第7話 治療の対価は魔石で
魔力暴走を起こした者は良くて廃人、最悪自らの魔力によって自滅。
魔力持ちたちのほとんどは自らの力に誇りを持っているが、一方で魔力暴走に怯える者たちは生まれたこと自体を嘆く。
普通の人間に生まれていればと零す人たちを何人も見てきた。
「どうして私は魔力なんか持って生まれたんだろう」
涙声でそう零す美少女は後者だ。
魔力を持たない私からすれば羨ましいが、それは相手も同じだろう。
人は自分に無いものを羨む。
それは魔力持ちであろうと普通の人間であろうと変わらない。
「大丈夫。貴女は廃人にもならないし、死なないから安心して。私はカレナ。カレナ・ブラックウェル。もうすぐで私の研究室に着くから」
言っている間に研究室に到着した。木製の扉は当然閉まっている。
そして私の両手は美少女を横抱きにして塞がっている。
であればやることは一つ。
私は息を吸いこむと大声で学友のサリーを大声で呼んだ。
「サリー! 急患ー! 開けて!」
すぐに扉が開いた。
中から出てきたサリーは名前を大声で呼ばれて恥ずかしかったのか僅かに頬を赤くして不機嫌オーラを背後に出しながらジト目で私を見た。
「あんたね、大声で人の名前を呼ぶなって何度言えば分かるの? 恥ずかしいんだけど」
「ごめんって。緊急事態なんだからしょうがないでしょ。今度何か奢るからさ。あ、ついでに治療手伝って」
「はあ!? って、この子アリス・ウォード様じゃない。魔力持ち(ウェネーフィカ)の中でも有名な侯爵家の御令嬢。あんたってほんと怖いもの知らずよね」
呆れたように肩をすくめたサリーは研究室にいる学生に指示を出して治療室を開けた。文句は言いながらも手伝ってくれるようで私は安心した。
サリーが手伝ってくれるなら早く終わりそうだ。
治療室のベッドにアリスを寝かせて制服のボタンを開けていく。
ここの制服はプリーツスカート、黒いリボン付きの白のブラウス、ボタンが三つある赤か白色のベスト、ベストと同じ色のショート丈のマントで私たちと同じだから脱がせるのに手間はかからない。
羞恥心にアリスが抵抗するのを制している間にサリーが透明な石をいくつか箱に入れて持ってきた。
私は眼鏡を外してアリスの身体を観察した。私の眼にはアリスの身体から零れる魔力が視えている。
それが一番集中している個所が魔力の滞り原因だ。
サリーが持ってきた透明な石は特殊な加工を施した石で魔力を吸収する性質を持つ。
ただ近づけただけでは吸収しないこの石を扱えるのはこの世界には師匠と私くらいだろう。
「見つけた。右の鎖骨、腋窩、あと心臓部。大丈夫だよ、アリス。助かる。ところでこんな時になんだけど、大事なことだから確認させて。今から貴女の体内から魔力の滞りをこの石に移す。これは魔石になるんだけど、出来上がった魔石を報酬として頂く。いい?」
「ほんとこんな時に、って感じよね。いつものことだから慣れてるけどさ。ごめんね、この魔石研究馬鹿はなによりも魔石大好きだからさ、魔石が欲しいのよ」
ポカンとしているアリスにサリーがフォローを入れる。いや、全然フォローになっていないけど。サリーの言葉に目尻に涙を溜めていたアリスが微かに笑った。
「どうぞ差し上げます」