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第88話 また来るからね

 原初の魔石獣の化石から出てすぐ、入り口を閉ざすように草木が覆った。


 それを見ながらやはり、アルマの許可なくここへは足を踏み入れることはできないんだな、と私は次第に見えなくなる魔石獣の化石を見つめながら思う。


 森の出口でアルマが足を止めた。


「アルマ?」


「僕はここまでだ。気を付けて帰るんだよ」


「うん。見送りありがとう」


 ズシリと重い鞄を肩にかけ直した私をアルマが見る。し、視線が痛い。あれ? もしかして魔石の持ち出し禁止とか? 


 いやいや、前から魔石は持って帰ってるし大丈夫でしょ。大丈夫、よ、ね?


「ずいぶんとたくさんの魔石を持って帰るんだね~」


「……ダメだった?」


 不安そうな顔をしていたのだろう。アルマが小さく笑って首を左右に振った。


「いいや。持ち帰る分には構わないよ。ただ、君がその魔石をどう使うのかに興味があるだけだよ」


「魔石の使い道?」


 師匠は伝えていないのかな。それとも、師匠じゃなくて私が使うことに興味があるって意味なのかな。アルマの視線が鞄の魔石に向いている。


 まぁ、別段知られても問題ないだろうし。話してもいいか。


「いつもは魔石、魔鉱物を加工して対魔石獣用の銃弾を作ったり、魔石を利用した魔道具を作ってるわ」


「いつもは?」


 う~ん。さすがアルマ。そこに引っかかるんだ。続きを促すようにアルマのアメジスト色の瞳が私を見る。


「そう。今回はね違う目的で採りに来たの。ウォード家のみんなにはたくさんお世話になってるから魔石のお守りでも作ろうと思って」


 自分で言ってて恥ずかしくなってきた。語尾が小さくなっていき、アルマに最後まで聞こえたのかは分からない。


 以前の学園リメリパテに在籍した頃は考えた事すらなかったことだ。アリスやアランと出会って私も変わったな。


 ほとんど自分のために魔石を扱っていたのに、今はウォード家のみんなの顔が先に浮かぶ。


 アリスは嬉しそうに受け取ってくれるのは容易に想像できるし、エリナーたちだって驚いた顔をしつつも大事そうにしてくれるんだと思うと自然と頬が緩んだ。


「お守りか、いいね。ふふっ」


 しみじみと言ったアルマは上機嫌に笑いだす。鼻歌でも歌いそうな勢いのアルマに私はくすぐったくなる。深い意味はない。ないはず!


「笑うところあった?」


「ううん。君の成長が嬉しかっただけだよ。そっか、婚約は君にとっていい影響を与えていたんだね」


「こっ!?」


 アルマの口から飛び出した単語に私は動揺した。思いの外大きな声を出していたみたいで、足元にいたヘイエイの身体がびくりと跳ねた。


 ヘイエイに両手を合わせて謝りつつ、アルマを勢いよく見る。動揺が隠しきれてない私にアルマが笑っている。


「アラン・ウォードと婚約したんだろう?」


「なん、なんで。あ! 師匠!」


 深緑色の瞳のつり目が得意げな顔をしている姿を想像して額を押さえた。なるほど、師匠経由でアルマにも筒抜けということか。


 サリーから師匠、アルマに私の動向は伝わっている。今度サリーと師匠に会ったら釘を刺しておこう。私はひっそりと決意した。


「アランやウォード家の人たちと良好な関係を築いているようで僕は嬉しいよ。いつか君たちの子どもが見られるのかな?」


「は!? さ、先は長いと思うけど? そもそも私たちまだデートもこれからだ、し……あ」


 動揺のあまり言わなくていいことまで口走ってしまった。慌てて口を閉ざしてみたけれど、アルマはニヤケ顔を向けてくる。その表情やめて。


 頬が熱いんですけど!? 片手で仰いでいる私の前でアルマが肩を揺らした。笑いを堪えているのがバレバレなんですけど。


「んふふ、そっかぁ。デートはこれからなんだね。それじゃあ、早く帰らなきゃだ」


「いや、明日じゃないんですけど」


「ということは、近々デートの予定があるんだ」


 しまった! これ以上話していると墓穴を掘りかねない。アルマは変わらずニヤニヤしている。


 ウソをついたところで見抜かれそうだし、ここは素直に答える方が得策かな。


「そうだよ! 今週にはアランと王都でデートする約束があるの!」


 これでどうだ! やけくそ気味に言った私は肩で息をしながらアルマの反応を見た。アルマは私の勢いに呑まれたのか、目をしばたたかせている。


 少ししてアルマがふわり、と微笑んだ。


「そうか。なら、気を付けて行くんだよ」


 アルマがそう言って私の背中を優しく押す。森から出た私が振り向くと、アルマが微笑んだまま手を振っていた。


「今日は楽しかったよカレナ。また遊びにおいで。今度はアランと一緒にね」


「なっ!」


 顔を真っ赤にして言い返す前にアルマは姿を消した。来た時と同じ風が葉を揺らす音だけ。私は風で頬に触れる髪を耳にかけて森を見据えた。


「アルマ、また来るからね」


 聞こえているかは分からないけれど、私はそれだけ伝えて馬に跨った。

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