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第70話 エリナーと仲良くなった日

「そっか。こんなに美味しいクッキー食べたの初めてかも」


 手にしていたクッキーを口に入れながら言うと、エリナーが息を呑んだ。すぐに咳払いをして無表情を取りつくろう。


「そうですか。ありきたりなクッキーですが、お気に召していただけて光栄です」


「甘すぎず、固すぎず。ちょうどいいから私は好きよ。エリナーは仕事もできてお菓子作りも上手いんだね」


「……褒めてもなにも出ないですよ」


 すねたような声で言うエリナーに私は目を丸くした。彼女が感情を表に出すのを初めて見た。これは、いける! エリナーと心の距離を縮めるチャンスだ! 


 そう思った私は身を乗り出してエリナーを見つめた。碧眼が私を見つめ返してくる。


「な、なんですか?」


「ん? エリナーと仲良くなりたいなと思っただけだよ」


「私とですか? 私はここの使用人であなたはアラン様の婚約者。身分が違います」


「そんなこと言わないでよ。私だってアラン様の婚約者の前に元は一般人だよ」


 壁を作るエリナーに私は諦めずに話題を探す。けれど、癖とは恐ろしいものでつい私は眼鏡越しにエリナーに流れる魔力を視た。


 黄色味のあるオレンジ色の魔力が流れている。これは重力系か、炎寄りの力か。


「あの、カレナ様?」


 しまった。凝視しすぎた! いぶかしんでいるような瞳に私は渇いた笑いを出した。


「あ、ははは。ごめん、つい魔力の流れを視ちゃった」


「魔力ですか?」


「そう。エリナーの魔力は黄色味のあるオレンジ色で綺麗だなって」


 普通は魔力が視えている話をすると引かれることが多い。けれど、アリスと同様にエリナーは目を丸くしたあとに小さく笑った。


「そう、ですか。やはりあなたはルーシー様の娘様なのですね」


「うん? なんで師匠の名前が出るの?」


 私の問いにエリナーが話し始めた。エリナーは幼い頃に親に売られ、隙を見て逃げ出したエリナーはウォード家に引き取られた。


 売られた原因はエリナーの魔力。重力を操る魔力は珍しいため高値で取引されるそうだ。


 せっかく居場所を得たエリナーは居場所を守るために魔力のことを隠して過ごしていたが、魔力を抑えていたために魔力暴走を起こしてしまった。


 死を待つばかりのエリナーはたまたまウォード家に来ていた師匠によって助けられた。


「あんたの魔力は黄色味のあるオレンジ色なんだね。うん、綺麗だ」


 治療が終わったエリナーの頭を撫でながら言った師匠の言葉はエリナーにとっては大切な言葉になったらしい。


 それをたまたま私が口にしたので驚いたのと同時、親子なんだと実感したと無表情を崩したエリナーが言った。


「あ! それ! その表情!」


「な、なんですか?」


「ちょっと、戻さないでよ。今のエリナーの笑顔! すっごく可愛かった!」


 無表情に戻ったエリナーに私は詰め寄る。どうしたらいいのか分からないエリナーが困惑気味に私を見た。


「自分では良くわからないですが」


「エリナーの無表情は綺麗だけど、笑った顔は年相応で可愛いからもっと見せてほしい」


「……」


 無言になったエリナーは照れているのか、私から視線を外した。


「魔力の話をしても引かない人は珍しいからさ。私と友達になってほしい! ダメ?」


 アリスやサリーのように魔力を視てしまう私を怪訝けげんそうな目で見ない人は貴重だ。


 それにエリナーは私とほぼ同年齢だから純粋に友達になりたいと思った。ジッとエリナーを見つめる私をチラッと見たエリナーは諦めたように息をつく。


「……努力します」


 エリナーの返事に両手を挙げて喜んだ私の背後で帰ってきたアリスが「なんの話をしているの?」と会話に混ざってきてエリナーと友達になったと言ったら自分のことのように喜んでいた。


 それから何度か話をするようになって仕事以外ではフランクに話す仲になったんだった。


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