第81話 ウェネーフィカ
神様が創ったのはウェネーフィカとアンスロポスの二種類だけだった。
古代の魔石獣たちが生み出した魔石からこぼれる魔力を吸収する魔石獣と似てウェネーフィカは生まれる前に体内に大気の魔力を宿す。
それは親からの遺伝ではなく、完全にランダムらしい。アランやアリスのように珍しい魔力を宿すのも親の能力、魔力はまったく関係ない。
魔石獣が魔石や大気中の魔力を吸収するのなら、ウェネーフィカは最初から一定の魔力を宿している。
けれど、消費しても底をつくことはなく、むしろ消費しなければ魔力暴走を起こす。
なぜ、魔力暴走なんてものがあるのだろうか。私は疑問を自称神様に投げた。
「ウェネーフィカには魔力暴走があるんだけど、それも神様が創った仕様なの?」
私の問いに神様が両手を組んで伸びをしたあと、近くの赤い柘榴のような魔石の欠片を拾って眉を下げた。
「仕様、か。君たちは魔力暴走って呼んでいるんだね。う~ん、本当は魔力暴走なんて起こさせたくないんだけどね」
「じゃあ神様の仕様じゃないんだ」
腕を組んで唸り声を上げる自称神様は眉を寄せて難しい顔をしながら天井を仰いだ。
「魔力をほとんど使わなかったウェネーフィカは体内に魔力が滞って廃人になるか、自滅するんだけど、なんで?」
「ウェネーフィカの身体は人間ではあるけれど、体内構造いや違うな。魔力構造は魔石獣と似ているんだ。魔石獣が生命活動を終える時にどうなるか君は知っているだろう?」
私は頷いた。長い年月をかけて体内に魔力をため込んだ魔石獣が生命活動を終える時は自我を失って暴れてしまう。
暴走状態になった魔石獣はアンスロポスたちの手によって倒されて生命を終える。
自我を失って、暴走状態になる? 私は神様を見た。アメジスト色の瞳が柔らかく細められる。
「ウェネーフィカと同じだ。でも、ウェネーフィカの体内には魔石なんてないんだけど」
「なんでちょっと残念そうなの、君」
いけない、いけない。魔石の事になると素直、じゃなくて思考が暴走しがちになるのは抑えないと。
私は表情を引き締めた。けれど、自称神様は人差し指を口元に添えて肩を震わせている。中性的な整った顔立ちの人が笑うだけで目を奪われる。
なるほど、これが神様か。
「ウェネーフィカの体内に魔石が生成させない代わりに君には魔力の滞りが見えているだろう。どう見えているのかな?」
「どうって。体内の魔力回路? みたいなところに小さな瘤のような、小石みたいな塊が見えるくらい?」
興味深そうに聞いていた自称神様が身体を前に傾けた。組んだ足の上に肘を乗せて手に顎を乗せている。
「そう。その瘤のようなものが魔石獣でいうところの魔石の欠片だよ。ただ、人の身では魔石を創れるほどの量がないから生成はされないんだ」
魔石が出来るまでに長い年月を費やすため、人の寿命では魔石にすらならない。けれど、魔力の塊が体内にできるところは変わらず、末路もほとんど変わらない。
魔力暴走を起こして死んだウェネーフィカを思い出して私の顔に影が差す。
「……ウェネーフィカの魔力暴走を鎮められるのは限られた人たちだね。ウェネーフィカが魔石獣と同じ末路を辿ること知って僕はもう一種類の人間を創ることにしたんだ」




