第75話 魔石獣について
帰って来てからやることは変わらない。王都に行くまでにはまだ期間がある。私は朝食後、工房へ足取り軽く向かった。
サリーは昨晩の内に師匠たちのいる王宮研究所へと向かったらしい。私はテーブルに以前作った人工魔石を置いた。
一緒についてきたヘイエイが椅子に飛び乗って興味深そうに鼻をひくつかせている。
「この魔石はダメだよ」
注意すると、耳を垂れ下げて首を下げるヘイエイの頭を撫でながら私は近くにあったテリブの森で採取していた魔鉱物の欠片を手に取った。
クンクンと匂いを嗅いで欠片を舌で舐めたヘイエイは耳をピンと立てて私の手に乗る魔鉱物の欠片に顔を近づけた途端、魔鉱物の欠片が透明な石へと変わった。
「ああ、そっか。魔力だけを吸収するんだったね」
魔石獣は元来自然界に存在し、魔石や魔鉱物に含まれる魔力を少しずつ吸収して長年をかけて成長する生き物だ。
それは幼体でも変わらない。テリブの森で時折、透明な石が見つかるのは魔石獣が通り過ぎた後だからだ。
魔石獣たちは取り込んだ魔力から自分の身体に適合する魔力を体内で練り上げていく。
彼らが私たち人間と敵対する時は、己の死期が迫った時でそれは遥か昔から変わらない。自死が出来ない魔石獣は死期が近づくと自我を失い暴れる。
暴れる魔石獣から自分たちの土地を守るために戦う術を身につけたのが人間だった。
ウェネーフィカもアンスロポスも関係なく襲われるため、魔石獣の襲撃に備えて戦えるようになった。
魔石獣を倒した後に人々は魔石獣の体内から得られる高濃度の魔石を生活に有効利用してきた。満足そうに尻尾を振っているヘイエイを見て私は目元を緩めた。
「美味しかった?」
私の問いに応えるようにヘイエイは一鳴きすると、椅子の上で丸くなる。幼体であるが故か、魔力はごく少量で満腹になるらしい。
大きく口を開けてあくびをしたヘイエイが畳んだ前脚に顎を乗せた。完全に寝る体制に入ったヘイエイを一度撫でた私は棚へ向かい、棚から弾の入った箱を取り出した。
私もテリブの森に入ると、大きさ関係なく魔石獣と遭遇することがあり、自我を失い襲ってくる魔石獣と交戦することもまれにあった。
だから、ヘイエイのように人工魔石を埋め込まれ無理やり自我を失わせるやり方は許せない。
この前の戦闘でだいぶ弾を消費してしまったからアランとのデートの前に補充しておく必要がある。
「えっと、手に入ったのは風、水、氷と防御に特化したカヤ様の魔石か。まずは人工魔石で数を増やすことが先決だよね」
私はそれぞれの魔石を砕いて種結晶作りから始めた。種結晶が出来るまでは時間がかかるからその間に何をしようか考える。
久しぶりにテリブの森で魔鉱物の採取でもしてくるか。
「たしかテリブの森までは馬で一時間弱くらいだっけ」
考えている時間がもったいないと判断した私はヘイエイを連れて荷物を取りに部屋へ戻った。鞄には空の壜を数本と弾丸の入った箱。
スカートをたくし上げた先、太ももに銃を忍ばせ、腰には短剣ホルダーを装着して短剣を装備する。
今は銃弾の数が少ないから出来れば魔石獣との戦闘は避けたい。
今回採取する魔鉱物は魔石獣が生息する奥地ではなく、入り口付近だから遭遇する可能性は低いと思うけど。
「おっ、ヘイエイも一緒に行く?」
起きたヘイエイが伸びをしながら得意げな顔でベッドの上に置いてある鞄を前脚で何度も叩いている。
自分も一緒に行きます! と言っているような顔に私は笑いながらヘイエイを抱き上げた。
「エリナー、ちょっとテリブの森まで行ってくるね」
廊下でばったり出会ったエリナーに私は軽い口調で告げる。
「……急ですね」
突発的な行動にさすがのエリナーも目を丸くして少し考えた後、少し待つように言うとキッチンへと向かった。




