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第174話 ルネの正体

 レティーシャの魔石を砕いて眼鏡のレンズにコーティングしてみたけど、なんとか成功してよかった。


 アルベールの石化の力はレティーシャの無効化の魔力のおかげで眼鏡をかけている間は石化の力が発動していない。


 いや、実際は常に発動し続けているんだろうけど無効化されているんだ。


 ただコーティング剤を塗っただけの簡易な魔道具だからここから無事に出られたらグリアに作り直してもらおう。


 でも、その前に。


 私はアルベールを信じられないものを見るような目で見つめている碧眼二人に向き直った。


「さて。セオドア、アルベールの魔力暴走も無事治まったし。あなたに聞きたいことがあるの。正直に答えてくれる?」


 問うた私にセオドアが答える前にうつむいてしまったルネの肩が震えた。


「ルネ?」


 気付いて声をかけると、ルネが顔を上げた。ルネの瞳が潤んでいる。今にも泣き出しそうな顔で、けれど泣くまいと必死に堪えている。


「なん、で?」


「え?」


「なんで……、っ!」


「ルネ! ダメだ!」


 聞き返した私にルネが口を開く前に慌てた様子のセオドアが止めようと声を張り上げた。それでもルネは止まらない。


「……なんでもっと早く来てくれなかったの? カレナがいてくれたら今みたいに魔力暴走だって鎮められたんでしょう?」


 ルネの頬を透明な雫が滑り落ちた。一度決壊してしまった涙は自分では止められないのか、ルネはぽろぽろと涙をこぼした。


「ルネ」


 涙を拭おうと伸ばした私の手をルネが払う。手がひりひりして痛い。


「カレナがもっと早く来てくれたら王妃様は……っ、お母様は死ななかったのに!」


「ルネ、落ち着け。悪いのは僕なんだ。カレナは悪くない。責めるのは筋違いだよ」


 泣き出してしまったルネは迷子の子どものようで、セオドアの言葉も届かないみたい。


 でもそっか。やっぱりルネはブラッドリーの娘でこの国の姫なんだ。


 なんで研究員としているのかは後で聞くとして、今はルネを落ち着かせないと。


 だいたいこの国には強制的に連れてこられただけだし、言いたいことはあるけど、目の前で泣いている人を放ってはおけない。


「うっ……、ひっく、分かっ、て、る。分かってる」


 嗚咽おえつ混じりのルネは袖で何度も涙を拭っている。


「ルネ」


 私の声にルネの細い肩が揺れた。ルネを庇うようにセオドアが前に立つ。


 セオドアもルネが王族だって知ってるってことは身内なんだろうな。止めようとしてたし。


「僕が話すから。いいよね、ルネ」


 同意を求めるセオドアにルネが小さく頷いた。


「今の話でルネがブラッドリー様と太古の魔石獣に取り込まれた王妃様の娘だってことは分かったよね」


「ええ、さすがにね」


 私は肩をすくめた。ここまで情報を出されて気付かないほど鈍くはない。


 たしか王妃様は太古の魔石獣に魔力暴走を引き起こされてそのまま取り込まれたんだっけ。

 その瞬間をブラッドリーとルネが見ていた。ルネは目の前で母親を失っていることになる。私は未だに溢れてくる涙を拭っているルネを見つめた。


 下手な慰めの言葉すら出ない。


「王妃様が太古の魔石獣に取り込まれた日から僕もルネも変わったんだ。僕たちは太古の魔石獣を殺すことを誓った」


 セオドアが言うには、ルネはウェネーフィカの母親を持ちながら純粋なアンスロポスで太古の魔石獣に近づいても魔力暴走を引き起こすことはない。


 だからルネもセオドアも毎日のように憎い太古の魔石獣の元に通い殺すすべを探っていた。


 それでも糸口は見つからず、そんなとき魔力暴走を鎮めることができる人がいると噂を聞いたらしい。


 だけど、噂だけで詳細が分からなかったセオドアはウェネーフィカの領へ研究員として潜入して、ルネは城に残って太古の魔石獣を殺すための研究を続けていた。


「ルネが魔石の研究をしていたのは」


「アレを殺すためであって決して楽しみなんてなかった」


 涙に濡れた目で私を見据えるルネは拳を爪が食い込むほど強く握りしめている。そうは言うけど、人工魔石を作っていたルネの表情に苦痛の色は見えなかった。


「でも、私が見た魔石を扱うルネは楽しそうに見えたわ」


 ルネが息を呑んだ。


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