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第76話 いざ、テリブの森へ

 少ししてキッチンから戻ったエリナーが手にした包みを渡してくる。受け取った私は布にくるまれた包みとエリナーを交互に見た。


「エリナー、これは?」


「今からテリブの森へ行くのでしょう。簡単ですが、軽食を用意しました。昼食にでもお食べください」


 私の問いに表情一つ変えずにエリナーは淡々とした口調で言う。


 急だ、と言いながらもキッチンで軽食を用意してくれる友人に私は「ありがとうエリナー」とお礼を言った。


「侍女としては当然のことです」


「侍女? 友達じゃなくて?」


 いたずらっぽく言うと、無表情だったエリナーの片眉がぴくりと上がった。ねたような顔になったエリナーが顔をそらす。


「今は仕事中ですので。お気をつけて」


「うん。行ってきます!」


「あ。明日、アラン様とのデート用の服や小物の用意をするそうなので早めの帰宅を」


 出発しようとした私は足を止めてエリナーを見た。


 そういえばアランとのデートと聞いて心躍らせていたアリスたちが用意をしたがっていたなと思い出して私は頬を引きつらせた。


 いったいどんな服を用意するつもりなのだろうか。想像して私は視線をそらした。


「あー、うん。分かった。魔鉱物だけ採取したら帰ってくるから」


「いってらっしゃいませ」


 玄関まで見送りについてきたエリナーに見送られた私は馬にまたがった。追いかけてきたヘイエイが後ろ脚に力を入れて私の懐に飛び込んでくる。


「うぉ! ヘイエイどうしたの? 一緒に行く?」


 くらの上に乗ったヘイエイに問うと、元気よく鳴いた。エリナーに手を振って馬を走らせる中、ヘイエイは器用に鞍に座ったまま前を見ている。


 出発して休憩することなく馬を走らせていると、視線の先に森が見えてきた。テリブの森だ。ヘイエイの耳がピンと立ち尻尾を左右に振りだした。


 やはりテリブの森はヘイエイの故郷だからだろうか、嬉しそうに見える。


「故郷に帰れて嬉しい?」


 ヘイエイが私の方を向いて肯定するように小さく鳴いた。


 人間に人工魔石を埋め込まれたヘイエイは少しずつ本来の魔石獣としての本能を取り戻しつつはあるけれど、たぶん野生には戻れない。


 人工魔石を埋め込まれていた後遺症は残るのだと師匠が言っていたことを思い出す。


 成長しなければどうなるかは分からないけれど、順当には成長しないのだろうというのが師匠たちの見立てだった。


 それでもヘイエイの様子を見ていると、連れてきたことは正解だったのかもしれないと思う。


 上機嫌に尻尾を振っているヘイエイに視線を落とした私は小さく笑ってテリブの森を見据えた。


 森の入り口に馬を止めるとヘイエイが鞍から飛び降りる。馬を一撫でした私は先を歩くヘイエイの後を追って森の入口に立った。


 あまり人が立ち入らないテリブの森は草木が生い茂っていて、私の腰辺りまで草が生えている。


 草までも魔力が宿っている不思議な森は入り口から外の動植物には影響がない。まるで森の入り口を境に見えない結界が張られているかのようだ。


 私は入り口で大きく息を吸った。


 眼鏡越しに魔力の流れが見えて私は口角を上げる。


「さて、行きますか!」


 ヘイエイと一緒に私はテリブの森へ足を踏み入れた。


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