第84話 カレナの出自
は? 待って待って待って! 私がアンスロポスの赤子に神様が力を与えた存在?
そりゃあ、ウェネーフィカたちからはアンスロポスと言われてきたから自分の事はアンスロポスと思って生きてきたんだけど、この話の流れだとプロトポロス寄りだと思うじゃない?
「私はアンスロポスなの!?」
「そうだよ」
そうだよ、じゃないんですけど? 神様はあっさりと肯定して再びヘイエイの背を撫でる。
「というか、アンスロポスの赤ちゃんがテリブの森に捨てられているっていうのも変じゃない? アンスロポスの人たちってこの森に近づかないじゃない」
「……あの日はね、自我を失った魔石獣がアンスロポスの地を襲ったんだ」
十九年前、生命活動を終える寸前だった魔石獣は自我を失いテリブの森から出るとアンスロポスの地へ向かった。
当然彼らは迎撃する。数名のアンスロポスと土地の犠牲を払って魔石獣は生命活動を終えた。
その際、魔石獣から逃れるために一人の女性が生まれたばかりの赤子を抱きかかえて逃げ込んできたのがテリブの森だった。
大怪我を負っていた女性は必死で逃げてきたせいで自分が魔石獣たちの住むテリブの森に迷い込んだとは思っていなかったようで、侵入者だと認識して様子を見に行った師匠に女性は息を引き取る前に赤子を預けた。その赤子が私だった。
「……私の本当のお母さんはもう死んでるんだね」
「うん。でもね、ルーシーは君を本当の娘のように育てようと頑張っていたよ」
ちょっと、いや、かなり厳しくでも、母と慕う私の手を離さなかった師匠の顔が浮かんで私は小さく頷いた。目を伏せれば今でもちゃんと焼き付いている。
この森で「おかあさん」と呼んだ私に短く返事をする師匠は目元を和らげて優しく微笑んでいた。
握っていた手にギュッと力を込めると、目を丸くして握り返した師匠が私を抱き上げてくれたことを思い出して私はゆっくり瞼を持ち上げた。
「うん、知ってる。師匠は私にとってのお母さんだから。って、それよりも! アンスロポスの私に神様はなにをしたのか気になるんですけど?」
切り替えて神様を見据えた私に相手は目を丸くして笑い声を上げた。今、笑うとこあった?
「あははは! ほんと、君はルーシーに似たなぁ。その切り替えの早さはルーシー譲りだよ」
「それはどうも。母の教育がいいもので」
私の返しに神様は満足したのか、ひとしきり笑ったあと目尻に溜まった涙を人差し指で拭って再び話し始めた。
「ルーシーが連れてきた君を一目見た時に僕は驚いたよ。体内の構造はアンスロポスなのに、生まれてすぐにこの森に来た影響なのか、君はルーシーのように魔力を通しやすい身体だったんだ」
「魔力を通しやすい?」
疑問符を浮かべる私に神様は頷いた。
私が何気なくよく行うアフェレーシスは透明な魔石に直接魔力を流し込むのではなく、透明な魔石に触れている間吸い上げたウェネーフィカの魔力が私や師匠の身体を瞬時に巡り、魔石に収まるらしい。
知らなかった。直接透明な魔石に吸い込まれているのだとばかり思っていたから。
あ、だから、レウニールのような直接魔力の吸い上げが出来るのか。
いや、レウニールは頻繁にしないんだけど! アランとのことを思い出して頬に熱が集中する。
「そう。って、顔赤いけど大丈夫?」
指摘されて私は頬に手を添えた。うわっ、熱い。
「だ、大丈夫です。続けてください」
これ以上アランのことを思い出さないように私は続きを促した。




