第52話 治療の終了と宿泊
私は思考を散らして透明の魔石をジャックの喉に当ててアフェレーシスを開始した。
苦しそうに抵抗するジャックをアランとアレックスが押さえている間に私は喉、腕、腹部から魔力を吸収していった。
ジャックが終われば水色の髪短髪ストレートヘアのルイ、銀髪の短髪の青年のティエリーの順にアフェレーシを行っていった。
さすがに三人を連続で行えば数時間はかかる。昼間に到着したはずなのに、部屋は夕日に照らされていた。
オレンジ色に染まる部屋では三人の寝息が聞こえるだけだ。治療を終えた私は息をついて近くの椅子に腰を下ろした。さすがに疲れた。
「大丈夫か?」
声をかけてくるアランも青年たちを押さえるのに相当体力を使ったせいか疲労の色が見える。
「大丈夫ですよ。手伝ってくださってありがとうございますアラン様」
「……っ、いや、大したことではない。カレナはいつもこんなことを?」
「いつもじゃないですよ。たまに魔力暴走を起こしそうな人に遭遇した時だけです。アリスやコリンみたいに」
「そうか。今回のような事例は異例ということか」
「そうですね、一番怪しいのはあの薬です。持ち帰ってすぐに王宮の調査へ回します」
私たちが話をしていると、お茶を取りに行っていたアレックスが入ってきた。
彼からグラスに入ったお茶を受け取って飲むと思いの外喉は渇いていたようで、すぐに空になる。
「カレナ様。三人の上司として改めて感謝を」
「やめてください。私はただ、魔力暴走を起こした彼らから得られる魔石が欲しかっただけなのでお礼を言われると居心地が悪いです」
「そんな謙遜を!」
謙遜なんかじゃなくて本音です!
大声で言い返したいけどアランからの余計なことを言うなよと言わんばかりに鋭くなる視線に私は頬を引きつらせて笑みを浮かべた。
「ところで、ジャックたちから得られた魔石は私が頂いても?」
少し前のめりになって問う私にアランの呆れたような溜息が聞こえる。アレックスはきょとんとしてすぐ、快く承諾してくれた。話の分かる団長で助かる。
ジャックからは薄緑色の魔石、ルイからは海のような深い青色の魔石、ティエリーからは少しだけ青を溶かしこんだような薄い青色の魔石が得られた。
それぞれ風、水、氷の魔力を宿している。
手にした魔石を眺めながら頬を緩ませていると、意識を取り戻したジャック、ルイ、ティエリーがうめき声と共に身じろぎをした。
魔石を置いてジャックの元に駆け寄ると、ジャックは私を見て目元を緩める。
「あ、り……が、とう……」
掠れた声で紡ぐ礼の言葉に私は笑みを返した。無事でよかった。
ルイ、ティエリーそれぞれの様子を見たアレックスは泣きながら何度も良かったと繰り返しているのを聞いて私はアランと顔を見合わせて同時に笑いあった。
日が落ちて辺りが暗くなってさすがにこの時間から屋敷に帰るとなれば日をまたぐ。アレックスからの提案で私たちは客間に泊めてもらうことになった。
魔石獣や魔獣退治するのにテリブの森に何度も足を踏み入れている私は野宿に慣れている。
だから、どこに泊まろうが抵抗はない。アランも仕事上遠征に赴くこともあるらしく、城塞跡地の宿舎に泊まることに抵抗はないらしい。
「カレナ様とアラン様は同じ部屋が良いかと思いましたので、この部屋をお使いください」
「は!? ちょっ!」
アレックスの妙な気遣いのせいで私たちは同室に割り振られた。元々騎士団の団員たちが集まる宿舎だ。
部屋の数は限られているのだから贅沢は言っていられないのだけれど、まだ婚約が決まっているだけで、正式に結婚したわけではないんですけど!?
なにかあったらどう責任取るのアレックス! 夕食時にまた呼びにくると言い残してアレックスは扉を閉めた。
「……」
「……」
二人きりになって私たちは互いに無言になる。いや、急に二人きりにされても困るんですけど! アリス、アリス助けて!
「大丈夫よ、カレナ! 頑張って!」
私の中のイマジナリーアリスが愛らしい笑みで応援してくる。違う、今は応援がほしいわけじゃない。
サリーは……ダメだ。サリーの場合この状況にお腹を抱えて笑ってる絶対。
「お、遅くなってしまいましたね。アリスたちが心配しそうです」
「それならアレックスが屋敷に連絡を入れたそうだから心配は要らない」
「そう、ですか」
うぉお……。話題が続かない。どうしよう。こんな時ってどんな話をしたらいいんだろうか。私が饒舌に話せることと言えば魔石のことだけだ。
そうだ魔石! 私は鞄から魔石を取り出した。




