタシロ様が女の子の名前を取ったんだって」
名前を取られた女の子に成り代わったカタシロ様が山から降りて見つかり、都会へと戻ったある日に山に帰ったのだと。
かごめかごめ。
一人が輪の中心に入り、自分の目を隠す。輪を作った他の人たちが「後ろの正面誰だ」と問いかけをした時に、目を隠した人は自分の後ろにいる人の名前を挙げて当てる子どもの遊び。
ただの遊びが人を消す。そんなことがあるはずないと、話を聞いた当時の私も思っていた。
二.
私が小学四年生になった年の春。
都会から一人の女の子が引っ越してきた。体が弱いその子のために空気が良く、移住者を募集していたこの村に引っ越してきたのだと担任が紹介した。
女の子は“さち”といい、子どもの数が少ない村の小学校というのもあり、彼女はすぐに学校に馴染んでいた。
転校当初は病気で学校を休みがちだったけれど、村の空気が体に合ったのか次第に登校日数も増え、放課後も遊べるくらいに元気になっていたようだった。
ある秋の日のことだ。
小学校の校庭が村の行事か何かで放課後使えず、私たち子どもは放課後に校庭以外の場所で遊ばないといけない日があった。
村で遊べる場所は限られていて、自然とみんな河原に集まる流れとなった。
「陽子ちゃんは放課後に河原来る?」
遊ぶ人数の確認でさちちゃんが声をかけてきた。
いつもの私だったら遊びの誘いに乗っていただろう。けれどもその日はどうにもモヤモヤとした感覚が胸の中にあり、遊びに行く気分にならずにいたのだ。
「ごめん、今日家のお手伝いしなくちゃいけなくて…」
「そうなんだね。じゃあまた今度遊ぼうね!」
私の口からとっさに出た嘘に気づかなかったさちちゃんは、他の子へ確認しに向かっていった。
その時の私は誰かが言うと軽く考えていた。
「夕方四時を過ぎてから河原でかごめかごめはしない」と。
祖母以外にも知っている人がいるのだとそう思っていたのだ。
「あら、今日は遊びに行かないのかい?」
帰宅してどこにも行かずに宿題をしている私を見て祖母が声をかけた。
「…うん」
「どうしたの?お友達とけんかでもしたの?」
「ちがうの。今日なんか朝からモヤモヤしていて…。放課後に校庭も使えなくて、みんな河原で遊ぶっていうから風邪ひくといけないし、遊びに行かなかったの」
「河原に…?」
時計を見た祖母の顔色が変わった。時刻は昼の三時半を回っていた。
もう少しで黄昏、誰そ彼の夕方。昼と夜の狭間の時間がやってこようとしている。
「誰が遊びに行くか、陽子は知っているのかい?」
「さちちゃんから声かけられたから、多分さちちゃんは行くんだと思う。あとは誰が行くかは聞いてないから分からない」
「そう…」
祖母がかごめかごめの心配をしているのだと、すぐに分かった。四年生になった今でも祖母は相変わらず約束をしてくるからだ。
小さな頃から繰り返し行っているこの約束が、今日の私の足を止めたようなものですらある。
「さちちゃんが来てからかごめかごめしたことないから…だれかこの約束を知っている子がいたら大丈夫だと思うんだけど…」
「村の年寄りは知っているとはおばあちゃんも思うのだけどね…」
大きくなった今なら分かる。
この時のモヤモヤは、きっと虫の知らせのようなものであったのだと。
翌日、私はそれとなく昨日何をして遊んでいたのかさちちゃんに聞いてみることにした。
「昨日は行けなくてごめんね」
「お家のことだったんでしょう?仕方ないよ」
「ありがとう。昨日ってだれがいたの?」
「えっとね、〇〇ちゃんと△△ちゃんに…」
さちちゃんが遊びのメンバーを指折り数える。五人以上挙がったその中に上がった名前に私は嫌な予感がした。まだ低学年の子の名前が挙がったからだ。
「結構みんな来てたんだね。河原だったら水切りとかしてたの?」
「うん。水切りもしたよ。魚探したりとか、あとはね。ああ、私久々にあれしたの!」
「あれ?」
「花いちもんめとかごめかごめ。私、最後にしたのが二年生くらいだったからなつかしかったなぁ」
