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第26話 魔石獣の幼体の噂

「研究一本ではなく、学園に通うようになったのは何故だ?」


「あ、ああー。それは、ですね。魔獣から魔石を採取するだけでなく、人に対しても同じことをしようとしていた私を見た師匠がこれはダメだ。礼儀から直さねば、よし学園に通わせて一通り一般常識を身につけて来いって学園に入れたんです。おかげさまで一応最低限は身につけられた気はします」


 こうして拙い(つたない)ながらも敬語は使えているのだから師匠の目論見通りだろう。たぶん。


「……嫌なことを思い出させてしまったな。すまない」


「いえ。私の研究の原動力ですので。ところで先ほどからアラン様から微かに魔石の気配がして仕方ないのですが」


「すごいな。やはり分かるのか。ルーシー殿の言う通りだな」


 感心したように言うアランは袋からいくつかの魔石を机の上に広げた。


 一見すれば透明な魔石に私は眉を寄せた。これはただの魔石ではない。手に取って観察して早々に答えが出る。


「これは魔石獣の幼体が放つ魔獣から採取されたものですね。どこで手に入れたんですか?」


「一目見ただけで分かるのか。君の言う通りこの魔石は先日王都に出現した魔石獣の幼体が放ったとされる魔獣を討伐した時に採取したものだ」


「王都に? 魔石獣の幼体は人間の棲むところには現れないはず。幼体は確認されたのですか?」


「いや。捜索したが見つかってはいない。この件で俺たちは王宮に呼ばれていたんだ。数日経過して魔石獣の幼体は見つからなかったので一旦捜索は打ち切りになった」


 魔石獣の幼体は魔石獣に成る前の姿で、彼らは長年かけて自然の魔力を吸収し魔石を育てる。


 基本的に自然の中にしか生息しない獣で寿命間際に魔力暴走の果て理性を失って暴れるため人間にも危害が及ぶ。


 それに対抗するために武器や魔石を使った魔道具が必要だった。幼体だって同じだ。人間のテリトリーに来てまで魔力を奪うことは過去に一度もない。


 考えられることは一つ。


「人の手による誘導か、洗脳か。いずれにしてもこの魔石だけでは結論には至らないですね。ご存知でしょうが、幼体の放つ魔獣は魔力持ち(ウェネーフィカ)から魔力を吸収する力を持っていますので討伐の際は普通の人間(アンスロポス)が適任ですよ」


「王都に現れた魔獣と対峙して改めて実感した。幼体の魔獣に対しては俺たち魔力持ち(ウェネーフィカ)は役立たずだ。君たちアンスロポスが魔獣討伐に必要な理由は今回の件で王都全体に知れ渡った。少しは理解者も増えるだろうな」


 魔石を眺めながらアランが言う。その言い方だとアランは元からアンスロポスが魔獣を討伐することに何の疑念も持っていないことになる。


 魔力持ち(ウェネーフィカ)は魔力を持っているから魔獣と戦うことは当たり前で普通の人間(アンスロポス)に対しては魔道具がないと何もできないと下に見ている人が多い。


 けれど、アランの口ぶりからすると私たちアンスロポスが魔道具を使って魔獣を倒す光景を見慣れているようにも聞こえる。


 まあ、王宮で師匠と会っていれば感覚は当たり前になるのだろうけど。


「アラン様は私たちアンスロポスが魔獣を討伐することに何か思うことはないのですか?」


 口をついて出た疑問。それに彼は驚くこともなく微かに笑って見せた。どこか懐かしそうに魔石を見つめて答える。


「昔、ずっと昔に見たことがあるからな」


「そうですか」


「気にならないのか?」


「気にしてほしいんですか?」


 私みたいに魔道具を使う人がいても不思議ではないし。


 少しだけ彼が見せた懐かしむような表情になぜか胸の奥に針が刺さったようにチクリとしたけれど、気のせいだ。


 きっと普段喋らないことを話したせい。


 誤魔化すように返してしまった言葉は戻らない。怒らせてしまっただろうか。


 アランをそっと盗み見ると今度は私の予想に反して困ったような顔をした。


「少しだけ、と言ったら君は困るだろうか」


 その顔はズルい。そんな言い方をされたら誰だって勘違いする。いつの間にか胸の痛みは消えている。


 けれど、代わりに鼓動が速くなるのを感じた。私は気を紛らわせるように眼鏡を掛けて魔鉱物の入ったガラス瓶を引き寄せた。


 サリーはまだかな? 随分と時間がかかってる気がするんだけど。


 魔鉱物を見つめている私にクスリ、と微かな笑い声が聞こえて顔を上げるとアランは再び資料に目を通し始めた。


 それからサリーが戻って来るまで彼は私の邪魔をすることはなかった。


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