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第50話 騎士団長アレックス

 翌朝私は制服に着替えて朝食を済ませるとアランと共に馬車に乗り騎士団本部へ向かった。


「なんだその鞄は」


「レディにはいろいろと必要なのですよ」


 アランの指摘する鞄は肩から下げる少し大きめのもので、中にはレディのたしなみセットなどではなく、もしもの時のためアフェレーシス用の透明の魔石がいくつか入っている。


「……そうか」


 疑わしいと言わんばかりの視線を向けてくるアランに私は笑みだけ向けた。


 馬車に揺られて午前中の内には騎士団の本部に着く。馬車から降りた私たちを出迎えたのは隊長のアレックスと彼の部下たち。


 アレックスは五十手前の男性で、シルバーの髪にブルーの瞳、鼻の下に髭を生やしている。目元は凛々しく厳しめの印象だが、声音は穏やかだった。


「アラン様、カレナ様お待ちしておりました。こちらへ」


 眼鏡を外してもう少しじっくりと観察出来ていれば魔力の流れとか見られたのにアレックスに案内されて私たちは建物の中に入る。


 騎士団の本部は城塞の跡地を改良したもので、騎士団所属の団員はここで寝食を共にし、訓練を行っていた。


 客室へと通された私たちはソファに腰かけてアレックスが来るのを待つ。数分と待たずにアレックスが小さな小箱を手に部屋へと入ってきた。


「お待たせいたしました。先日の魔石獣の幼体との戦闘の折、カレナ様より預かった魔石です」


 私たちの向かいに座ったアレックスがテーブルに置いた小箱の蓋を開けてこちら側に向ける。私は少し身を乗り出して小箱の中を見た。


 たしかに私があの夜にアレックスたちに貸したアリスの魔石が入っている。良かった。安堵していた私にアレックスが頭を下げた。


「あの夜。負傷し、魔石獣の幼体に手も足も出なかった我々の身を案じてこの魔石を託したままお一人で立ち向かったカレナ様には感謝してもしきれません」


「はえ!? いや、あの」


 ヘイエイを倒した時の報酬目当てで単騎で挑んだとは口が裂けても言えない。アレックスの勘違いをどう訂正しようか。困った。


 ここで実は魔石目当てだったんです! とは言いにくいし。


「アラン様との婚約パーティーに着ていたドレスまで汚して。本来は我々がカレナ様たちをお守りしなければならないところを」


「あ、ドレス。ドレス……ね。あはは」


 ヤバい。アラン様が用意したドレスは裾が邪魔だからって裂いたんだった。後日弁償しようと思っていたのにすっかり忘れていた。どうしよう。


 頬を引きつらせたまま私はアランを盗み見る。自分が贈ったドレスがボロボロになっていたのを見たのは彼も同じ。怒っていても不思議じゃない。


「あの、アラン様。すみません、せっかく用意していただいたドレスを」


 視線を泳がせながら謝罪を口にする私にアランは緩く首を左右に振った。


「いや。カレナも怪我は負っていたものの、こうして無事だったからな。ドレスのことは気にしなくていい。そしてアレックス団長含め、全員無事で何よりだ」


「アラン様」


 アレックスが再び深く頭を下げた。ドレスのことは気にしなくてもいいとは言っていたけれど、値段高そうだし今度弁償しよう。


 心の中でひっそりと決意していたところで若い団員が扉をノックして入ってきた。


「団長、お話し中失礼いたします」


「どうした」


 若い団員がアレックスに耳打ちすると、アレックスのブルー色の瞳が大きく開かれた。なにか事件でも起きたのだろうか。私はアランと顔を見合わせた。


「分った。下がれ」


「はっ!」


 団員が部屋から出て行ってアレックスは額を押さえながら息をついた。


「アレックス団長?」


 私は思わず声をかけた。


「あ。いや、申し訳ありません。アラン様とカレナ様の前でお見苦しい姿をさらしてしまって」


「何かあったのか?」


 アランの問いにアレックスは少しだけ逡巡して口を開いた。


「さきほど、全員無事だと仰ってくださったのですが実は、怪我は完治しているものの、数人が部屋から出てこられないのです」


「それは魔石獣の幼体との戦闘で恐怖心を植え付けられたからでしょうか?」


 私の問いにアレックスは頷く。まあ、初めての戦闘が魔石獣の幼体ならトラウマにもなるわよね。


 魔力は吸収されるし、倒せないし、デカいし、強いし! って問題はそこじゃなくて、部屋から出てこられないということは数日魔力を消費していないのかもしれない。つまり、魔力暴走を起こす可能性が高い。


「数名の団員を医者に診せて薬を処方してもらったのですが、良くなる気配はなく魔力暴走を引き起こしそうなのです」


「なんですって!?」


 思わず私は立ち上がった。いや、決して歓喜で立ち上がったわけではない。純粋に驚いただけだ。


 目を丸くしていたアランの視線が呆れたような視線に変わったのは気のせいだと思いたい。


「すぐに案内してください! 魔石……じゃなかった、魔力暴走は見過ごせません!」


 危ない、危ない。本音が出てしまうところだった。


 やっぱりアフェレーシス用に透明の魔石を持ってきて正解だったな。これは魔石獲得のチャンス!


「カレナ様……。我々の命を救ってくださっただけでなく、魔力暴走を起こす者たちまで救ってくださるというのですか」


「え!? いや、えーと」


 勘違いしているアレックスに私は頬を引きつらせる。魔石目当てです、なんて言えない。ここで否定して魔力暴走を起こしている団員の元に案内されない方が困る。


 私は笑みを浮かべて誤魔化すことにした。


「時間が惜しいのですぐに案内していただけますか? それと、治療で得た魔石は今後の研究に使用するので報酬として私が頂いても?」


「もちろんです!」


 よっしゃー! 言質は取った。これで心置きなく治療ができる。


 アレックスに魔力暴走を起こしかけている団員たちの部屋まで案内される道すがら頬を緩ませる私の意図が分かったのかアランがそっと息をついた。


「ほどほどにな」


「はい!」


 元気よく返事する私にアランはもう一度ため息をつきながら私の隣を歩いた。

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