「…それって、何時くらい」
「何時だったかな?多分夕方の四時だったかな。時間がどうかしたの?」
「ううん、何でもない。もしかしたらそれくらいの時には行けたかもしれないなって思って」
「そっか。また今度みんな集まったらしようよ。久々にやると楽しいよ!」
夕方のカタシロ様の話を知らないだろうさちちゃんが笑った。
◆ ◆ ◆
みんなと河原で遊んだ次の日の夕方だった。
今日は放課後校庭で少し遊んだあと、いつもの道を通って家に帰っている途中。
何気なく。本当に何気なく、足元を見た。見てはいけないような感覚になりながら、見ないといけない正反対の気持ちが視線を足元に向けた。
足元には夕陽が作り出す影。伸びた影は私の頭まであるはずだった。
「え」
頭の位置に別の足が重なっている。
誰かが私の後ろにいたとしても、この影の重なり方はおかしい。
「〇〇」
後ろから声が聞こえる。耳に水が入った時のように、うまく音を聞こえない。
「〇〇」
「〇ち」
もう一度聞こえる。さっきよりはっきりした音になっている。
「さち」
名前だ。私の名前。後ろの何かが私の名前を呼んだ。
「さち」「さち」「さち」「さち」
繰り返し名前が呼ばれた。まるで私を確認するように、何度も。
「さち」
そうして。
振り向いてはいけないと理解をしているのに、私を呼ぶ何かを見るために振り返る。
影だ。
黒い影だ。人の形をしている、頭から足元まで真っ黒な影。人の形をしていても、人とは絶対に違う何か。人であれば顔らしきところも何もかも真っ黒で、夕陽で逆光になっているとしても、目や鼻、口のようなものすら何も見えない。
口がないのにどうやって私の名前を呼んだのか。 どうして真っ黒な影が私の名前を知っているのか。そんなことを考えていると、真っ黒な影はもう一度名前を呼んだ。
「さち?」
人探しをしているような、私を私と確認するような声だなと何となく思った。
「さち?」
知らない人に名前を教えてはいけない。それは引っ越してくる前にいた小学校では入学した時から言われていること。
そもそも私は影のことを知らないから名前を教えてもいないし、知らない何かに名前を呼ばれたら反応してはいけないはずなのに。
「だれ」
影が呼ぶ名前を認めるように私は返事をしていた。
顔も何も分からない、見えないけれども影の口のようなところがにたりと笑った気がした。
「みぃつけた」
「さち。みぃつけた」「さちをみぃつけた」「さちをあてたよ」
「こんどはさちのばんだから、むかえにいくね」
影が私の足元を指差す。指が体をなぞるように少しずつ上に動いて、私の喉を指した。
「さちのばんまでまっていてね」
熱が出たような寒気がする。これは関わってはだめなもの。逃げないと。逃げないと。
逃げないと。
固まりそうな足をなんとか動かし家まで走る。
だから私は見えなかった。私の影の右足首が、真っ黒な影に触られたことに。
震える手で鍵を開けて家に入る。ひざに手を当てて、何度も深呼吸をして上がった息を整える。ひゅうひゅうと最近聞いていない音がしそうだった。喉がひりひりと痛む感覚がする。
ひゅうひゅうと聞こえそうな息が整うくらいには寒気も消えていた。今のは遊びつかれて見た夢のようなもの。それか、小学校の誰かが悪ふざけをしたのかもしれない。
そう考えて、深呼吸をした。走ってきたから水が飲みたい。靴と靴下を脱いで上がろうとして見えたものがあった。
十円玉くらいの大きさの点が右足首をかこんでいるように付いている。 昨日河原で遊んだかごめかごめのように、足首を中心にぐるりと囲むように。
「何これ…」
今日の朝にはなかったはずだ。
学校でぶつけた覚えもないが、もしかしたら校庭の草が多い所を通った時に虫に刺されたのかもしれない。
後でお母さんに薬をもらおう。すぐにこの黒い点も消えるはず。
さっき見たものとは関係がないと、何とか思いこんだ私は水を飲みに台所へ向かう。閉めた玄関扉の向こうには黒い影が立っていたことには気づかずに。
三.
