第49話 差し入れ
ノリノリのエリナーたちはすぐにクッキーを用意して持ってきてくれた。
紅茶はトムさんが先に淹れるからトムさんがアランの部屋から出た後に私がクッキーをアランの部屋に届けるという話でまとまった。
私は諦めたようにため息をついて覚悟を決める。
食堂を出てアランの部屋に向かう私の手にはトレイ。その上には皿にいろいろな種類のクッキーが綺麗に並べられていた。
いや、こんなの私が用意したっていうのは無理があるでしょ! 覚悟を決めた私は片手でトレイを支えて空いた手でアランの部屋の扉をノックした。
すぐに扉が開かれて中からアランが顔を出す。数時間前に会ったはずなのに、報告書作成の疲れからか、顔に疲労の色が見える。
けれど、その顔はすぐに驚きに変わった。
「カレナ!?」
「あ、えっと。アラン様が部屋にこもって報告書の作成中と聞きましたので。その、差し入れを……」
ジッと私が持つクッキーに視線をアランが落とした。クッキーと私を交互に見たアランが小さく笑う。
「そうか。ありがとうカレナ」
トレイを受け取って笑みを向けてくるアランに私の鼓動が少し跳ねた。
階段付近から視線を感じてアリスとサリーが盗み見しているのだろうと察して落ち着かなくなる。
「カレナ」
「は、はい!」
急に呼ばれて声が上ずった。思わず背筋が伸びる。
「明日のことだが、騎士団のアレックス団長に連絡を入れて午後から会うことになった。朝食を食べた後すぐに発つから今日は早めに休め」
「分かりました」
もしかして私が明日にでも話がしたいって言ったから連絡してくれたのかな。忙しい身なのにこの人は。
「アラン様、ありがとうございます」
「なんのことだ?」
「騎士団とのことです。疲れているのに無理を言ってすみませんでした」
頭を下げた私にアランは「気にしなくていい」と返す。
「それに」
続けたアランを私は見上げた。アランはクッキーを一枚手に取ると小さく笑う。
「カレナが差し入れを持ってきてくれたから疲れはすぐになくなった」
「そ、そういうものですか?」
「ああ」
頷いたアランに私はアリスたちが言っていたことを思い出した。
「もー、カレナは分かってないんだから。カレナがお兄様に差し入れを持っていくということが重要なのよ」
アランの顔を見ていたらアリスの言う通りなのかもしれないと思った。たぶん、本当は疲れているのだろうけれど気持ち次第なんだろうな。そっか。
「それなら良かったです。アラン様、無理は禁物ですよ。おやすみなさい」
また明日、と付け加えて一礼して私はアランの部屋を後にした。急ぎ足で階段に向かうと、アリスとサリーが身を屈めて私たちの様子を見ていた。
「おかえりカレナ」
「ふふっ、カレナお疲れさま」
覗き見していた二人は堂々としていた。そこはもう少しバツが悪そうな顔をするとか、気まずそうな顔をするとかしてほしい。でも今はそんなことよりも。
「アリス、助言をありがとう」
「どういたしまして。お兄様のあんなに嬉しそうなお顔が見られたので満足です」
満面の笑みで答えるアリスにつられて私も頬を緩めた。うーん、美少女の満面の笑みは眩しい!
「ふ~ん」
「サリーはこのことを師匠に報告しないように!」
腕を組みながら口角を上げているサリーに私は師匠に報告しないように釘を刺したけれど、サリーは笑みを向けたまま階段を降りていった。
サリーの足取りが軽かったところを見ると嬉々として師匠に報告するんだろうな。すごく恥ずかしいんだけど!?




