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第57話 短剣と試合開始の合図

 翌朝、私たちは朝食を済ませてすぐアレックスに模擬戦を行う演習場まで連れていかれた。


 演習場にはすでに数名の団員が訓練を行っていてアレックスを見るなり動きを止める。団員二人が駆け足でこちらまで来た。


「団長、おはようございます!」


 二人が揃って挨拶をしながらも視線は私たちに向いている。


「おはよう。今日はアラン様、カレナ様と模擬戦をしてもらう。いいな、マーティン、ロッド」


「はっ!」


 揃って敬礼したマーティンは肩まで伸びた金髪を一つに結んでいる翠眼の青年、ロッドは茶色の短髪の垂れ目の青年だ。


 マーティンとロッドの返事に頷いたアレックスが私たちに振り返る。


「アラン様、カレナ様。この二人は我が団員でも腕の立つ者たちです。相手にとって不足はないでしょう」


「よろしくお願いします!」


「アラン様とカレナ様の話は団員たちの間でも話題なんですよ。お二人と手合わせができて嬉しいです」


「うわさ?」


 アランが眉を寄せながら首を傾ける。私もどんなうわさなのか気になるんだけど。


「おい」


 うっかり口を滑らせたロッドの脇腹をマーティンが小突いた。


 あっ、と口元を押さえたロッドは苦笑いを浮かべて「なんでもないです」と首を左右に振る。いや、気になるんですけど!?


「さ、模擬戦は二時間後だ。二人とも訓練はほどほどにして少し身体を休ませておくように」


 アレックスに促されたマーティンとロッドは会釈すると元の場所へ戻っていった。


 私たちは部屋に戻り魔石の付いたブレスレットと指輪を装着する。腰に巻いた短剣ホルダーに短剣を差していると見ていたアランが声をかけてきた。


「短剣も使うのか?」


「そうですね。メインは銃や魔石ですけど、短剣も使いようによってはいい武器になりますし。剣よりも軽い短剣の方が自由度がきいていいんですよ」


「そうなのか。短剣を扱っているイメージが湧かないな」


「アラン様の前で短剣を使ったことないですからね」


 短剣を使うのは主にテリブの森で魔獣と戦って弾切れを起こしたときとか、接近戦に持ち込まれたときくらいだからな。


「きみが短剣を使う姿も見られるだろうか」


「はい!?」


 私は勢いよくアランを見た。アランは顎に手を添えながら柔らかな笑みを向けてくる。


 団員であるマーティンとロッドに短剣を使う機会はあるのだろうか? 


 あんまりないといいんだけど、見るからに訓練を積んでいる二人だったから案外機会は訪れそうだな。


「機会があれば、ですよ!」


「ああ。楽しみにしてる」


 楽しみにするんじゃない!


 二時間後、私たちは演習場でマーティンとロッドに向かい合っていた。


「アラン様、カレナ様、よろしくお願いします」


「実はマーティン、お二人と戦えるってわくわくしていたんですよ」


 垂れ目のロッドが緩く笑いながら私たちに教えてくれる。


 マーティンが余計なことを言うなと言いたげにロッドを睨み付けるけれど、ロッドは気にしていないのか笑っているだけだ。


「僕も楽しみにしていました! よろしくお願いします」


「ああ。よろしく頼む」


「よろしく! 言っておくけど手加減無用よ!」


 マーティンとロッドが頷いたのを見てアレックスが片手を上げた。


「これより模擬戦を開始する!」

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