「昨日ね、変な夢を見たんだ」
さちちゃんたちが夕方にかごめかごめをしたと聞いた翌日。
朝、学校で顔を合わせたさちちゃんが少し疲れた顔をしていた。
「夢?」
「うん。いつもは夢を見てもすぐ忘れるんだけど」
ランドセルから教科書やノートを机の引き出しに入れながら、さちちゃんは昨日見たという夢の話をした。
「自分の部屋にいるんだけど、窓の外から音がするの」
音は何を言っているか分からないが、窓を開けてはいけない気がするという。
何が窓の外で音を立てているのか分からないまま、さちちゃんは目が覚めたのだと語った。
「夢のせいであまり寝たような気がしなくて」
今日の授業で寝てしまったらどうしよう、そんな冗談を言ってさちちゃんは係の仕事である花の水やりのために教室を出た。
その日。体育でさちちゃんと二人組になって準備運動をしていた時だった。
さちちゃんの足首を囲むように黒い点がある。
「さちちゃん、それどうしたの?」
私が指差した先を見たさちちゃんが唇をとがらせた。
「私もいつできたか分からないんだよね・・・草が生えてるところを通ったから、虫にでもかまれたかなって。かゆくはないし、はれてもないし虫刺されの薬塗っているからそのうちには消えると思うんだ」
黒いし、点の数が多いから目立つよねとぼやくさちちゃんを他所に、私はこの前みたいなモヤモヤする感覚が胸に広がっていく気がした。
ぱっと見たら点のように見える黒いものが、私にはどうしても手のように見えて仕方なかったのだ。
もし。
もしも。この時に私がもっと気づけていたら、祖母の話をもっとちゃんと覚えていれば。もしかしたら何か変わったのかもしれない。そう思ってしまっては、この日のやり取りが忘れられずにいる。
◆ ◆ ◆
今日も夢を見た。
昨日と同じように私は自分の部屋にいる。
ベッドの端に座って、何かをするわけでもなくただと部屋にいる。ベッドの頭側にある窓の外からまた音がして、黒い点がついている右足首がぎゅっとにぎられたような痛みがする。
雑音にしか聞こえなかった音が、今日は少しはっきりと聞こえた。
昨日よりはっきり聞こえる、と思ったのと合わせて頭がぼんやりとしてくる。
窓の向こうは夕方の空の色をしていて起きている時なら窓を開けて雲の流れを見たりするのに、外から聞こえる音が耳に入ってしまってはいけない気がして、窓を開けることができずにいた。
「…起きないと」
起きないといけない。この夢が続いてしまうといけない。ぼんやりする頭で何とかそれは自覚できた。
この夢が続いてしまうと、私はそのうちに窓を開けてしまう。
音を聞いてしまう。
音を立てている何かを見てしまう。
◆ ◆ ◆
さちちゃんの足首に黒い点を見てから二日後のことだった。
この日、体育の授業があるために教室で着替えをしていた時のこと。私の前の席のさちちゃんが着替えていた際に、それは見えた。
さちちゃんの背中から腰にかけて黒い点がはっきりと手のような形を作っていたのだ。
「さちちゃん…背中から腰のあたり、どうしたの?」
もしかしたら他の友達との喧嘩などで背中を叩かれたかもしれない。それはそれで良くはないのだが、そういう理由であれば良いとほんの僅かな希望を抱いていた。
「背中?」
「うん…。なんか青あざみたいな黒い点みたいなのが広がっているから。背中、どこかで打ったりした?」
私には手のように見えるそれは伝えず、打ったのかどうかを尋ねてみた。
「黒い点…」
私の言葉にさちちゃんが一瞬びくりと体を固まらせた。さちちゃんの視線が自身の右足首に移る。
二日前にぐるりと足首を囲むような黒い点は綺麗に消えていた。
「消えたわけじゃないんだ…」
「さちちゃん?」
