第93話 魔石研究をしている者です
村に入ってすぐ、マルクの名を呼びながら歩き回っていた女性が駆け寄ってくる。
「あ、おかあさん!」
「マルク! あなたまた村の外に行ってたの!?」
細い腕でマルクを抱きしめる母親はよほど心配していたのだろう、声が震えていた。
「くるしいよ、おかあさん。あのね、カレナたちがみんなをたすけてくれるかもって」
「カレナ、さん?」
母親の腕の中から顔を出したマルクが私たちを指した。マルクと同じ灰色の瞳が私を捉える。
疑いと警戒の色を濃くした眼差しをむけられてもこういう目は慣れている。母親なら子どもが村の外から来た人を連れてきたら警戒はするだろう。
当然の反応だ。それに加えて村の人たちを助けると聞いて真っ先に疑うのは詐欺とかの類。
だからまずは警戒を解くために素性を明かすとまではいかずとも、ある程度の説明は必要だ。
「はじめまして。私はカレナといいまして、魔石研究をしている者です。こちらは私の研究仲間と助手たちです」
「魔石研究、ですか?」
マルクを自分の背に隠した母親の視線はまだ鋭い。まあ、魔石研究者です! と言ったところで信じられる材料はないから怪しさは変わらない。
「ええ。自然に存在する魔石や魔鉱物を研究して一般的に使える魔道具を作ったり、ウェネーフィカたちの魔力暴走を鎮めたりとかが主な活動内容です」
魔力暴走を鎮めると聞いた途端、母親の目が大きく見開かれた。明らかな反応から村の人たちが魔力暴走を起こしたのだと判断する。
「魔力暴走を鎮めるって……、あの、少し話を聞いても? とりあえず家へ」
村の人たちからの視線が集まってきていたこともあり、母親が私たちを家まで案内した。
家の中は広くなく、扉を開けてすぐに大きなダイニングテーブルと木製の椅子が四つ。二階へと繋がる階段の反対側にこじんまりとしたキッチンがあった。
幼いころに地下都市キキーイルで暮らしていた家もこんな感じだったな。少し懐かしくて落ち着く。
「適当に腰かけてください。あ、椅子足りないですね。すみません」
「いえ、椅子はなくて結構です。慣れておりますので」
大勢で押しかけたのだから椅子が足りないのは当然だ。申し訳なさそうに頭を下げる母親にエリナーが首を左右に振った。
ロバートとコリンも同じように首を振り、私たちの後ろで待機する。私たちからすれば見慣れた光景でも、マルクたちから見れば異様に映るのかもしれない。
納得はしていないながらも母親が私とアリスに座るように促して向かいに自分も腰かけた。
「魔力暴走を鎮められるというのは本当なんですか? あ、私はルイスといいます」
「本当です。カレナは過去に魔力暴走を起こした人を救っています」
ルイスさんの問いにアリスが私より先に答えるけれど、ルイスさんはまだ疑いの目を向けている。
「具体的に魔力暴走はどう鎮めるんですか?」
「魔力暴走は魔力の滞りが原因で起こるので、透明な魔石に滞っている魔力を移します」
続けて聞いてくるルイスさんに私は鞄に入れていた透明な魔石を見せた。受け取ったルイスさんが透明な魔石を見つめ、目を丸くする。
そりゃあ、空の瓶のようなものだから透明な魔石自体にはなんの力もない。驚くのも無理はない。何か言いたげな顔をしたままルイスさんは私に透明な魔石を返した。
「ルイスさん、この村には魔力暴走を起こしている人がいるんですね?」
ルイスさんは少しためらった後静かに頷いた。
「今から二カ月ほど前、村の村長である大婆様が病で倒れてから魔力暴走を起こして倒れる人が増えて今では村の半数が魔力暴走状態で眠っています」




