第51話 薬包紙
案内された団員の部屋に入るとそこはベッドが四つ並んでいて内、三つに青年たちが寝込んでいた。
「ジャック、ルイ、ティエリーだ。彼らはまだ入ったばかりで若い。先の魔石獣の幼体との戦闘で怯んでしまって引きこもってしまったんだが」
アレックスが言葉を切った。私はジャックの傍に近づいて眼鏡を外して彼を観察する。
ジャックは甘栗色のくせ毛の短髪でそばかすのある青年で、今は苦しそうに目を閉じていた。
「魔石獣の幼体が出現したのは数日前です。こんな短期間でいくら魔力を抑えたとしても魔力暴走が起こるとは考えにくいです。なにか他に要因でもあるんですか?」
「要因? アレックス何でもいい。心当たりがあれば言ってくれ」
目を見開いたアレックスは少しだけ逡巡したあと、ジャックのベッドの側にあるデスクの引き出しを開けた。
アレックスの手には薬包紙。アレックスはそれを私たちに見せた。
「これは?」
問いながら私は薬包紙を受け取り、中を開ける。薬包紙を開くと中には白い粉が入っていた。
「薬です。引きこもった三人は精神的に弱っているだろうと、アンスロポスの医者を紹介してもらいジャックたちを診てくれた医者が処方した物です」
「これを服用してから三人は今のような状態に?」
またアンスロポス側の医者。カヤ様を診たのもアンスロポス側の医者だったな。風に薬が飛ばされないように薬包紙を閉じながら問う私にアレックスは頷いた。
「そう……。これは持ち帰っても?」
「構いません」
私は被っている布団を剥いでジャックをもう一度観察した。喉、腕と腹部に魔力の滞りを見つける。
時折苦しそうに顔を歪めるジャックはもがくように胸元を掻きむしろうとした。このままでは傷を付けてしまうし、それに治療すらできない。
「俺にできることはあるか?」
アランが隣から顔を覗かせる。
「え、あ。はい。できればジャックを押さえていていただければ。その間に治療します」
「治療といえばアフェレーシスか?」
「そうですけど? なにか思うことでも?」
「いや。レウニールでもするのかと」
視線をそらしながら言うアランに私は先日行ったレウニールのことを思い出した。自然と指先で唇を撫でる。
そんなに長い時間の出来事ではないはずなのに、唇に残る感触ははっきりと思い出せる。私は慌てて首を左右に振って思考を散らす。
「な、何を言いだすんですか!? レウニールは緊急事態用です! それに用途も違うので!」
「そうか」
少しだけ安堵したように微笑むアランに私は早まる鼓動を沈めるべく何度も深呼吸を繰り返した。
鞄から透明の魔石を取り出してジャックに声をかける。頬を軽く叩けば、微かに目を開けたジャックが虚ろな目でこちらを見る。
「よかった。意識はあるわね」
「っ、……!」
喉に魔力が溜まっているせいか、声が出ないようだ。涙目でなにかを訴えるように口を何度も開閉するジャックの手を握って安心させるに微笑んだ。
「大丈夫よ。あなたは死なない。必ず助ける」
「……、っ……」
なにかを紡いだあと、ジャックは目を閉じた。閉じた目尻から涙が伝うのを見て私は透明な魔石を握りしめる。
いや、魔石は頂く予定なんだけど、カヤ様の件といいこんなに魔力暴走で苦しむ姿を目の当たりにして何とも思わないほど非道ではない。
何者かが裏で暗躍している、なんて今考えてもしょうがないことだけど、彼らをこんな状態にした人がいるなら許さない。
「カレナ?」
「なんでもないです。さあ、治療を始めましょう」