「ううん。何でもない。特に背中とかぶつけてないんだけどなぁ。寝てた時にベッドから落ちたりしたかもしれない!」
明らかに引きつった笑顔で誤魔化そうとしている。
「ねえ、さちちゃん」
河原で遊んだと言っていたあの日。かごめかごめをしたと言っていたあの日。
「誰があの日、」
誰が夕方四時の時点で名前を当てられたのか。
あの日のことを尋ねようとした瞬間にチャイムが鳴った。
私たちは着替え途中であったことを慌てて思い出し、急いで着替えて校庭に向かう。
授業が終わった後は次の準備で聞けず、この日の放課後はさちちゃんに予定があり、結局聞けずじまいとなってしまったのであった。
帰宅して、出迎えてくれた祖母に私は聞いた。
「おばあちゃん、もしも。もしもだよ。かごめかごめをして、カタシロ様に名前を知られてしまったらどうなるの?」
「陽子まさかやったのかい!?」
とても老人と思えない力で祖母に肩を掴まれる。
「ちがうよ!!私はやってない!ほら、この前河原でみんなが遊んでいた日があったでしょ」
「この前陽子が行かなかった日のことかい?」
「うん。あの後から、友達が一人変な感じがしていて…」
祖母から以前聞いた話では、名前を取られた女の子は数日後に行方不明になったという。
「でもその前に何とかできないかなって…。その子が四時に名前を呼ばれたかは分からないんだけど」
さちちゃんの名前は伏せて、二日前の右足首。今日の背中の黒い点について祖母へ伝える。
私の肩を掴んだままの祖母の手が震えていた。
「陽子が見たのとね、同じのをおばあちゃんも小さい頃に見たんだよ」
祖母の友人であった女の子。かごめかごめを夕方四時に行って名前を呼ばれたらしい女の子も、遊びから数日後に手のような形をした黒い点が背中にできていた、と祖母は語った。
「おばあちゃんのおばあちゃんから聞いたのはね。カタシロ様に名前を知られてしまったら連れていかれるまでに何日かかかるってこと」
祖母の祖母…私にとってのひいひいおばあちゃんは、祖母へカタシロ様についてこんな話をしたという。
カタシロ様は名前を知った相手をすぐに連れていくことはできない。名前を知った相手を確認し、少しずつ迎えに来る。迎えに行く目印を足首に付けて、日が経つにつれて目印が少しずつ体の上の部分に移動するのだとも。
その目印が喉まで出てしまうと、もう間に合わないと。
「カタシロ様の目印が首の辺りまで行ってなければ、まだ間に合うかもしれないよ」
「どうするの?」
「お線香を夜の間ずっと焚いて、その部屋にこもるんだよ」
ひいひいおばあちゃんが祖母に語ったという。
お線香を焚くことでその人の匂いを消し、こもる部屋を天上の世界とカタシロ様を誤魔化すことができる。
部屋を天上の世界とすることで“化け物”では手を出してはいけない存在だと…諦めないといけないようにさせる。
神様としてのカタシロ様は人の身代わりになっても、人の身を取ることはないのだと。
「陽子のお友達のお家にお線香がなければ、うちのを渡してあげるといい。お父さんたちにはおばあちゃんが説明するから」
まだ首に印が来ていなければ間に合うはずだから、と祖母が続けた。
昼間に見た黒い手は背中の辺りまで来てしまっていたから、さちちゃんがカタシロ様に連れていかれるまで時間はない。
明日の学校でお線香の箱を渡して、カタシロ様について絶対説明しようと箱を握る手が汗ばんだ。
◆ ◆ ◆
外は真っ赤な空なのだろう。
閉じられた窓の向こうから強く差し込む光だけで、外に広がる空の色が分かるくらいに強い赤色が部屋にも広がっている。
今日も自分の部屋にいる夢を見る。数日前から見ている同じ夢。
夢を見ている感覚を持ったまま、夢を見ていた。
最初にこの夢を見た次の日、その次の日とだんだん頭がぼんやりとして、考えることができなくなっていくのが自分でも分かる。
