第66話 魔石の次に綺麗だと思う色
到着して早々、私の予想通り玄関の前をうろうろしていたアリスが立ち止まって駆け寄ってきた。
一歩後ろからエリナーがついてきている。無表情に見えてはいても一緒にいる時間が長ければ些細な表情の変化に気がつく。
襟足までの黒髪、碧眼のエリナーは眉を少し下げて息をついていた。心配させてしまっていたらしい。
玄関から動く気配のなかったサリーも組んでいた腕を解いてこちらに向かって歩いてきた。
「カレナ、お兄様、おかえりなさい! もう! 騎士団本部まで魔石を取りに行くだけって言ったのに一晩泊まるなんて」
頬を膨らませるアリスをなだめていると、アランが後から下りてくる。
「すまないアリス。少しトラブルがあった。カレナに怪我はないから許してやってくれ」
「お兄様はカレナと一晩同じ屋根の下だったのですよね? 何もなかったのですか?」
「ちょっとアリス!?」
私に抱きつきながらアリスがアランに問う。聞きたいことの意味がなにか含みを帯びているようで、先にアランが咳払いをした。
「何もなかった!」
「え、好きな人と同じ部屋にいて手を出さなかったんですか? お兄様らしいといえばらしいですが……」
強めの声音で答えるアランに私から体を離したアリスが意外そうな顔をしてすぐにつまらなそうにジト目でアランを見る。
アリスの視線から逃れるようにアランは顔をそらした。ここは私も助け舟を出すべきか。
「いや、泊まったといっても騎士団の人たちとちょっと模擬戦してきただけだから!」
「模擬戦? カレナったらまた無茶したのね」
「無茶、はしてない。ほら、この通り怪我もないでしょ」
助け舟を出したはずが、模擬戦と聞いて眉を寄せるアリスが詰め寄ってくる。一歩下がってもアリスが一歩近づいて距離を詰める。
ジッと見つめてくるアリスに私は頬を引きつらせながら身振り手振りで怪我がないことを示した。
私の両頬に手を添えたアリスがヘーゼル色の瞳で見つめたあと安堵したように息をついて手を離す。
当然ながらアリスの瞳はアランと同じ色だ。魔石の次に綺麗だと思う色。本人には言えないけれど。
「カレナはいつも無茶をするんだから。お兄様もちゃんと止めてください」
「アランも一緒に参加したわよ?」
「お、兄、様?」
「……」
アランが私を止めずに自分も模擬戦に参加したと聞いたとたんに今度はアランの方を勢いよく振り向いた。
顔は見えなくてもバツの悪そうな顔をするアランを見ていればアリスがどんな表情をしているのかは容易に想像がつく。
たぶんアリスは満面の笑みでアランを見上げながらも、額に青筋が立っているのだろう。
「すまない。カレナ一人を戦わせるわけにはいかないだろう?」
「まあ、そうですけど。……もう」
言いたいことはあるのだろうけれど、アリスは飲み込んでそっと息をついた。
「カレナも疲れていると思いますので、今日はこの辺で勘弁します! 次に無茶したらお説教ですからね」
「わかった。今度から気をつけるね?」
苦笑する私の隣でアランも「肝に銘じておく」とだけ言って先に屋敷に入っていった。
アランと入れ替わるようにヘイエイが飛び出してきて私の足元に擦り寄ってくる。
「うお、ヘイエイ~」
ふさふさの毛を撫でまわしているとヘイエイが耳をピンと立てた。クンクンと黒い鼻をひくつかせて私の鞄を前脚で掻く。
「どうしたの? あ、やっぱり分かるんだ」
「なに? どうしたのよ」
ヘイエイが反応しているのは騎士団本部で手に入れた魔石なのだろう。さすが魔石獣の幼体。魔石の気配にも敏感だ。
ヘイエイの身体を押さえながら問うサリーに私は観念したように鞄を開けた。すぐに呆れたような表情をサリーとアリスが見せてくる。
「……あんた騎士団本部まで行って何をやっているのよ」
「いや、だって魔力暴走で苦しんでいる人たちがいたから居ても立ってもいられなくて!」
「またアフェレーシスをしてきたのね?」
問われて頷いた私にサリーとアリスが顔を見合わせて同時に大きな溜息をついた。




