第9話 アリスの涙
「アリス、貴女の魔石は素晴らしい! 見て、この綺麗なレモンイエロー色の魔石を。透明度も高くて高濃度、高純度の魔力はそうそうお目にかかれない。しかも、光属性ときたら言うことなし! もう、最高!」
私はアリスの手を片手で握ったままもう片方の手で魔石をかざして熱く語った。
呆れているようなドン引きしているような学友の視線を浴びても気にしない。
それだけこの魔石には価値がある。ニヤケ顔を抑えられずにいた私の手に温かな雫が落ちた。
それはいくつも落ちては手を滑り落ちていく。
「アリス? どうしたの!? カレナの魔石語りが気持ち悪かった?」
「ちょっ、失礼じゃない!?」
泣き出したアリスにサリーが私を押しのけて寄り添う。
ついでに軽く悪口を言ってくる学友にツッコミを入れつつ、初対面の相手に熱く語りすぎたのかもしれないと少し反省しながらハンカチをアリスへと差し出した。
「あんたハンカチとか持ち歩くタイプだったの?」
「さっきから失礼すぎでしょ! 私だってレディの端くれ。ハンカチだって持ってるよ!」
ハンカチを受け取って涙を拭っていたアリスが私たちのやり取りがツボだったのか、笑い出した。
「あ、笑った」
「うん。美少女は笑った顔も可愛いよね」
「発言がおっさん臭いんだけど」
「そんなことはないでしょ。事実を言っただけだって。サリーだって可愛いって思ってるんでしょ。いい子ちゃんぶらないで正直になりなさい」
「ふ、ふふっ。お二人とも仲が良いんですね。羨ましいです」
涙が止まったようでアリスが割って入った。
まだ目元には涙が溜まっているみたいだけれど、泣き止んでくれて安堵する。
「突然泣いてしまってごめんなさい」
うつむいた彼女に泣いた理由を聞いてもいいものかと私たちは顔を見合わせた。
サリーが首をアリスの方に向けてあんたが聞きなさいよと無言の圧をかけてくる。
私は気が乗らないまま言葉を選ぼうと天井を見た。私が言葉を発する前にアリスが口を開く。
「私、嬉しかったんです」
再びサリーと顔を見合わせた。喜ばれるような発言をした記憶がない。
助けてもらったことを言っているのだろうか。
私が首を傾けているとアリスが私を見上げて涙の滲む瞳を笑顔へと変えた。
「カレナさんが私の魔力を褒めてくれたから。私の家はロズイドルフ領を治めるウォード家。侯爵の爵位を与えられています。兄であるアランがとても優秀で私はいつもお兄様と比較されてきました。皆の向ける期待が大きくなるにつれて何も出来ない自分に自信が持てなくなっていつしか魔力を抑えるようになりました」
「その結果が今回の魔力暴走ってことね」
アリスは頷いた。