なのに最初はほぼ分からなかった窓の向こうの音が、今では言葉であることが分かるくらいになった。
考えることを止めようとぼんやりする頭と反対に、音だけは少しずつはっきりと聞こえてくるのだ。
「かごめかごめ」
かごの中の鳥はいついつ出やる。
この前自分の口でも歌った言葉が聞こえてくる。
ベッドに座っていた体が自然と動き出す。自分の意志ではないのに窓に近づこうとしていくのを、うまく考えがまとまらない頭と体を繋げて何とか足を止めた。
「夜明けの晩に」
窓の向こうに広がる空の色はきっと晩を迎える前の、夜明けとは正反対の色。
誰かが学校で話してた言葉をなぜか思い出した。
夕陽と影で誰だか分からなくなる、だから夕方はその昔“誰そ彼”の黄昏時と言われていたと。
明日も、明後日もこの夢が続いてしまえば。夢の中でこの歌を最後まで聞いてしまえば、私は窓の外にいる何かを見て言葉を交わしてしまう。
誰そ彼。
窓の外の何かに私の名前を聞かれてしまう。
◆ ◆ ◆
四.
カタシロ様に諦めてもらう方法を聞いた翌日。
私は学校についてすぐにさちちゃんへ声をかけた。先生が来るまでまだ少しだけ時間がある。人に聞かれないように二人で教室を出て、廊下の角。階段の踊り場で私はさちちゃんに尋ねた。
「さちちゃん教えて。河原で遊んだあの日、みんなでかごめかごめしたんだよね?」
「うん。したよ」
「夕方の四時頃?」
「うん。ちょうど腕時計見ていたから四時にやっていたのは覚えてるよ。そのくらいかな。私が真ん中にいた子に名前呼ばれたの」
「やっぱり…」
四時になってから最初にかごめかごめで名前を呼ばれたのがさちちゃんなのがこれではっきりした。 四時になって最初に名前を呼ばれたさちちゃんはカタシロ様に名前を知られてしまった。
足首、そしてだんだんと体の上に上がっている黒い手はカタシロ様がつけた目印で間違いなかった。
「私のおばあちゃんが昔からこの村にいるの、さちちゃんも知ってるよね?」
「お祭りとかで村の人から色々聞かれてたよね。うん、知ってるよ。優しい人だよね」
「おばあちゃんがね小さい頃。さちちゃんたちと同じようにかごめかごめを夕方四時くらいに遊んで、いなくなった人がいたんだ」
祖母の子ども時代の話を、覚えている限り詳しく話す。カタシロ様の話。カタシロ様が神様とされる前の話と、当時消えた女の子にも黒い手がついたことを話した時、さちちゃんの目が大きく開かれた。
白いさちちゃんの肌の色が青白くなった気すらした。
「いやだなぁ陽子ちゃん。怪談を話すにしてはまだ朝だよ」
「冗談じゃないよ」
今冗談と流されてしまうともうさちちゃんを助けることはできないと、私は勢いのまま後ろ手に持っていたお線香の箱を見せた。
「お線香?」
「まだカタシロ様が諦める方法があるって。昨日おばあちゃんから聞いたの。でももう先生来るから。時間がないから、冗談じゃないから聞いてほしい」
黒い手が喉まで移動してしまったらカタシロ様に連れていかれてしまうこと。
カタシロ様が諦めるために夜の間はお線香を焚くこと。
「さちちゃんのお家で焚けないなら、私の家に来て。おばあちゃんもそう言ってたしお父さんたちも分かってくれると思うから。だから…お願い…」
さちちゃんがいなくなるのが怖くて、話をしているうちに我慢できずに涙が出そうになる。
涙が出るほど真剣だったのを察してくれたさちちゃんが、私の手からお線香の箱を受け取った。
「心配してくれてありがとう」
さちちゃんが笑った。
「黒い点がついてから毎日ずっと変な夢を見るの」
疲れた顔をしていて日からずっと見ているという夢の話。
夢の中で聞こえるかごめかごめの歌。間違いなくカタシロ様はさちちゃんに成り代ろうとしている。
