第20話 謙虚とかじゃないです!
ウォード家へ引っ越して以来パーティーに備えて貴族たちについて覚えたり、マナー講習、ダンスの練習等が日課になっていた。
時間の使い方に慣れてきてようやく私たちは工房で研究を始めることが出来た。
「はぁー。やっとまともに研究できる! サリー見て新しい魔石!」
「あー、はいはい。嬉しそうな顔しちゃって」
ロズイドルフ領内なだけあってウォード家に仕える使用人たちも当然魔力持ちだ。
屋敷にきて少しした頃、アリス同様に使用人の中に魔力暴走を起こしかけた人がいた。
彼らはアランたちと違い、私たちアンスロポスに対して距離を置いているように感じていた。
アランの婚約者だから距離は置きつつも最低限接している、という状態が続いていた。
そんな中で突然の魔力暴走。テリブの森にも行けず魔石、魔鉱物の調達ができないもどかしさを感じていた私はこれ幸いとすぐさま治療を開始した。
私は久しぶりの新しい魔石に興奮しつつ回収したミント色の魔石を眺めていると、一人の使用人が声をかけてきた。
「カレナ様」
「わぁ! っと、と。なんでしょうか」
驚いた拍子に魔石を落としそうになった。声をかけてきたのは使用人の長であるトムさん。
五十代後半でジェームス様たちの信頼も厚い方だ。トムさんは深々と頭を下げた。
「コリンを助けていただき、ありがとうございます。このご恩は……」
「ちょ、ちょっと待ってください。重いです。恩とか全然必要なくて、私は魔石が欲しくてアフェレーシスをしただけなので、この魔石を貰えればそれで充分です」
「なんと謙虚な」
いや、謙虚とかじゃなくて! 勘違いしているトムさんにツッコミを入れそうになるのをグッと堪える。サリーは私の後ろで笑いをかみ殺していた。
「カレナ様、ありがとうございます」
トムさんの後ろに控えていたコリンも深々と頭を下げてきた。アリスと似た年齢の少年からのお礼の言葉もむずがゆい。
というか、魔石欲しさに治療しただけなのでお礼を改めて言われると居たたまれない。
「ねえ、サリー。これどうしたらいい?」
「私に聞かないでよ。私だってわからないんだから」
「そこをなんとか!」
「えー。じゃあ、美味しいお菓子と紅茶でって言ってみたら?」
「それだ!」
小声で相談した私はサリーのアドバイス通りにトムさんにお菓子と紅茶を頼んでみた。研究には頭を使うから甘いものはあって困らない。
提案するとトムさんは目元の皺を深くし、コリンは元気いっぱいに返事をして厨房へ向かった。




