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第60話 模擬戦後の握手

 短剣を引いた私が息をつきながらアランの方を見ると、仰向けになったマーティンの首元に剣先を突きつけていた。


 さすがと言うか、息を切らせているマーティンに比べてアランは涼しい顔をしている。


 私の視線に気付いたアランは微笑んでマーティンから剣を引いた。


「カレナ、怪我はないみたいだな」


「はい。アラン様も傷一つないですね」


 私の傍に近づいたアランが頬や腕に触れながら傷がないか確かめてきた。怪我がないことにアランが安堵する。


 ちょっと心配しすぎじゃない?


「カレナ様!」


 ロッドの声に振り向くと、明るい表情で私の目の前に来て手を取った。


「かっこよかったです! 水、風、氷の魔石でこんなに戦えるんですね」


 私の手を握ったまま上下に激しく振るロッドははしゃぐ子犬のように見える。


 ロッドは小柄で、私とほとんど身長は変わらない。


 年下の弟がいたらこんな感じなのだろうか。可愛く見えてきた。


「魔石だから魔力持ちのあなたたちが扱う魔法の半分しか力は出ていないけどね」


「そうなんですか」


「そうよ。だから、潜在的な力を持っているのはこの魔石の元になった魔力の持ち主のジャック、ルイ、ティエリーよ」


 ブレスレットに付いた魔石に触れ、アレックスの近くにいた三人へ視線を送りながら言うと、ロッドも彼らに視線を送って頷いた。


「磨けばあなたのように扱えるようになるでしょうか?」


「当然でしょ。ロッドやマーティン、あなたたちの魔力の扱い方を見習って訓練を積めばきっとね」


「っ! ありがとうございます」


 息を呑んだロッドは垂れ目をさらに緩めて笑う。戦っている時とは打って変わって年相応の少年のような顔を向けるロッドに私もつられて頬を緩めた。


「ゴホン!」


 咳払いにロッドが私の手を離した。咳払いの主を探す前に周囲の気温が急激に下がっていく。


 氷の魔石の力にしてはずいぶんと増幅されている気がする。増幅? 魔石の力を増幅できるのは一人しか心当たりがない。


 昨日の夜、私の作った氷のバラを難なく増やしたアランを思い出して彼の方を見れば笑顔を向けていながらも背後から怒気が感じられた。


「おいロッド」


 声量を落としながらマーティンがロッドの脇腹に肘鉄を入れる。


「え。なに? マーティン」


「お前なぁ。カレナ様の婚約者であるアラン様の前で堂々と手を握るなよ」


「だってテンション上がっててさ」


 反省の色を見せないロッドは天然なのだろうか。マーティンが諦めたように肩をすくめながら大きくため息をついた。


 全部聞こえてるんですけど? 私が聞いていいの?


「すみませんアラン様。こいつあまり考えずに行動することがあって。その、カレナ様の手を」


「いやいい。カレナが嫌がっていないなら」


「え、私!?」


 急に私に振られて声が上ずった。子犬のようなロッドが私を見てくる。マーティンも様子をうかがうように私をジッと見つめてきた。


 私の返答次第ってこと? いや、私は別にロッドに手を握られても何も思わなかったんだけど。


 ちょっと不機嫌になったのはアランの方じゃない?


 少し考えた私はアランの反応が気になってきた。いたずら心の方が勝る。


「私は別に手を握られても嫌じゃなかったけど」


「本当ですか!」


 嬉しそうに声を弾ませるロッドがもう一度私の手を握ってきた。うぉお、ぐいぐい来るなこの子。


「だから、ロッド!」


「マーティンだってカレナ様と握手してみたくないの? せっかくのチャンスだよ」


 何のチャンス?


 私が疑問に思っていると、マーティンが言葉を詰まらせた。クールそうに見えるマーティンが右手を出そうか迷っている。


 差し出しかけては引く、を繰り返すマーティンの手をロッドが取った。


「ほら、マーティンもカレナ様と模擬戦後の握手!」


「はぁ!? ちょ、ロッド!」


「え、ええ?」


 見かねたロッドがマーティンの手を取って私と強制的に握手させてきた。


「ほんと、すみません!」


「苦労してるのね、マーティン」


 ロッドとは違って大きめの手はアランに似ている。それに火を扱うからか、温かい。


 ロッドと同じで相当に訓練を積んでいるのだろう。手にはまめができていた。頑張っている証拠だ。


「二人とも相当訓練してるのね。いい手をしてる」


 素直に思ったことを口にした私に二人は目を丸くして顔を見合わせた。


 褒められ慣れていないのか、嬉しそうな、照れくさそうな顔を見せたのも束の間、マーティンの口元が引きつった。


「マーティン?」


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