「今、黒い点どこにある?」
背中まである下されたままの髪をさちちゃんは手でまとめて背中を見せた。
首が見えるまで上げられた髪の下。黒い手の指先に当たるところが見えた。手全体は服で隠れているのだろう。それであっても、もう指先のような部分は首にかかっている。
私でも分かった。
この手は明日の朝にさちちゃんの喉元まで届いてしまう。祖母から聞いた話の通りならば届いてしまえばもう間に合わない。
時間切れを伝える朝のチャイムがキーンコーンカーンコーンと鳴る。教室に向かってくる先生の足音が聞こえた私たちは慌てて教室へと向かった。
その日の放課後。
「さちちゃん、何かあったら家に来て。私の家の場所知ってるよね?」
「うん。遊びに行ったことあるから知ってるよ。今日、お母さんたちにお線香焚けるか聞いてみるね。だめって言われたら、その時は陽子ちゃんのお家に行かせて」
「分かった」
それぞれの家に帰る通学路の分かれ道、さちちゃんの足が止まった。
「陽子ちゃん」
「なに?」
「色々と心配してくれてありがとう」
「こっちこそごめん。あの時声をかけてればさちちゃん…」
今更も今更な私の後悔にさちちゃんは首を横に振った。
「陽子ちゃん、あの時いなかったんだもん。河原でどんな遊びするかなんてわからなくて当たり前だよ」
「でも」
「誰も分からなかったから仕方ないよ。けど陽子ちゃんはおばあちゃんに聞いたりして心配してくれてるじゃない」
それが嬉しいとさちちゃんは言った。
「だからまた明日。学校で会おうね」
そう笑ったさちちゃんに手を振って別れる。
翌日。
さちちゃんは体調を崩したと学校を休んだ。
さらに翌日。
私たちクラスの人達はさちちゃんがいなくなったことを朝の会で先生から伝えられた。
◆ ◆ ◆
家について私はいつものように部屋へ戻り、宿題を済ませようとランドセルを開いた。
教科書。ノート。筆箱。そして、今日の朝に陽子ちゃんから受け取ったお線香の箱を取り出した。
明日も学校に行くんだ。だから両親が帰ってきたら無理を言ってでも、部屋の中でお線香をつけさせてもらおう。
家族の揃った晩ご飯の席で両親に切り出す。
「あのね。今日部屋でお線香をつけたいの」
何の脈絡もない私の話に両親は顔をしかめた。
「お線香?何で」
「お線香なんてお墓でつけるものじゃない」
そう言われるのは分かっていた。
「一週間前から変な夢を見る、って話をしたのお母さん覚えてる?」
「言ってたわね」
「足首に黒い点みたいなあざができたの、お父さんも見てるよね?」
「あの虫刺されな。薬塗ってから消えただろう」
お父さんの言葉に私は首を見せた。
「なんだそれ。何か変なことでもしたのか?」
「ちがうの。あの黒い点がここまで来たの」
「そんなことあるわけないじゃない」
「今目の前にあるじゃない!それに一週間前からずっと同じ夢を見るの。今日お線香つけなきゃ、カタシロ様に私…」
陽子ちゃんから聞いたカタシロ様の話を両親へ話す。村の中でも知恵袋のような人である陽子ちゃんのおばあちゃんから聞いた話であれば、今見せた黒い点も合わせて信じてくれるのではと願った。
「カタシロ様ってこの村の神様じゃないか。神様がそんなことするとか迷信だよ。陽子ちゃんのおばあさんは昔の人だから、まだそういう迷信を信じているし、陽子ちゃんも村の人だから信じているだけじゃないのか」
陽子ちゃんや、陽子ちゃんのおばあちゃんを小馬鹿にしたようにお父さんがビールを飲む。
お母さんも全く信じていないようで、話は終わりとばかりに空いたお皿を片付け始めた。
「じゃ、じゃあ今日だけ陽子ちゃんの所に泊まらせて!」
「何言ってるの。もうこんな時間なのよ。陽子ちゃんの所もご迷惑でしょ。また別の日にしなさい」
