第77話 洞窟と成り立ち
森の中は昼間なのに薄暗く、風が吹き抜けて心地が良い。前を歩くヘイエイが何度か立ち止まっては振り返る。
私はヘイエイに小さく笑って前を向いた。意識を集中させて魔力の流れを視れば、線を描くように魔力が流れていく。
その先には昔から師匠と行っていた洞窟がある。私はそこへ向かった。
「私が来たぞ! なーんてね」
歩くこと数十分。大口を開ける洞窟の入口へたどり着く。あまり人が来ない洞窟は前回来たままと変わらない。私は洞窟の入り口に手を付いた。
ここはただの洞窟ではない。成り立ちが異なっている。地殻変動、火山活動からできるのが普通の洞窟なら、ここは巨大な魔石獣が生命を終えたあとに出来たものだ。
死期が近づいた魔石獣は自我を失って見境なく暴れる。大昔はテリブの森で自我を失った魔石獣と遭遇することは珍しくなかったらしい。
倒された魔石獣は長い年月をかけて白骨化し、周囲は放出された魔力で覆われていく。魔力の塊が壁を形成して洞窟のようになっていった。
白骨化と同時に体内にため込んだ魔力が少しずつ鉱物化していき、魔鉱物となる。魔鉱物は生息している動物たちによって運ばれることもあれが、多くは洞窟と化したここに留まり続ける。
魔石獣の幼体がどこからか生まれて、餌として魔鉱物から魔力を少しずつ吸収して長い年月をかけて成長していく。
そうやって循環しているのだと師匠が教えてくれた。
「魔石獣の幼体がどこで生まれるのかは未だに謎なんだっけ。ヘイエイ、きみはどこで生まれたの?」
洞窟を進みながらヘイエイに尋ねてみても、ヘイエイは上機嫌に鳴くだけだ。私は光属性の魔鉱物で作られたライトで周囲を照らしながら進んだ。
「着いた」
洞窟の中を進むこと数分。私の視界にはたくさんの魔鉱物が映る。ここは魔石獣の心臓のあった場所で魔力が一番多く溜まっているからこそ魔鉱物も多い。
鮮やかなオレンジ色、深みのあるブルー、乳白色がかったピンク色の魔鉱物は半透明で、触ると表面はつるりとしている。
私はしゃがんでオレンジ色の魔鉱物を手に取った。表面から見える魔力の揺らぎがろうそくの火のように見える。
それを鞄に入れていく。ため込んだ魔力の違いで出来上がる魔鉱物の色も性質も変化する。私は夢中で石を吟味して採取していく。
水、火、草、氷、光、風さまざまな魔鉱物が手に入った。
「ふぅ~。こんなものかな。あとは」
私は額の汗を腕で拭いながら周囲を見渡した。目当てのものは魔石獣の幼体が吸収したあとの透明な石。
純度の高いものほどアフェレーシスをした時に魔力が良くなじむ。私が探しているのを察したヘイエイがクンクンと鼻をひくつかせて急に駆け出した。
「ヘイエイ?」
私はヘイエイの後を追う。心臓部から移動して腹部あたりでヘイエイが止まる。座ったヘイエイが尻尾を左右に振って一鳴きした。
立ち止まった私はヘイエイの周囲に透明な石がいくつも落ちていることに気付いて身を屈めた。
「教えてくれたんだ。ありがとう」
礼を言いながらヘイエイの頭と顎を撫でれば、心地よさそうに目を細めて受け入れる。私はヘイエイを撫でまわしたあと、透明な石をいくつか回収した。
来た時には軽かった鞄が魔鉱物と透明な石が詰め込まれて重くなっている。いい重みだ。私は頬を緩ませて鞄の肩ひもをかけ直した。
「よし、ヘイエイ。そろそろ帰ろうか」
寝そべっていたヘイエイが耳をピンと立てると起き上がって歩き出した。




