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第64話 ドレスの弁償と頼み事

 アレックスたちの見送りを受けた私たちはウォード家に向かう馬車の中でなぜか肩を合わせて座っていた。


 来るときは向かい合わせだったのにアランは馬車が走り出した直後に私の隣に移動してきた。


「あのアラン様、なぜ隣に?」


 問いにアランは私を見下ろした。え、なに? ヘーゼル色の瞳が私を映す。しばらく無言だったアランが先に視線をそらした。


「その……、さきほどのロッドたちの誓いは分かるんだが」


 言葉を切ったアランが私の手を取って自分の方へ引き寄せて手の甲へと口付けた。そこはロッドが口付けをした箇所。


 流れるような自然な動きに目を奪われている間にアランは唇を離した。顔を上げてこちらを見る表情は柔らかくて、ふいに私の鼓動が跳ねる。


 じわじわと頬に熱が集中してきて熱い。


「カレナ? 顔が赤いがどうかしたのか」


 熱を帯びた私の頬に触れようとアランが手を伸ばした。とっさに私はアランの手から逃れるように顔をそむける。


「なぜ逃げるんだ?」


「あ、えっと。なんとなく?」


 逃げたところで狭い馬車の中だ。アランの手が私の頬に触れて強制的に相手の方を向かされた。


 ヘーゼル色の瞳に見つめられていたたまれない私は視線だけでもそらした。


「ロッドに口づけられても平然としていたのに?」


「うぐっ」


 アランの指摘に私は声を詰まらせた。たしかにロッドが口付けたときには何とも思わなかった。


 少しだけ照れくささはあったけれど、特になんの感情も湧かなかった。


「いや、あのほら。アラン様が突然口付けなんてされるから驚いただけです」


「驚いただけか。少しは俺を意識してくれているのかと思ったが」


 私の顔に添えている手とは反対の手を私の手にアランが重ねてきた。温かくて大きな手に包み込まれてさらに鼓動が速くなる。


「ちょっ!」


 上ずった声にアランが重ねた手をギュッと握った。


 顔をそらそうにも相手の添えている手のせいで叶わず後ろに下がろうにも馬車の中は狭くてこれ以上後退できない。


 どうしようかと考えていた私にアランの笑いをかみ殺す声が聞こえてきた。


「ふっ、ははは。ずいぶんと可愛い反応をするんだな。模擬戦で見せていた時の顔と違っていい」


「そう、です……か」


 違う顔を見せているというならアランの方だと思うけど。目の前で笑うアランは少年のようで私はこちらの表情の方が好きだと思った時には口に出していた。


「それを言うなら、アラン様の今の表情、私は好きですよ。少年みたいで」


 あ。つい口が滑ってしまった。至近距離だ。当然相手に聞こえている。


 反応が気になってアランを見ると、彼は数回目をしばたたかせたあと、照れたように口元を手で覆い隠した。


「……君の前だとどうも素が出てしまうな」


「いいじゃないですか素」


 素直に口にした私をアランが恨みがましそうに見る。口元を覆っていた手を離して私の両肩に手を置いた。


 え? 急になに!? 


 顔を近づけてくるアランに混乱した私は意識をそらせそうな話題を必死に探した。なにか忘れていることがあったような、なにか!


 ふいに私はドレスのことを思い出して声を上げた。


「あ! そうでした! ドレス。アラン様、ドレスの弁償をさせていただきたいです」


 ヘイエイ戦でボロボロにしたドレスは落ち着いたら弁償しようと考えていた。


 アランが用意してくれたドレスだったのに状況的に仕方ないとはいえ、裾を引き裂いてしまったドレスは見るも無残な姿になってしまっている。


 申し訳なささが勝って罪悪感がすごい。


「ドレス? ああ。別に気にしなくていい」


 キョトンとしたアランが緩く首を左右に振った。


「それよりも君が無事だっただけで充分だ」


「そっ……!」


 そういうところ! ついでに緩く微笑んでくるアランの表情の破壊力は強すぎる。


「そういうわけにはいきません!」


 引き下がるわけにはいかない! なにより私が嫌だ。アランとアリスが選んでくれたドレスなのだから。


 見上げる私にアランが肩をすくめる。


「……引き下がる気はない、という顔だな」


 フンス、と鼻を鳴らす勢いで頷く私にアランは少し顎に手を添えながら考え込む。


「なら一つ俺の頼みを聞いてくれないか?」


「頼みですか? いいですよ」

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