第176話 太古の魔石獣の血液
落ち着きを取り戻したルネがそっと息を吐きだした。目元が赤いルネは場所を移動しようと提案してくる。
「カレナ、そしてアルベール。二人にちゃんと話すね。私たちが太古の魔石獣について調べていて分かったこと、そしてアレを殺すためとはいえ私たちがウェネーフィカたちへ行った非道のこと」
私は喉を鳴らした。そうだ。師匠たちとの考察であがったアフェレーシスができる人を探していたのがセオドアだ。
その目的は太古の魔石獣を目覚めさせて殺すこと。
アフェレーシスができる私を特定するために暗躍していたのがセオドアなら魔力暴走を引き起こす薬を配っていたことになる。
となると、ヘイエイのような人工魔石を埋め込まれた魔石獣を作ったのもセオドアたちってことか。
でもなんでアルベールも関りがあるの? まあ、聞けばわかるわよね。
「いいわ。聞かせて」
「うん。セオドアもいいよね」
「……ルネがいいなら良いよ」
私たちはルネの案内の元、応接室へと移動した。シンシアとユーベルが紅茶を用意して戻り、私たちの前にティーカップを並べた。
注がれる紅茶の色は薄い。というか、ユーベルってトフス領の領主じゃなかった? アリスが言うには侯爵家だっけ。
侯爵家の領主様だけどシンシアと共に紅茶を淹れる所作は完璧でボロを出すことがない。
「ありがとう。シンシア、ウィリー」
礼を述べる私にシンシアが黒い瞳を丸くする。けれど、すぐに表情を隠して距離を取ってしまう。
ウィリーいや、ユーベルに関しては興味深そうに双眸を細めるだけで同じようにシンシアの横に立った。
この人はルネの話を聞いて情報を得るつもりでいるんだろうな。
「紅茶、薄いでしょ。クッキーだってシンシアたちが工夫して作ってくれているけど、材料が不足しているの」
手に取ったクッキーは形を保てずにすぐにほろほろと崩れてしまう。それでもルネは片手を添えて小さなクッキーの欠片を口に含んでシンシアに微笑んだ。
「太古の魔石獣が魔力を吸い上げるから作物があまり育たないのね」
ルネが頷いた。作物の発育が悪い土地になってしまったツバリナ領はブラッドリーの命で財を使って他領から材料を買い取っていた。
買い取った材料や資材は領民へ配布していたけれど、それもそろそろ尽きてしまう。だからセオドアもルネも焦っていたのかもしれない。
紅茶を一口飲んだルネは静かに息を吐きだした。
「さっき太古の魔石獣を見てきたんだよね。太古の魔石獣の足元は見た?」
「ううん。まだ見てない。私が見たのは太古の魔石獣の眼だけよ。青い瞳に中央がルビーみたいな赤色だった」
眼を見たところで太古の魔石獣がアルベールに魔力暴走を引き起こしてしまったから私たちは途中で撤退した。
あとは氷のような水晶のようなものに閉じ込められていたことしか分からない。もっと近づけばわかったのかもしれないけど。
「そっか。あのね、太古の魔石獣の足元だけ透明な石が砕けてるの」
「足が露出しているってこと? って、待って。太古の魔石獣が閉じ込められているのは透明な石なの!?」
私はアルベールに使った余りの透明な石をルネに見せた。
「うん。だからカレナがアルベールの治療に使ってた透明な石を見てびっくりしちゃった」
透明な石に閉じ込められた太古の魔石獣。でもなんで透明な石に? いや、今はそうじゃなくて。
「露出した太古の魔石獣の足がどうしたの?」
私の問いにルネが視線をセオドアとアルベールに向けた。
「そこは僕が説明するよ」
今度はセオドアが口を開いた。露出した太古の魔石獣の足に気付いたセオドアとルネは生態を調べるために足から血液を採取した。
色は他の獣と同じで赤。
成分もほとんど普通の生物と変わらないけれど、異なる点が一つあった。
凝固した血液の欠片を吸い込んだ城にいたウェネーフィカの執事が魔力暴走を起こしてしまった。
「太古の魔石獣の血液には魔力暴走を引き起こす力があった。だから僕は……」
アルベールを見たセオドアが頭を下げる。
「石化の魔力を持つアルベールに太古の魔石獣の血液を石化させたんだ」




