第54話 模擬戦の提案
アレックスに案内されて部屋の奥まで通された私たちは席に着いた。隣にアランが座り、アランの向かいにアレックスが腰かけた。
今日の食事はシチューとパン、ソーセージだ。騎士団ではこれが主流なのだそう。
「申し訳ありません。用意できるのがこれくらいしかなくて」
「いえ。泊めていただいた上に食事まで用意していただいてありがとうございます。このシチュー美味しいですね」
「ああ。十分旨い」
野宿に慣れているのもあって、ウォード家の食事も美味しいけれどこういう食事の方が私の口には合っている。うん、美味しい。
「そうそう、治療していただいたジャックたちはだいぶ回復しました。久しぶりにシチューを食べていますよ」
「そうですか。良かったです」
食事が自分で摂れるようになったのなら一安心だ。もう少し養生したら訓練に参加出来るようになるだろう。まあ、復帰するかどうかは本人次第だけど。
「彼らはどうなる?」
「そうですね。まだ自信が持てないようです。自分たちの力が弱いから足手まといになるとこぼしているみたいで」
アレックスが困ったように眉を下げた。誰も足手まといだなんて思っていなくても、自分たちが足手まといだと思えば落ち込んでしまう。
「なにか自信が持てるようなことでもあればいいんですけど、訓練にはまだ参加出来ませんし、どうしたものか」
「自信、自信か」
「カレナ?」
自信をつけさせるようなことか。私は魔石の事を思い浮かべる。風、水、氷の魔力を持つ彼らはまだ自分たちの力の使い方を把握できていないのかもしれない。
魔石を使って模擬戦でもできれば自分たちの魔力の使い方が分かるかもしれない。
「模擬戦」
つい、口から出てしまった言葉はしっかりとアランとアレックスに聞こえていたらしい。同時に二人からの視線を感じる。
「え? なんですか?」
「模擬戦って君が戦うのか?」
「え!? カレナ様が!? いや、魔石獣の幼体相手に戦闘されていたカレナ様であれば不足なしですが」
「そうですね。ジャックたちの魔石を使って団員の数名と模擬戦を行う姿を見せれば自分たちの魔力の使い道が分かるかもしれません」
「なるほど」
私の提案にアレックスは顎に手を添えて考え込んでいる。
「君一人で戦うつもりか?」
アランの問いに私はキョトンとした。そりゃあ、魔石を扱えるのは私だけだからそうなる。なにが言いたいのだろうか?
「心配しなくても私はそこそこ強いので怪我とかなら大丈夫ですよ?」
「まあ、君の力は知っているがそうではない」
「どういうことです?」
アランの言いたいことが分からなくて私は首を傾けた。
「あ! アラン様、カレナ様のことが心配なら二対二の模擬戦をしましょう」
「二対二か。それなら」
「私は魔石が使えるならなんでもいいです」
あっさり了承する私とアランにアレックスの表情が明るくなる。食事を早々に終わらせたアレックスはさっそく模擬戦の参加者を選定してきますと、席を立った。
残された私たちは同時に顔を見合わせる。
アリスの魔石を引き取りに来ただけなのにアフェレーシスをして魔石をゲットするだけに留まらずまさか騎士団の団員たちと模擬戦をすることになるとは思わなかった。