第71話 アリスとのお茶会
ソファーに座りながらエリナーとの過去を思い出していると準備が終わったのかエリナーとルイーズが満足そうにテーブルに並べられているティーカップとお菓子を見て頷いている。
「終わった?」
私の問いかけにルイーズとエリナーが振り向いた。
「はい」
「これでアリス様がいらっしゃればお茶会が始められますよ~」
緩く話すルイーズが両手を合わせて微笑んだ。薄桃色のふわふわ髪と相まって周りに花でも飛んでいるように見える。
「準備いつもありがとう。みんなの淹れる紅茶もお菓子も美味しいからついつい食べ過ぎちゃうんだよね」
「そこは自制してください」
「もうエリナーはそんな冷たいこと言って~。褒められて嬉しいって顔に書いてあるよ~」
無表情できっぱり言い放つエリナーの頬をルイーズが人差し指で突いた。
指摘されたからなのか、頬を突かれたからなのかエリナーが眉を寄せて険しい顔を向けたタイミングで扉が開いた。
「カレナはいる?」
開いた扉から顔を覗かせるのはアリス。兄と同じホワイトブロンドの髪がさらりと肩から流れる。
「おりますよ~」
ルイーズの返答にアリスの顔が一気に明るくなった。けれど、すぐに不満そうに頬を膨らませる。
「もう! カレナったら先に行くなんて。せっかく部屋まで迎えに行ったのに!」
「え? ごめん。久しぶりのアリスとのお茶だからテンション上がっちゃって先に来ちゃった」
婚約パーティー以降何かと忙しかった私はアリスとお茶をしながらゆっくり話す時間がなかった。
だからなのか、夕食後にアリスからお茶に誘われた時は嬉しくて先に談話室に行くくらいにはテンションが上がっていたのかもしれない。
「そ、それなら仕方ないわよね。私も少し早めにカレナの部屋に行ったのだし。サリーも誘ったのだけれど、用事があるって断られてしまったわ」
眉を下げてアリスが肩を落としている。サリーはたぶん昼間の薬に関して研究機関に連絡を取っているのだろう。
もしかしたら明日にでも一時的に王宮に帰るのかもしれない。
「アリス様、カレナ様。せっかくのお茶が冷めますのでそろそろ始めませんか?」
エリナーに促されて私たちは向かい合わせにソファーへと腰かけた。
真っ白の陶器に花柄があしらわれているティーカップにエリナーとルイーズがそれぞれ紅茶を注ぐ。湯気と共に紅茶の香りが漂ってくる。
先にカップに手を伸ばしたアリスが一口飲んでホッと息をついた。
「はぁ。美味しい」
続いて私もカップに口を付けて紅茶を飲む。のどを潤す丁度良い温度と甘さの紅茶にアリスと同じく頬が緩んだ。
私たちの反応を見ていたエリナーとルイーズが互いに目配せをして小さく笑った。
「さて。カレナ」
ソーサーにカップを置いたアリスが私を見据える。ヘーゼル色の瞳に見つめられて私はクッキーに伸ばしかけていた手を引いた。
「なに?」
「お兄様との進展はどうなの?」
「んん!?」
紅茶を飲んでいなくてよかった。間違いなく咽ていたか、吹き出していたところだ。
「きゅ、急に何を言い出すのアリス!」
「急ではないわ。カレナとお兄様ったら王宮から帰っても全然イチャイチャしないんだもの! ねえ、エリナー、ルイーズ」
そっちに話を振るの!? 話を振られた二人を私は勢いよく見た。
「そうですね~。見ている限り以前と変わりないかと~」
「はい。進展のしの字もありません」
「ちょ、二人とも!?」
控えていたルイーズがふわりと笑う隣でエリナーは表情を変えないままはっきりと言う。裏切り者め! 少しは私の味方をしてくれてもいいじゃん!
味方を二人付けているアリスが得意げな顔で身を乗り出す。
「二人きりで騎士団本部に行ったと思ったら一泊するっていうからてっきり進展があるのかと思ったのに」
残念そうに眉を下げたアリスが座り直してクッキーを一つ摘まんだ。
「一泊と言っても模擬戦してきただけだしあとは何も……あ」
「え、なになに?」
クッキーを口に含んだアリスが興味津々にヘーゼル色の瞳を輝かせた。