「陽子ちゃんは良いって、陽子ちゃんのお父さんたちも大丈夫だって」
「さち」
お父さんが音を立ててコップを置いた。
「今の時代に幽霊や妖怪とかいるわけないだろう。わがままを言うんじゃない」
「でも、神様は」
「お父さんは神様も信じてない」
だからこの話は終わりだと言い切られる。
お母さんから早くお風呂を済ませるように言われ、準備をして脱衣所へ向かった。
お風呂場と脱衣所で何とか合わせ鏡を作って、首の黒い点を見る。
気のせいか、朝見た時よりも喉のほうへ移動しているような気がした。
夢を見た。
今日がこの夢を見る最後の日だ。もう何も考えられないほどぼんやりとする頭だけど、それだけは分かった。
寝る前にもう一度お願いしたけどお線香をつけることは許されなかったのだから。
真っ赤な光が差し込む窓の向こうから音がする。かごめかごめを歌う声がする。
「かごめかごめ」
前は何とか止められた足を止める頭はもうない。
声を聴こうと窓へ足が向かうのを自分自身の体なのに止められない。
「かごの中の鳥はいついつ出やる」
今分かった。かごはこの部屋。鳥は。
「夜明けの晩に鶴と亀が滑った」
窓を開ける。赤い絵の具をそのまま紙に出したような濃い赤の空。
夜明けの空とは全くちがう。似ているとしたら陽が沈む間際の夕方の空。
「後ろの正面だぁれ」
何も考えられないまま声がする方向へ目を向ける。
窓の下。
黒い影。あの日見た、真っ黒い人の形をした影。人ではない。まして今は神様でもない。
影の口当たりが動いた。
「さち」「さち」「さち」
「ねえ。ねえ。ねえ。ねえ」「ねえ」「ねえ、ねえ」
「さちだよね」
応じてはいけない。ここはかご。かごから出て飛んで逃げられる鳥もいるけれど、私は。
「さち」
答えてはいけないのに、ぼんやりとする頭は声に反応して。
口に空気が入った。
「うん」
影が笑う。影の手が伸ばされる。
今までいた部屋は消えて、あの日遊んだ河原に景色が変わった。
「名前を当てたよ」「さちだって当てたよ」「さちを見つけたよ」「さちを捕まえたよ」「さちを出したよ」
「さちの名前を当てたから交代だね」
黒い影が私の目の前に立つ。
視界が黒一色に包まれる。
ぼんやりとする頭で最後に浮かんだのは両親ではなく、目に涙を溜めてダメだったら家に来てと言ってくれた優しい友人の顔だった。
◆ ◆ ◆
五.
さちちゃんがいなくなったと伝えられてから、村の大人たちで時間がある人たちで手分けしてあちらこちら探していた。
小さな村だからこその連携ですぐに見つかるだろう、とある大人は言っていた。
大人たちの考えとは裏腹に村の人たちがあちらこちら探しても、手掛かり一つ残さず消えたさちちゃんは全く見つからないままだった。
祖母が私から聞いたというのは伏せて、カタシロ様の話をさちちゃんの両親や大人たちにしたけれど、ほとんどの大人たちは信じてくれなかった。
信じてくれた僅かな大人たちは集団を作って山の中を探したが、それでもさちちゃんは見つからないまま。
私は何度も山の入り口まで足を運んだ。河原で。山の入り口で。何度もさちちゃんの名前を呼んだ。
祖母の話が正しければ、何度足を運んでも。何度名前を呼んでも、もう手遅れだと分かっていたけれど。子どもだったからこそ“もしも”が起こることを願っていたのだ。
さちちゃんと最後に会った日。あの日、無理やりにでも家に連れて帰ればよかったと何度目か分からない後悔を抱きながら、今日も山の入り口へ向かう。
「さちちゃーん」
夕方の赤い空の下、私の声だけが響いた。明日でさちちゃんがいなくなってから一週間が経つ。
いなくなった祖母の友人は一週間後に山の中から出てきたという。
