第69話 お茶の準備
夕食後、アリスにお茶へ誘われた私は談話室に向かった。部屋にはすでにエリナーとルイーズがいてテーブルにティーカップをセットしているところだった。
気付いたエリナーとルイーズが私を見る。薄桃色の腰まであるゆるふわ髪のルイーズがにこりと笑みを向けてきた。
「カレナ様早いですね~。ただいま準備中なのでもう少しお待ちいただければ~」
見た目通りのルイーズは話し方までもゆるい。真面目なエリナーとは対照的ではあるけれど、二人は気が合うのか共に行動していることが多い。
「もう少し時間を置いてから来た方がいい?」
「いえ。もう終わりますのでここでお待ちいただいて結構です」
出て行こうとする私にエリナーが首を左右に振る。
「そうそう~。あ、これカレナ様が帰ってくるからってめずらしくエリナーが気合を入れて作ったクッキーなんですよ~」
目の前に来たルイーズがふわりと笑ってクッキーを一掴みしながら私の口元に寄せた。
「は!? ちょっとルイーズ! 勝手なこと言わないで」
反射的にルイーズから差し出されたクッキーを食べた私と満足そうに笑うルイーズをエリナーがにらみつける。
エリナーの視線をまったく気にしていないルイーズはもう一個クッキーを取ろうとしてエリナーに手を軽く叩かれた。
涙目でエリナーを見るルイーズにエリナーが両腰に手を当てながら青筋を立てている。
「ルイーズ? 準備」
「は~い。カレナ様、クッキー美味しかったですか?」
「う、うん。エリナーが作ったクッキーは相変わらず美味しいよ」
「だって、良かったねエリナー」
ルイーズの問いに素直な感想を口にすると、目元を緩ませる。顔の周りに花が飛んでいるようなルイーズは背を向けて準備に戻った。
鼻歌でも歌い出しそうなルイーズを横目で見ていたエリナーがそっと息をつく。
「まったくルイーズは。……カレナ様はこちらに座っておくつろぎください」
エリナーに促されてソファーに腰かけた私はルイーズに指示を飛ばすエリナーに向かって声をかけた。
「ねえ、二人ともなんで様付けなの? ここには私しかいないんだけど」
「……私たちはまだ仕事中ですので」
「そうなんですよ~。休憩中なら別なんですけど、今は真面目にお仕事中なので様付けしてます~」
真面目なエリナーだからな。仕事中だから一線引いているのは当たり前か。エリナーは初めて出会った時にはほとんど無表情で近寄りがたかった。
話すようになったきっかけはたしか、アリスとお茶をしている時に途中でアリスが用事で席を外した時だ。
二人きりになった私たちは互いに無言で部屋の中には沈黙が続いていた。どうしようかと悩んだ私が手を伸ばしたのは一つのクッキー。
ココアとプレーンのマーブル模様のクッキーを口に入れた私は美味しさのあまりつい感想を口にしていた。
「あ、このクッキー美味しい」
ぽつり、とこぼした感想に無表情だったエリナーの眉がかすかに動いた。それを見逃さなかった私はエリナーを見つめてもう一つのクッキーを手にしながら聞いた。
「これを作ったのはあなた?」
「はい」
短く答えたエリナーの表情は変わらなかったけれど、少しだけ目元が緩んだ。




