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第18話 夜の散歩

引き止めることなく外に出られた。本来の行き先は工房だったのだけれど、どうしてこうなった。私は今アランと共に夜の庭園を歩いている。


 さすがは侯爵家の嫡男。女性のエスコートも完璧だ。


 夜の庭園は昼間と印象が異なりまるで彼のようだと思う。虫の鳴き声を聞きながらゆっくりと歩く私たちに会話はない。


「疲れたんじゃないか?」


「え、ええ。急な婚約話に引っ越しですから、さすがに疲れました。フィールドワークしている時はそうでもないのに」


「慣れないことだからだろう。それなのに外の空気を吸いたいなんて。まさかとは思うが、こんな時間に工房へ行こうとしたんじゃないのか?」


「うっ」


 鋭い。図星を指されて私は声を詰まらせた。何でバレたんだろう。ここは正直に白状するべきか誤魔化すべきか。


 悩んでいる私の隣で笑いをかみ殺している声が聞こえる。見上げると笑いを堪えている彼がいた。


「すまない。君は変わらないな。アリスから聞いてはいたが、やはり君は君だ。魔石や魔鉱物のことが優先で他のことが目に入らない」


 笑う彼に不覚にも見惚れていた私はふと彼が零した言葉が気になった。


 アランとは昨日が初対面のはずだ。彼の口ぶりは過去に一度でも私と出会っているように聞こえる。


「あの、アラン様……っ」


 疑問を口にしようとした途端、吹いた風に目を瞑る。外は少し肌寒くネグリジェのまま外に出た私は無意識に両腕を擦った。


 そんな私に彼が自分のジャケットをかけてくれる。


 これは貴族にとって当たり前の行為なのだろうか。驚きと彼の優しさに触れて聞こうとした言葉が飛んでしまった。


「ありがとうございます」


 なんとかお礼を紡いだ私はこちらを見て柔らかく微笑む彼と目が合う。


 鼓動が跳ねた。頬に熱が集中していくのが分かる。今が夜で、外で良かったと思う。


「君は俺のことが怖くないのか?」


「え?」


 突然の問いに別の意味で鼓動が跳ねた。今日の昼までは怖い印象を抱いていたのは確かだ。けれど、今は違う。


「いや。すまない。今の問いは忘れてくれ」


 顔を背ける彼に私は今返答しなければと思った時には彼の手を掴んでいた。


「正直に言います。初対面と今日の昼までは怖いと思っていました。噂も冷酷と聞いていましたし」


 表情があまりないように見えていただけで、彼の事を知れば感情の動きが分かるようになってきた。現に目の前の彼は少し落ち込んでいるように見える。


「でも、今は違います。だって貴方は帰宅直後で疲れているのにもかかわらず私に付き合ってくださっていますし、こうして気遣って上着を貸してくださいます。怖いと思うのは相手を知らないから。師匠の受け売りですけど」


 相手に伝わるように、彼の落ち込んでいる表情が明るくなるように伝えた。

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