第6話 アリスと魔力暴走
アリスと出会ったのは今から二カ月前。
学園リメリパテに在籍している私とサリーは現役の学生ではなく研究者として席を置いている。
元はここの学生で、親であり師匠でもあるルーシー・オーウェンの薦めで入学した私は魔石、魔鉱物の研究がしたい一心で勉学に励んだ結果飛び級してしまい、十五歳で修士課程を修了している。
先生の誘いもあって研究を続けるのにテリブの森が近いリメリパテの研究室に在籍するのが一番だと考えて早三年が経過した。
フィールドワークと称して魔獣から魔石を採取したり、学園内で魔力持ちが時々魔力の滞りによる暴走状態に陥った際に駆け付けて魔力の滞りを解消させるついでに溢れた魔力を石に移して魔石を作ったりしている。
アリスも魔力の滞りによる暴走状態に陥った一人だった。
その日は空が灰色で雨が降り出しそうだったため私はテリブの森で魔獣から魔石を数個採取したら早々に切り上げて学園へ戻った。
早く魔石を調べてどう加工しようかと思案しながら廊下を歩いていた私は廊下でホワイトブロンドの長い髪の美少女とすれ違った。
人形のような綺麗な肌、日差しが届かないのにも拘わらずキラキラと輝く髪に足を止めた。
容姿に見惚れたのも事実だが、足を止めた理由はもう一つある。
美少女の具合が悪そうに見えた。
普通に歩いているように見えて僅かにふらつく足元、呼吸も気づかれないように平静を装っているようだが、微かに荒い。
そして、私は他の人と異なり特殊な力がある。
魔力持ちではなく紛れもない普通の人でありながら私の眼は魔力の流れを視認することができる。
ワインレッドのフレームの眼鏡越しに美少女から零れる魔力を視た。
体内のどこかで魔力の滞りが生じており自分でも制御出来なくなっているのだろう。無理に抑えつけようとした結果自分が苦しむ結果になる。
魔力持ちは魔力の滞りを消化するため定期的に模擬戦や魔獣の討伐を行うが、それでは間に合わない者たちもいる。
身体の成長に魔力量が追いついていない場合に良く起こることだ。
今にも倒れそうな美少女も同じなのだろう。
苦しそうな人を見捨てることは出来ない。私の身体はすぐに動いた。
傾いだ美少女の身体を抱きとめて横抱きにすると相手は驚いて抵抗しようと手で私の肩を押しのける。
けれど、力の入らない手では失敗に終わった。
「は、離してください。自分で歩けます。それに貴女は」
「普通の人間って言いたいの? その通りだけど、魔力暴走を起こしかけているあなたを助けられるのは私だけだと思うんだけど。放置したらどうなるか知らないわけではないでしょ」
美少女は黙って俯いた。