表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】婚約破棄された悪役令嬢、皇太子に拾われて契約夫婦になりましたが、愛さないと言ったわりに大切にされて困惑してます  作者: 一ノ宮ことね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/20

第7話「“恋愛フラグ”の崩壊」

「セレナ様が……? まさか、あのような――」


貴族たちの囁きが、廊下の奥から絶え間なく流れてくる。

皇宮の掲示板に貼られた匿名の告発状。


“皇太子妃セレナ・エルヴァインは、レオニス殿下と密会を重ねていた”


荒唐無稽な中傷。しかし“それっぽい”状況証拠とともに出されたその文書は、十分に人々の好奇心を刺激するものだった。


「噂は否定しきれませんわね。“事実無根”だと証明できない限りは」


そう言ったのは、アリシアだった。


淡い桃色のドレスに身を包み、にこりと微笑むその姿は、まさに“皇子の隣にいるべき”と世間が思い描く淑女そのもの。


「それにしてもお気の毒。

 婚約破棄されたあと、無理やり皇太子に拾われたのが……あだになりましたわね」


「……」


返す言葉はない。

なぜなら、彼女にかける言葉に価値はないから。


(アリシアの幼稚な策略にため息が出そう)


この女は“世間の共感”を味方にしようとしているのだろうが。


婚約破棄された女→なりふり構わず地位にしがみついた女→兄弟両方に取り入ろうとした女。


物語として見れば、セレナはまた“悪女”の役回りだ。


(でも、私が“反論”した瞬間、アリシアの思う壺になりかねない)


――だから。


「……アリシア様、少しだけ顔色が悪いようですわ」


「……え?」


「嫉妬、なさってるんですの?」


「なっ……そんな、わたくしはただ、事実を」


「でしたら、どうぞ“もっと事実”をお話しください。

 たとえば、皇子殿下と密会していたのは、本当はどちらなのか――など」


アリシアの瞳が揺れる。


「な、なにを……っ」


「わたくしの家には、証拠がありますの。密偵を使って、舞踏会の夜に“皇子殿下の部屋に入っていた人物”を魔術で撮らせております」


「嘘よ……そんなの、作り話よ……っ!」


「では、第三者に判断していただきましょうか? 皇宮に正式に調査を依頼しても――構いませんのよ?」


それは脅しではない。

静かな、**“選択肢の提示”**だった。


アリシアの顔から血の気が引く。


その時――


「そこまでにしておけ、セレナ」


冷たい声。背後からの足音。


振り返ると、ユリウスが立っていた。


「陛下……」


「君はやりすぎだ。正しいかどうかは関係ない。

 “勝ちすぎる者”は、味方さえ失う」


「……では、どうすれば?」


「黙って、私に背中を預ければいい」


そのままユリウスはアリシアに視線を移す。


「この件、皇宮として正式に“無根拠”と判断する。

 関与した者が明らかになれば、私の裁量で処断する」


アリシアの唇が震えた。


「……レオニス様は、あなたの“兄”でしょう……」


「家族だが、守る価値はない。……少なくとも、君と組んでセレナを貶めようとした時点でな」


アリシアはそのまま踵を返し、声もなく立ち去った。


セレナはユリウスに尋ねた。


「本当に、あなた様はわたくしを“守る”おつもりなのですか?」


「勘違いするな。“守った”わけではない。

 私が“不快だった”から排除しただけだ」


「では、わたくしが不快でも、同じように?」


「……いや」


間があった。


「君には不快を感じない」


「……それは、恋愛感情でしょうか?」


「恋愛などくだらない。

 だが――他の女には抱いたことのない衝動だ」


そう言って、ユリウスは扉の外へと向かった。


けれどその手前で、ふと立ち止まり、背を向けたまま囁いた。


「君が私を見限るのが、少しだけ怖い。それだけだ」


その夜。

セレナの中で、何かが静かに“崩れて”いった。


恋愛ではない。情でもない。


ただ、ひとつの契約関係が、“人間関係”に変わり始めた音が、確かに聞こえた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