きっと明日、さちちゃんはこの山の中から出てくるのだろう。でもそれは。
さちちゃんの見た目をしていても、さちちゃんではないのだ。
今日までならもしかしてと、こうして山の入り口まで足を運んで叫んでも誰も何も答えはない。
子どもの願いをカタシロ様はどう思っているのだろう。笑っているのかも、意にも介していないかも分からないまま、空が暗くなった。また陽が昇れば明日が来てしまう。
そうして迎えたさちちゃんがいなくなって一週間後の夕方のこと。大人たちがばたばたと慌ただしく山の方へ向かっていく。
学校が終わって家にいた私も大人たちに混じって山へ向かうと、さちちゃんのお母さんが何かを抱きしめていた。
「いたぞ!!」
誰かの声がした。
「山の中から見つかったんだと」
「あの時探しても鳥や猪以外いなかったのになぁ」
「どこか木の根元の洞にいたのかもしれない」
誰かが言った。
「まるで神隠しだったな」
大人たちの間からさちちゃんのお母さんが見えた。大人たちの隙間をすり抜けて、腕の中の何かが見える位置まで何とか移動する。
抱きしめられていたのはさちちゃんだった。
さちちゃんのお母さんの涙声が聞こえ、その言葉にさちちゃんが何度か頷きを返している。
姿や顔は確かにいなくなる前のさちちゃんと何も変わっていない。
けれども。
目が違う。さちちゃんは目の奥にあんな暗く何も分からないような黒を持っている子ではない。
お母さんの言葉に何かを返そうと開かれた口はあんなに歪んではいなかった。
祖母の言葉が浮かぶと同時に、私の小さな希望は消えてしまったことを知った。
あれはもう、前のさちちゃんではない。誰かが言った神隠し。カタシロ様がさちちゃんの身に成り代わった、身代わり。
目の前に見えるさちちゃんであって。さちちゃんではなく、名前と体を代わりに降りてきたカタシロ様だと。
さちちゃんの神隠し事件が起こってから一年後。
私の祖母が亡くなった。神隠しの後からさちちゃんと遊ばなくなった私を誰より理解してくれた祖母だった。最期まで私が悪いわけではないと、言ってくれた優しい祖母だった。
元々祖母と同居するために父は村にいたので、亡くなった後、私たち家族は村を離れることとなった。
村から引っ越す日。小学校のみんなが見送りに来てくれた。その中にはさちちゃんもいた。
神隠しから戻ってきたさちちゃんを、さちちゃんではないと疑う人は誰もいなかった。私以外誰も。
「陽子ちゃん」
車に乗ろうとする私にさちちゃんが声をかけた。
「またね」
本当のさちちゃんは決してしない、にたりとした顔でさちちゃんである何かは笑って続けた。
「もう会うことはないよ」
その言葉の意味が分かるのは私だけ。それほど遠くないうちに目の前のさちちゃんはまたいなくなるのだろう。
今度は一週間経っても一か月経っても、どれだけ経っても見つかることはないのだ。さちちゃんの名前も体も使い切って、カタシロ様は山に戻るのだ。
私は言葉一つ何も返すことなく車に乗り込み、そのまま車は動き出す。
村が少しずつ遠ざかる。あの時何度も見た山もだんだんと遠ざかっていく。
そうして街へ引っ越して、私が中学校へ上がった年のある日。
さちちゃんのお母さんから手紙が届いた。
村を去る日に予想していた通り、さちちゃんがいなくなったという内容だった。
以前仲が良かったから居場所を知らないか、と手紙には綴られていた。
カタシロ様は帰ったのだ。成り代わることに飽きたのか、代わることを止めたのか。理由は誰も知らない。
そして夕方四時、また誰かが河原でかごめかごめをする日まで神様のまま。
誰かが知らずに遊んだその時。
あの村の誰かが知らずに遊ぶ限り、あの村に遊びに来た誰かが知らずに遊んでしまう限り。
カタシロ様はまた誰かに代わるのだろう。
【了】